第135話 力の交差
ガキイーッ!!
金属のぶつかり合うような音が響き鼓膜を揺さぶる。ホサマンネンさんの渾身の拳も流石の体格差の前に止められてしまったようだった。
頑丈さだけを武器にしてきた男の体当たりが止められてしまっては最早なす術もない。
幸いなのは、魔法により強化されたホサマンネンさんの身体に傷らしい傷がない事だった。
「タケル、コレを……」
メルが俺にタオルを手渡した。
特に汗はかいてないんだけどな……
って、あれか! ボクシングで負けを宣言する時に投げるタオルかよっ!!
こっちの世界のルールじゃないよな、だとすれば……
案の定アリサは、俺からの目線を外らせている。
アイツの入れ知恵に違いないのだ。
どちらにしても勝ち目が薄いのは事実だ。もしもの時は、止めなきゃな。魔族の生きてきた環境は実際そんなに甘くないんだと思う。力なき者は、淘汰されても仕方が無いという考え方は、当たり前なのかもしれない。
「タオル様、そのタケルは私が預かります!」
覚悟を決めたように話すクラッカルだが俺の名は、タオルじゃ無いと言いたい!
なんか前にもこんな事あったような。
というかそもそもタオルを投げても向こうに伝わらないと思う。
「タケル、不思議に思うんだが、ホサマンネンはどうして剣を使わないんだろうか?」
「リンカも気付いてたか、俺もそれは考えていたんだが、悪く考えるなら負けた時の言い訳として使わない、逆に良い方に考えるなら相手が武器を持たないから武人として自分も素手で闘うみたいなところかな?」
ふむとアゴに手を当てて考えるリンカは、思い当たる節があるのか壁に突き刺さったままの大剣に目を移した。
「タケル、単なる推測だけど届かなくて取れないからじゃないだろうか? ソフトロックなにがしが武器を持っていない事は試合開始前に分かっていたことだと思う。それにも関わらずホサマンネンは、剣を担いで行った。使う気はあったんだと私は思う」
リンカは、わりと周りの状況を分析出来る奴だ。なるほど言っていることの意味は、辻褄が合っている。
俺は、少し誤解していたと言うよりも忘れていたのだ。ホサマンネンという男の最大の武器が何であるかと言うことを……
「臆病な承認欲求の単細胞生物です……お兄さま」
最早人類じゃないよ、それっ!
アリサの言うことはもっともだが余りにストレート過ぎる。と言うかなんで俺の考えが読めたんだ!
「アリサ、いくらなんでもそれはヘコむよ。もうちょっと言い方があるだろう」
「リテラシーを捨て去ったチキンハートの欲しがりや?」
意味変わってねえよ! でも本人に聞こえて無いから別に良いけど……
「確かにそれもあるけど、ホサマンネンさんの良いところはあの往生際の悪さだと思ってるんだ。爽やかなガッツ感じゃ無くてもう執念に近いみたいな」
ずっと上を目指して来た彼には落ち着いた立ち位置なんて無縁だったのだろう。だからこそいつも認められたいと渇望している。泥臭いまでの卑屈なやり方しか出来ないのは不器用だけど自分の事を良く分かっているからじゃないだろうか? ならば結果を出す為に手段は選ばないはずなのだ。
「かなり濃いなその執念……」
リンカは、渋い顔でホサマンネンさんを見る。
「ああ、ブラックだ!」
やはり良い感じのフォローは、出来そうもないが壁から剣を落とすぐらいのことはしてあげたい気はする。
何か不自然じゃない方法は無いかと頭を捻る。直接武器を手渡したとしたらヤッパリ手伝った事になるよな。メルの魔法で何とか誤魔化せないかな。
「メルっ! ちょっと付き合ってくれないか?」
「うんっ、べ、べつに結婚前提でもいいけど……」
いちいちクネクネするのは、やめて欲しい!
てか付き合うってそれじゃねえし!
お陰でめっちゃ魔王様が、俺を睨んでいるんだけど……
む……! これだっ!
俺は、この得体の知れないクネクネダンスを披露している魔女っ子の頭を撫で回した。
それはもう髪の毛が巻き髪になるくらいにぐるんぐるんに。
「えへっ、タケルなんだか優しい……ね」
メルは、過剰な頭ナデナデにもかかわらずご満悦なご様子だ。
来るぞっ!
俺が、孫バカ(魔王)をチラリと見た瞬間、超高速のいや光速の魔弾が三本の矢となり俺を襲う。
と言うかなんで三本!?
別の二本は、クラッカルそしてリンカの魔法剣から放たれたものだった。イラッとしたという理由だけであの人達は平気で全力魔法をぶっ込んでくる。アリサですら召喚獣呼び出し中だった。
これ流石にまずいんじゃないの、死ぬの俺っ?
「おごっ!」
自分で言うのもなんだが、それは見事に俺の体を貫きそのまま美しい放物線を描きながら宙へと跳ね飛ばした。
いまタオル投げなくていいっつーの! メルっ!
ソフトロックの遥か頭上を越えて飛ばされた俺は、先程ホサマンネンさんがめり込んだ場所の近くの壁面に叩きつけられようとしていた。
だが所詮方向だけを合わせた運任せ、剣がめり込んでいる場所には僅かに届かない。
しかし振動で落ちないかと僅かな期待にすがる俺に4本目の閃光が迫る。
アリサの召喚獣ライハルトゲルマターク、あだ名はライちゃんから放たれたものだった!
ライちゃん、グッジョブと素直に喜べない状況下の中、見事に軌道修正が行われ剣へと向かう俺の体。3人プラス1魔王(孫バカ)の魔力で壁に叩きつけられて派手に壁が破壊される。
大丈夫か俺……と言うかほぼ仲間の攻撃じゃん!
薄れゆく意識の中で何か大切な事に気が付いたのだが伝える自信は、全く無かった。だが……!
「ホサ……マンネンさん……あた……ま……くさ……い……」
最後の力で伝えた俺の言葉は……
ただの悪口でしかなかった。
いや間違ってないけど……
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