第132話 躍動する筋肉
ドンドンドコドコ!
ドコドコドンドン!
メルは、叩いていた……お腹を……
「起きろっ! ホサマンネン! 起きないとあたしが怒られるんだよ!」
メルは、反省のかけらもなさそうだ。
俺は、ガッツリとメルの頭を鷲掴みにしてギリギリと力を入れる。
「ああっ! なんか突然謎の頭痛が! いた、痛あーーーーい!」
「どうしてくれるんだよ……メルさん。ホサマンネンさんが戻って来られなかったら」
「待て、タケル! ホサマンネンは、まだ微かに生きてるぞ!」
海岸に打ち上げられた瀕死の珍生物扱いかよ!
リンカの言い方も大概だ。
「当たり前だ! 死んでたら大問題だ!」
面白がって近くで観察していたアリサは、突然蒼ざめた顔で俺の元に駆け寄って来た。
「お、お兄い! 珍獣の呼吸がと、止まっている」
ええっ! お兄いって呼び方なんだよーと言うツッコミが、消し飛ぶ程の緊急事態が起こってしまったのだ。
ひとまず落ち着け……ひっひっふー、深呼吸をする俺。
「こんな時は、人工呼吸が必要ですわ」
余計な知識を振りまく王女クラッカル。しかしこのままホサマンネンさんが目を覚まさなければ全てが灰燼に帰す。
元はと言えばホサマンネンさんに『みどり汁(魔女ごろし)』を飲ませたメルが悪いのだが、この流れは俺にとって分が悪い。
「タケル、このままじゃ全ての努力が怪人にキスだよ」
うおおおおおっ!! 字が違えだろーっ! ぜってえわざとだ。ぶっ飛ばすぞメル!
そうこうしている間にも次の対決の時が迫っている。どうする俺! この眠ったままの怪人とのラブコメが、始まるのかよ!
マウスツーマウス
それは、呪いの呪文に聞こえる、聞こえる、聞こえる……
俺は、もっとも有効な方法が何なのかも考えられぬ程、動揺していた。
くっ! しょうがねえーーーーーーっ!
ホサマンネンさんの顔に自分の顔を近づける俺の気持ちを察してほしい。
遂に一線を越えようとしたその時……
バジーーッ!!
激しい閃光がホサマンネンさんの身体を駆け抜けた。と言うかカミナリの魔法だ!
メルは、魔力の余韻を残して佇んでいる。
「あたしの全力だよっ!」
全力で撃つなよ! おいっ!
しかし、それが幸いしたのかホサマンネンさんは何事も無かったように跳ね起きた。メルも一応手加減はしていたようだ。
「しまったっ! 私とした事がウトウトと船を漕いでしまった!」
いや、あんたが漕いでたのは三途の河を渡る船だよ!
「よかった、本当に良かった!!」
俺は、涙目になりながらホサマンネンさんの手を握る。
「タ、タケル隊長殿! 居眠りをしていた私をそんなにも、し、心配して頂くとは……グスッ」
ホサマンネンさんは、感極まり言葉に詰まる。
本当、本当にに良かった……別の意味でだけど!
「そう言えば対決はどうなったのでしょうか?」
ホサマンネンさんは、いつになく緊張した面持ちで俺に問いかけた。次の対戦があるのかどうかは彼にとって屋台骨を揺るがす程の一大事なのだろう。
「それが、惜しいところで……」
「そうでしたか……いや、このホサマンネン、タケル隊長の気持ちに報いる為にも必ずや勝利をもぎ取って見せましょうぞ! バルセイムでの祝賀会が楽しみですな!」
余計なフラグを立てるホサマンネンさんは、全身の筋肉をぶるぶると震わせる。
おお! これが、いわゆる筋肉ウェーブというヤツなのか!
今や闘争心の塊と化したホサマンネンさんは、改めて対戦相手のいる闘技場の中央を見据えた。
つられた俺も目線の先を追う……
「ええええっ! でけーーーーーーっ!!」
空いた口が、塞がらないとはこのことか!
中央にまさしく仁王立ちしていたのは岩のような外皮を持つ巨人だった。
マジかよ!
その大きさは、門番の巨人たん程ではないが、閉ざされた空間でこのサイズはとてつもなくデカイように見える。
例えれば、家電量販店で展示されていた手頃なサイズのテレビが、いざ家に設置してみたら想像よりもずっと大きかったみたいなあの感覚だろう。
「勝てるのかこれ……?」
俺が、思わずホサマンネンさんに視線を移すと他の仲間達も同様に彼を凝視していた。
ぶるるるるるるるるるるるるるるる!
筋肉ウェーブ!?
ホサマンネンさんの全身の震える筋肉は、音を奏でながら躍動を続ける!
おおっ! 先程の勝利宣言は、嘘じゃなかったんだ!
初めてこの人を頼もしいと感じた。
「タケル隊長殿っ!」
「わかってますよ! ホサマンネンさん!」
男、いや漢の熱い想いが、伝わらない訳がない!
「めっちゃ、怖いんですが……」
怖いんかよーーっ! おいいっ!
どうやら普通にビビって震えているだけだった件……
最後の対戦に大きな影ぼうしを落としたまま、しんみりと闘いは始まった……
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