第122話 マッスル筋肉ンダム

「ふふっかなり若いね、いや歳や外見など関係あるまい。そうだろう、タケル殿」


 ザナックスと思える男は、俺を興味深く見つめる。俺に対して敵意があるのかどうかもその表情からは、うかがえない。


「あなたはザナックス隊長なんですか? それとも……」


 俺が驚くのも無理はない。元国王軍隊長ザナックスは、密かに潜入していた魔族の手によって命を奪われたはずなのだ。この目の前にいる男が何者であるのかは、まだ分からないがザナックス本人である確率は低いように思える。


「外見など関係ないと言った筈だっ!」


 俺の言葉に反応するかのようにその男は剣を抜き素早く振り払った。当てようとする動作ではないが明らかに威嚇の意味合いがあるように思える。


 警戒を感じリンカは、腰元の剣に手を掛ける。

 それを制した俺は改めて目の前の男の挙動を伺い、場に緊迫した空気が張りつめた。


「タ、タケル隊長〜っ! 私めがお迎えに参上つかまつりました〜っ」


 突然の馬鹿でかい声に場の緊張が解かれる。いや、その声の主の熱情にあてられたのかもしれない。と言うか暑苦しいよ!


「どうしたんですか? ホサマンネンさん!」


「ややっ、タケル隊長、もう目覚められていたのですか! 私が起こして差し上げ……ぎゃーーーーーーーーーーっ!! お、おばけーーっ! ザザザザザ、ザナックス!?」


 どうやらホサマンネンさんの頭の中には大津波が起こっているらしい。だが確かめなければ亡霊となんら変わらないのは、同感だ。


「貴方は一体何者なんですか?」


 俺は、また先ほどの質問を繰り返したのだが、本人ではなく明後日の方向から返事が返ってきた。


「お忘れですかタケル隊長、ア、アレは前隊長のザ、ザ、ザナックス殿の悪霊です! そうに違いありません!! でもご安心下さーい! はあああーっ! えいっ!」


 勝手に熱弁を振るう肉塊は、躍動する筋肉の腕をクロスし十の字を作り、さらに一歩後ろにステップした。というかどっかで見た動きだけど流行ってんのコレ!


「タケル隊長、もう大丈夫です!」


 親指を立ててイイね! をするホサマンネンさん

 いったい何が大丈夫なんだよっ! 何度も言うけど、この世界にヴァンパイアはいねぇから!!


「くっははははっ! ゴーレム並みの兵士がいるとはバルセイム王国も大したものだ!」


 とホサマンネンさんに冷ややかな視線を向けるザナックス風の男。知能の高さを示唆しているのだろう、これは明らかな侮蔑だ。


「ふほっ! これは、お褒めに預かり光栄です! 私のマンネン・クロスを受けても全く動じ無いとは貴方もなかなかのものです!」


 なんだマンネン・クロスって!

 いや、アンタ褒められてないから!

 こちらが万年苦労する予感しかしないよ!

 もう相変わらずのポジティブシンキングならぬポジティブ珍筋肉というしかない。


「やれやれ、皮肉も通じないとは、これは可哀想な珍獣だったかな」


 その言葉にようやく反応して、マッスルクエイクを起こし怒りをあらわにするホサマンネンさん。


「この亡霊がっ! よりにもよってタケル様に珍獣とは何事だ!!」


 俺のことかよ! ちげえーだろ!!


「ホサマンネンさん、ちょっと引っ込ん……下がっててもらえますか。恐らくあれは、悪霊でも亡霊でもありません。そしてザナックス隊長ですらないでしょう……」


「と言いますと? ややっ! はっ! まさか……!」


 どうやらこの城の重鎮ならぬ文鎮として永らく勤め上げているホサマンネンさんも気付いたようだ。


「どうやらそのようですな、タケル隊長! 」

 目線を合わせ互いに頷く俺とホサマンネンさん……


「ええ、恐らくは……」

「コスプレですな!」


 何でやねん! まったく見当違いも度が過ぎれば笑いを誘う。


「ふふふふふっ、くすくす」


 ほらねっ、って笑ってるの後ろの味方じゃん!


「ホサマンネンも意外にユーモアがあるじゃん、あはは」


 微妙に評価してるけど、何で上からなんだよ! メル!


「ぷはっ! ダメだ! ワザと言ってるならランキング上げないと」


 何のランキングだよ、リンカっ!

 アリサなど震えて笑いを堪えているが……


「貴様ら! 少々、悪ふざけが過ぎるようだな!」


 あれ、どうもザナックス風の方の機嫌を損ねたようだ。とてつもなく嫌な予感がする。


 ザナックス風の男は、膨大な量の魔力を剣に注ぎ込んでいる!


「ちょっ、こんな所でその攻撃は、やばいだろっ! あんたを笑ったわけじゃねえっ!」


 叫んだ声は、全く届かず奴の動きは止まらない。

 俺の嫌な予感は当たり、ノンビリ構えていられない。こちらも迎撃して相殺するしか……


「おやめなさい!」


 俺が剣に手を伸ばした瞬間、場を圧倒するかのような声が耳を貫いた。その声の主は、姿を現し、今度は、落ち着いた口調で語り掛ける。


「バスセイム第一王女クラッカルの名において命じます! 直ちに戦闘を解除して剣を収めなさい!」


 不満そうな顔をしながらもザナックス風の男は、素直にクラッカルの命令に従った。それどころかクラッカルの前に跪き深く頭を垂れた。


「クラッカル王女、これはどういう事なんですか? 彼はいったい……」


 クラッカルは、この男ことを知っているのだろうか、そして彼の外見は、なぜ?


「ええ、彼は元々この国の兵士なのです。訳あって長く謹慎の身となっていましたが、ようやく戻って来れたと思った早々、この有様です」


 ふう、と溜め息をつくクラッカル。再び口を開き皆の疑問に答える。


「彼の名は、ボーレーン。元国王軍隊長ザナックスの双子の弟なのです……」































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