第99話 四天王あらわる!

 魔王軍への対策会議が終わり、その日のうちにホサマンネンさんを中心として兵士達の強化プログラムが組まれた。プログラムの内容は食事にまで及びタンパク質の摂取、特にローカロリーの鶏肉を取るよう指導された。まずは、身体を引き締める事で兵士にとって必要な活動能力の向上を図るのが主な目的だ。


「タケル隊長殿! ワイバーンは、鶏肉に含まれますか?」


 ホサマンネンさんが、心底どうでもいい質問をちょいちょい投げてくるので、時間が掛かる。


「ああっと、羽が生えていれば鳥でいいですよ」


 適当に答えるのだが、これだと昆虫も鶏肉に該当する。でもまさかな……




 個々の訓練は、むしろ弱点を強化するのではなく得意な分野を伸ばすよう組み立てられた。残り日数を考えると、のんびり時間を掛けて弱点を克服している暇はないのだ。


 打ち合わせを終えて訓練が順調に行われている事を確認した頃には既に陽も傾き夕食の時間になっていた。


「しかし、タケル隊長は、朝からどれくらい激しい訓練をしていたんだろう……」


「だよな、あんなに顔をボコボコにしてまで実践訓練をするなんてきっとストイックな人なんだよ」


「いや、凄いのは、あの髪型だよ。細かいウエーブのかかったお洒落なデザインは、兵士の荒くれたイメージを変えて士気を高めようとするアイデアに違いないよ」




 若い兵士達の噂話が、ちらほらと耳に入ってくるのだが、そんなステキな武勇伝であるはずがない。今朝の俺の悲劇を思い返すと薄っすらと涙が滲んでくる。本当に酷い目にあったんだからね。俺の脳裏に焼き付いた記憶は、再び再生されていた……



 ◆◇◆◇



 今朝の会議の後、すぐに自分の部屋に戻った俺を四天王が待ち構えていた。最短ルートで来たはずなのに優秀すぎるだろ、お前ら! その四天王は、カチリという音と共にドアの鍵を掛け、ゆっくりと俺に詰め寄ってくる。


「いやぁ、まいっ……」


 話半ばで顔に強烈な打撃を受け、ふらつく俺の足元。どんな凶悪な敵でも少しは、話を聞いてくれそうなものだけど……四天王のひとりヒナは、それを許さなかった。


「お兄ちゃんの話は、後で聞くから今はお願い!」


 なんのお願いなんだよ! 後から釈明したって手遅れだろう! おもに俺の寿命がな……


「はううっ……」


 よろけた所に今度は、リンカの張り手がクリーンヒットした。スローモーションであれば俺の頬が白玉団子を茹でる時に付けるくぼみのような形になっているのが確認できるはずだ。


 駒のようにくるくると回転しながら、アリサのカカト落としが頭上に迫るのを見ながら俺の意識は完全に途切れた……





 どれくらいの時間がたったのか?


 気が付いた俺の頭は、柔らかいものの上に乗せられていた。なんだか懐かしいような、それでいて何度も体験したような心地良い感覚。そうだこれは間違いない! 誰かの膝枕なんだ!


 いったい誰がっ? いや、いや答えは出ている、おそらくヒナに違いないよな。このメンバーだとヒナしかいない!


「ヒナーっ!」


 確信を持って膝枕の主を抱きしめる俺。


「ふふっ、タケル様、まだ早いですよ。私は、構いませんけど……」


 この声!? そしてこの良い香り……記憶にある。


「あわわっ、ク、クラッカル……様。ど、どうしてここに?」


「ええ、この前のお話の続きをと思って。だけどタケル様がグッタリと倒れておりましたので気が付かれるのを待っておりました」


 我に返って周りを見るとヒナ達は、俺を囲んで床に座っていた。何故か全員ジト目だが……


「お兄ちゃん、ごめんなさい。でも、ちゃんと訳を話してくれてれば……」


 ヒナが、俺から眼をそらしつつも謝った。他の三人も続いて俺に謝りの言葉を述べた。


「タケル、その、知らなかったとはいえ、覚醒モードでやっちゃった。ごめんなさい」


 やっちゃったじゃねーよ、リンカ! 確実に命取りに来てるよソレ!


「すまない、お兄ぃ、あたいのかかと落としではまだまだトドメはさせなかった」


 誰だよ、お兄ぃって! と言うか本当にあぶねえ奴だな、アリサっ!


「ごめん、タケル」


 あれっ、メルは何もやってないよな、謝らなくてもいいんじゃね?


「なあ、メルは、何もしてないよな? だったら謝る事なんてないだろ」


「いや、それがその、にゃははっ」


 ど、どうにも嫌な予感がする……

 他の奴らも俺と眼を合わすどころか、そらしたままだ。


「あのぅ、お兄ちゃん、その格好でクラッカル様に抱きついているのは、いけないと思うんだけど……」



「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」



 全裸だった!



 確実にメルの仕業だよな。焦げ臭い匂いがするところから考えると、どうやら、この鬼畜は、気絶した俺に炎の魔法を放ったらしい。服は燃え尽き髪にチリチリのパーマがかかっている。どうするんだよコレ!


 慌ててクラッカルから離れて部屋の隅に隠れる俺の怯えた姿。


「皆んな、見ちゃった?」


 全員が、ハッキリと頷いた。


「うわあぁぁぁぁぁっ!」


 昨日の夜、俺とクラッカルは、密かに部屋で待ち合わせていた。極秘にゆっくりと話が出来る場所が必要だったのだ。内容は、この国に隠されている『時のグリモア』に関する事だった。だが今は、どこにあるのかわからないそうなのだ。


 手掛かりがないかクラッカルから話を聞くのが俺の目的だった。本人にもあまり情報が無く、思い当たる文献を探してもらえる事になったのだが、カイニバルのような魔王軍が城の人間に紛れていないとも限らない。内密に事を進めなければならなかった。勿論、他の仲間達にも話はしていなかった。


 クラッカルが、探してくれた文献を持って俺の部屋を訪れると倒れている俺とヒナ達の様子が見え、昨晩の事情を説明してくれたそうなのだ。




「タケル様、昨日の文献のお話なんですけど、ここでは無理そうですね」


 クラッカルは、俺の部屋のドアを指差した。


「へっ!?」


 俺は、眼を疑った。


 驚いた事にあのホサマンネンさんでも壊せない堅牢なドアが粉々に砕け散っていた。



「ふふっ、鍵が閉まっていましたので……」



 クラッカルって……いったい。

 俺は、この超美少女になんだか四人組と同じ匂いを感じてしまうのだった……

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