第92話 ハーレム建設中です

 ささやかな食事の席という俺のイメージはもろくも崩れ去った。広間一杯に広がった長テーブルに光沢のある布が掛けてあり、さらにその上に山ほどの料理と果物の皿が乗せられていた。

 立ち昇るスープの香りに普段ならテンションもはち切れんばかりに上がっていたはずだ。


 俺が広間に着いた時には既に仲間達はデーブルの席に着いてキョロキョロ料理を眺めていた。


「ささやかな宴でごめんなさい」


 クラッカルは、本当に申し訳なさそうに俺に言った。偽りの無い本心からの言葉なのだろう。

 本格的な宴なら一体どんな事になるのかを考えるとちょっと怖いくらいだ。


「本来ならドラゴンの丸焼きが出るのですけど今日はあいにく……」


 ええっ、ドラゴンって食用だったの!?

 丸焼きって、何人分だよ!

 俺は、カイニバルが変化した紫炎のドラゴンを思い浮かべた。



「いえとんでもありません。こんな豪華な食事を用意して頂きありがとうございます。国王様」



 俺は、恐らく先程の婚約の件が気になって寝床からピッタリついて来たのであろう国王様に礼を述べた。父親とは娘が可愛いものなんだな。ましてやクラッカル程の超美少女なら尚更だろう。



「いやいや、ろくな歓迎も出来ずすまんな。他の仲間の皆も世話になった様だな。国王として礼を言わせてもらわんとな。この国の窮地を救ってくれて感謝する」


 国王の言葉に皆は跪いて顔を伏せた。メルは跪くどころか正座して両手を床に付けている。土下座だよそれ、メルっ! 若しくはお殿様の前で、かしこまる時のやつじゃん。


「国王様、此度の計らい、誠にかたじけのうごじゃる。拙者どもありがたき所存につかまつりたもう候、にんにん」


 おい! めちゃくちゃだなメル!

 道理でデーブルに座っている時、ブツブツ言ってると思っていたけどこんな台無しのセリフ誰が教えたんだよ!

 こんな事を教えられるのは、ヒナだろうか?


 俺がまじまじとヒナを見ると何故かヒナは心配そうな顔で俺を見返した。さっきのクラッカルとの婚約の話を見透かされている? まさかね……

 俺は、自分の指にテレパシーを遮る指輪がはまっているのを確認した。


 と、とにかくメルにいらん知識を吹き込んだのはヒナじゃなさそうだ。だったら誰だ? 昔の日本の知識を持った奴なんて他にいるのか……


 他の仲間に眼を移すと一人だけ、うっすらと笑みを浮かべている奴がいた。


「なあ、アリサっ、お前なんであんな言葉を知ってるんだ?」


 これはほんの些細な俺の疑問だった。カマを掛ける意味合いもあった。


「ふふふっ、メルは本当に可愛いですね、お兄様。にんにんは、やり過ぎましたけど……」


 答えになってないし、喋り方違うから!

 アリサの口調は、むしろ始めて会った時に近い気がする。無機質な喋り方は演技なのか?


「本で読んだ。お兄様」


 やはり感情のない話し方だよな。

 俺の腑に落ちない顔つきにアリサは続けた。


「お兄様、私はハーフ。だから偶然お兄様と会った時、とても嬉しかった。こうして側に居られる事が本当に幸せです」


 アリサは少し涙目で頬を赤く染めた。


 ええっと、まあこの話はいいか。ハーフって何だろな、そうだ小ちゃいって事だな、きっと……あははは……

 雲行きが怪しくなり、俺は笑ってごまかしながら話題を切り替えるべくリンカに近付いた。


「なあ、タケルっ、そう言えば国王様に呼ばれた件って何だったんだ」


 ぎゃあーーーーーーーーーーああああっ!


 一番避けたかった地雷がここに埋まっていたのだ。あらためてヒナを見るとまるで睨むような怖い顔付きをしている。

 ど、どどど、どうする俺! 嘘をついてもクラッカルが全てを明かしてまえばさらに状況を悪くする。というか俺が危ない!


 こんな時、使い魔なら俺を助けて……

 マシュは、お腹が減っていたのか料理を貪り食べていた。ああーーっ、役にたたねーっ!

 あと、先に食べるんじゃないよ! 行儀!


 その俺の窮地に国王様の声が響いた!


「皆、タケルの事が気になっているようだが、この件、私から話そう。今回の皆の働きは我が兵士ども認めざるを得ない程の功績であった事は間違いない。よってクラッカルの進言による強い要望もあり、期間限定だがタケルをバルセイム国王軍の隊長に任命する事とした。で良いかな」


 さっき国王様とクラッカルがヒソヒソ話をしているのが、ちらりと見えたのだがこの事か。


 グッジョブ! カヌレル(国王)!


 考えてみれば利害関係が一致しているのは国王様だった。


「そ、そう言う訳だからみんな……」


 俺を見つめる仲間の冷たい視線……どうして?


「タケル、それを断るって話だったよな」


 グライドが俺に耳打ちした。


 はっ、そうだったよ! しかし最早、俺にとってそれは些細な問題なのだった。


「いやあ、期間限定だし、まあ、しょうが無いよね、グライド副隊長」


「ふ、副隊長だって、お、俺が、俺が!?」


「ああ、嫌ならアレだけど、俺はグライドの力を認めてるし、ここは、もともとお前の故郷じゃん、駄目かな?」


「いやいや、そこまでタケルに言われて断るようなら男がすたるでござる。にんにん」


 いや、お前もかよ!!

 にんにん要らないから!


 ひとまずもやもやとした疑念を漂わせながら、俺達は食事の席に着いたのだった……

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