第91話 クラッカルの決意

「い、いま、な、なんと言った、ク、クラッカル」


 それが、ようやく国王様の口から出た言葉だった。俺にしても寝耳に水とやらでクラッカルがドッキリを仕掛けたとしか思えない。


「はい、タケル……タケル様と結婚したいのです」


 はっきり、キッパリとクラッカルの言葉は、鼓膜に伝わった。


「ま、まあ、じ、冗談はそ、その位にして、ほ、本当のよ、よ、よ、要件を……」


 動揺し過ぎだよ、国王様!


 何があっても動揺しない筈の国王は、これ以上ない程、狼狽えていた。まあ、俺も理解が追い付かず言葉も出ないのだけど……


「冗談では、ありません! お父様! 私は生まれたままの姿を既にタケル様に見られているのですよ」


 な、なななな、何言ってんだクラッカル!

 殺気が伝わってくるんですけど、あなたのお父様から!


「おいっ、誰か銃を持て!」


 国王様は、躊躇なく俺にトドメを刺すつもりだ。


「待って下さい! 結婚なんてまだ俺考えてないですから……」


 俺は慌てて国王様に進言と言うか、誤解を解くための取っ掛かりを作ろうとした。


 そう、俺にはまだやらなければならない事があるのだから。


「なに! クラッカルでは、不服だと言うのか!」


 どっちなんだよ、国王様! アンタ結婚止めたいんじゃないんですか!


 俺は、慌てて声を振り絞り状況の回避をはかった。


「お二人とも聞いて下さい。 今は、このバルセイムの危機を救わねばなりません。クラッカル様が俺を気に入って下さるのは嬉しいのですが、本当の勇者ならこの国を救えるはずです。だからこの話は、まだ予言の書の勇者である事の証明が出来てない俺には資格が無いんです」


「でも私は勇者じゃ無くてもタケル様の事が……」


 カヌレル国王は、クラッカルの言葉を遮り、統治者としての威厳を保つかのような力強い言葉を発した。



「そうじゃ! バルセイムの民を救うのが優先だよ、タケル君の言うことが正解だよ。そうそう、いい事いうなあ。それでいこうじゃないか」


 そこに威厳はなかった……

 ここぞとばかりにまくし立てる並々ならぬ力強さは感じるけれど国王らしさは微塵も無かった。


 しかし、国民を救う事が優先と言われればクラッカルも渋々引き下がるほかないだろう。


「わかりました。ひとまずこのお話は保留に致します。今は婚約と言う事で……ねっ!」


「「はいっ!?」」


 俺と国王は、同時に声を上げた。

 どうやらニコニコと国王と俺を見つめるクラッカルの方が上手だったらしい。


 最初からクラッカルの策略だったのだ。国王にまず婚約を認めさせる為の……


「タケル様は、私の事がお嫌いですか? もしそうであれば潔くこの身を引く事に致します」


 クラッカルは、うるうるとした瞳を上目遣いにして俺を見つめる。

 こう言われれば断ることも出来ない。なんせ相手は一国の王女で超が付く美少女なのだから……


 結局なし崩し的に婚約も決まった様な形にさせられてしまった。この世界では俺の歳で当たり前に成人扱いされてしまうのだ。


「ふふっ、タケル様、これからも宜しくおねがいしますね」


 クラッカルは、嬉しそうに俺を見つめた……



 ザナックスが亡くなった為、盛大にとはいかないが細やかな食事の席が設けられた。


 俺は先に座って待っていた仲間達にこの事をどう伝えようか考えるだけで食事も喉を通りそうになかった……

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