第90話 超美少女のお願い
「お父様、いえ、国王様。折り入ってお願いがあるのですが……」
クラッカルは、王の寝室でバルセイム国王カヌレルと向かい合っていた。カヌレルは、心労がたたり今は病床についていた。俺は、クラッカルに手を引かれるままに寝室のドアをくぐったのだが、これからクラッカルが、どういう話をするのか予想はついていた。
だから、特に驚くような事もないのだが、どうすればやんわりと話を断れるかは、王様の返答次第だと思っていた。
「あらたまってどうしたんだね、クラッカル」
王様はどうやら穏やかな人のようだな。クラッカルにあんなに優しく話し掛けているし……
それとも父親として娘が可愛いだけなのかも
「はい、実は私の後ろにいるのはタケルという名で虹の勇者なのです」
「タケルと申します。お目にかかれて光栄です国王様、虹の勇者なんて王女様が仰るような立派な者ではありませんが……」
カヌレルは俺の顔を見た後にクラッカルに目線を戻して感心したように頷いた。
「ほう、彼は、その若さで勇者になったのか、もともとの資質が高かったのかもな」
いえいえ、何回も死にかけましたけど……俺
「国王様、王家に伝わる古い予言書の事を覚えていますか?」
「ああ、お前がよく話していた勇者の予言の事であったかな。誰もアテにはしていなかったがお前だけは頑なに信じておったな。で、その勇者がそこにおるタケルだと言うのか?」
「はい、その通りです。既にタケルはこの城の危機を救ってくれました。もしタケルがいなかったら城は落とされ、私はこの世にいなかったかも知れません。予言は、本当だったのです!」
クラッカルの言葉にカヌレル王は、ふむと考え込んだ顔になった。
「してお前の願いとは、そのタケルに関係する事なのか?」
カヌレル王は、王女の願いが何であるのかを思案していたのだろう。そして予想される幾つかの願いへの回答を既に導き出しているばすなのだ。
王とは人前で狼狽えぬもの、カヌレル王にはその威厳が備わっているように思えた。
「はい、急なお願いでびっくりされるかも知れませんが……」
「よい、言ってみなさい、クラッカル。王とは大抵のことでは、驚かぬものなのだ。わしも若い頃は、よく驚いたり、動揺して身体が震えたものだが、ふふふ、歳のせいかそんなエネルギーも無くしてしまったのかも知れんな……」
カヌレル王は昔を懐かしむような、それでいてどこか寂しげな表情をした。
クラッカルは、何故かもじもじしてためらっていたがやがて意を決したように話始めた。
「はい、実は、タケルを……タケル様を……ああっ……ふぅ、ああっ……」
クラッカルの様子は側から見るとコントのようで俺は密かに笑みを漏らした。兵士達に指示を出す時のような凛とした姿はどこに行ったのだろうか。
「クラッカル、落ち着いてハッキリ言いなさい!」
国王は、優しく促し、それにうなずくクラッカル。
しかし大袈裟だなクラッカルも……
俺を国王軍の隊長にしたいだなんて王様が認めるか認めないかだけの事なんだから要件を伝えれば良いだけなのに……
「クラッカル様、事情は俺から王様に説明しますよ」
王は悟ったような顔で俺を見た。隊長なんてガラじゃない。断る為の説明なのだ。
話を始めようとする俺にクラッカルは、慌てた様子で止めに入った。
「えっ、ああっ、違うの、そうじゃないの」
「違うって、何が違うんですか?」
俺の言葉にクラッカルは、唇を噛み、頬を染めた。
そして今度は、カヌレル王に聞こえるようハッキリとした口調で言った。
「私……タケルと結婚します!」
突然のラブコメ展開に俺と国王は言葉を失い、その後、しばらく沈黙が続いたのだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます