第81話 イケメンと少女

 バルセイム国王軍隊長ザナックスは、ヤサ男の外見とは異なり、大剣を自在に操る程の剛腕の戦士なのだそうだ。勿論攻撃に関しての魔法も操り、何度も魔王軍の攻撃を退けて来た歴戦の勇者なのだ……パタン……


 アリサは、バルセイム観光ガイドを閉じた。


 またかよ、おいっ! 受け売り感が半端ないよ!


「そのザナックスさんは、とんでもなく強い人なんだよな。魔王軍倒せんじゃないの?」


「お兄様、話はそう簡単では無いのです。ザナックスがいくら強くとも個人の力では無理があります。それに元々、組織されていた国王親衛隊は無くなり、今は国王軍となっています。つまり民間の兵士を含めた人員で構成されている組織となっているのです。つまり統制の取れない寄せ集め軍隊なのです」


 パタン……


 わかったから、受け売り。

 どうもさっき王女の侍女になんか頼んでいたような気がしたけど、これだよな

 バルセイム観光ガイド!



 俺達が城の広間に辿り着くと何やら兵士達がものものしい様子で並び、俺達を待ち構えていた。


「お前達が、雑兵志願の者達か? 私が国王軍隊長のザナックスだ。王女様のご推薦ならどんな者かと思っていたが……」


 ひときわ背の高いスラリとしたイケメンが、前に出て俺達を観察するように見回した。

 値ぶみするようにと言い換えた方が良いかも知れない。明らかに不審な感情がこもっている。


 やるか!


 俺は、メルをちらりと見てうなずいた。

 メルもそれに答えて頷く……



「おのおの方、頭が高い! ここにいらっしゃる方をどなたとお思いか! ポッキーニ家の大貴族グライド殿下にあらせられるぞ」


 高らかに鳴り響くメルの声にどよめく兵士達


「お、おい、待てよ! 何で僕をダシに使うんだよ」


 グライド殿下には勿論知らせていなかった。

 理由は、その方が面白いからだ。


 カ、カラーーン


 ひとりの兵士が、持っていた槍を手落とした。

 思わずその兵士の方を振り向く俺達の目に飛び込んで来たのは見知った人物だった。


「な、なっ! ド、ドルフィーナさん!?」


 思わず叫んだ俺にその兵士は言った。


「い、いえ、人違いです。おいらイルカスと言う者です」


 慌てて設定したのが田舎兵士なのか、おいらは無いと思うのだが……


「………人違いか……」


 何か事情があるのだろう、ここは知らんぷりをする事にしよう。


「待って、ドルちゃん、お金に困ってたんなら何で私に相談してくれなかったの」


 待つのはお前だよ、ヒナっ!

 アルバイトじゃ無いから確実に!



「これは大変失礼致しました。グライド殿下のご友人でしたか。今までの非礼どうかお許し下さい」

 ザナックスは、深々と頭を下げた。やはりグライドの家は相当な貴族のようだ。



「私からもお詫びしますね。せっかくこの国を救いに来て下さったのに。でもザナックスを責めないで下さい。それ程バルセイムは、窮地に立たされているのですから」


 クラッカルも申し訳なさそうな顔をした。


「気になさらないで下さい王女様、俺達もどこまでお役に立てるのかもわからないんですから」


 俺の言葉にザナックスは、今度は真剣な顔をして剣に手を添えた。


「失礼ながら殿下のご友人を戦場で危険な目に合わせる訳にはまいりません。いかほどの強さなのか、どうかお手合わせ願いたい」


 やれやれ、そうなるよね。子供達がやって来て戦闘に加えろと言っても説得力に欠けるよね。


 俺が前に出ようとした時、リンカに引き止められた。


「どうした、リンカ!?」


「タケルっ、私、あの人と手合わせしてみたい。だって強いんでしょ、ねっ、いいでしょ。それに……」


 ど、どうしたリンカ、女の子モードになってるけど……イケメンが原因か?


「いいけど、ザナックスさんが良ければな」


 俺はザナックスさんに確認したのだがやはり小さい女の子と戦う事に難色を示した。


 ボウッ! どかーーーーんんんっ!


 リンカが炎を宿した剣を振り下ろし床に大きな穴が開いた。ザナックスは、驚き何が起こったのか分からず茫然としている。


「私の名はリンカ! ドラゴンスレーヤーだ!」


 どうやらイケメン関係なかったみたいね……

 甘く見られたのがしゃくにさわったんだな。


 だが派手にやらかしたなぁ。

 ひそかに床の弁償の件を気にする俺だった……

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