第80話 超美少女の謎の微笑み

「だあーれだっ」

 俺の眼を両手で押さえている者がいる。


「だ、誰かなっ、み、見えないんだけどなあ」


 メルの仕業だとわかってはいる。しかし眼を開ければ前に裸の少女がいる。気まずい事は確かだ。


「あなたは誰なの? ここで何をやっているの?」

 ヒナの声が聞こえた。どうやら青い髪の少女に話し掛けているらしい。


「その前にあなた方は、何者なのですか? ここは外部の人間がたやすく入れる場所では無いはずですが」

 少女は、不思議そうに答えた。当然の疑問だと俺も思う。



「お、おいっ! お前達その方に、クラッカル様に無礼な口を聞くんじゃない……あうっ! 眼がっ!」



 部屋に飛び込んできたグライドは、どうやら誰かに本気の目潰しをくらったらしい。

 苦しんでゴロゴロと床を転がる音がする。


「少女の裸を見ようなんて貴族の誇りはないのか、グライドっ! 無礼はお前だ……つって、クラッカル⁉︎」


 目潰しをしたのは、リンカだな。

 つか、やっぱり王女様だったんだ、この女の子!


 不意に俺の目隠しは外され青い髪の少女が視界に入ってきた。心なしか少女いや、王女の身体の周りに光るオーラのような物が見える気がした。


「はは〜っ、王女様でしたか」

 メルは少女の前に跪いていた。

 結構、権威に弱いよな、この人

 いや違うな、多分ご馳走の嗅覚がするんだろうな


 俺と眼を合わせた王女は、身体を隠しもせず、にっこりと微笑んだ。

 ハッと我に返った俺は、慌てて眼を閉じた。


「し、失礼つかまつりました。俺の名はタ、タケルです。この度は、魔王軍との戦闘で微力ながら何かお手伝い出来る事がないかと思い馳せ参じました」


 おい、俺、喋り方おかしいだろ!


「ふふふっ」

 王女クラッカルは、楽しそうにクスクスと笑った。


「ごめんなさい、最近は笑う事なんてなかったのだけれど……わかりました。助力感謝します。私から国王軍隊長ザナックスに伝えましょう」


「ありがとうございます、王女様」


「タケル、そちらの方々は?」

 王女クラッカルは、俺のパーティの事を言っているのだろう。自己紹介をさせたいのだけど……


「えーと、その前に服を着て頂けますか王女様……」


「えっ、きゃあーーーーーっ!」


 どうやら王女クラッカルは、少し天然少女のようだった。





 クラッカルの合図で侍女が現れ、服を身に付けるとようやく普通に話が出来る状態になったのだが……


「何でお前達は、そんな赤い顔をして王女様を見つめているんだよ」

 俺のパーティの奴らはドレスをまとった王女の姿に釘付けになっていた。

 グライドだけでなく、リンカ、アリサまでもが憧れの表情でクラッカルを見つめていた。

 メルに至っては今にも飛び付きそうな勢いを感じる。

 唯一ヒナだけが平静を保っていたがブツブツ何かをつぶやいているところを見るとこれもアウトだ。


 マトモなのは俺とマシュくらいか。

 俺は催眠術を解くかのようにパンと手を叩いた。


「「「「「はっ!」」」」」




 その後、それぞれが王女様に緊張しながらも自己紹介をし始めた。


「ヒナ……ブツブツ……です」

 ブツブツやめろ!


「ソ、ソードマスタードのリ、リンカ、んっ、です」

 いつからカラシの大統領になったんだお前は!


「タケルのメルだよ」

 いい方っ! 毎回だけどタケルのパーティのメルな


「ア、アリサの横笛です」

 おいっ、逆だよ逆っ! お前の本体横笛かよっ!


「以上です」


「おいっ、まだいるだろって」

 グライドが声を荒げた。


「ああ、そうだった。コイツはマシュです。俺の使い魔お願いしてます」

 マシュは、王女様にペコリとお辞儀をした。


「よし!」


「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゴホゴホーーーーーう!」


「何だよグライド、うるさいなあ、王女様に失礼だろ」


「僕だよ、僕を忘れてるんだよ」

 グライドが涙ながらに訴えてきた。


「あれ? グライドは既に面識あったんじゃないの」



「さあ、皆さん、ザナックスに紹介しますから此方へどうぞ」

 王女クラッカルは、俺達を促した。


 結局グライドが紹介されるのは、もう少し後のお話になりました……



 俺達がどれだけのことが出来るのかはまだわからないけれど、まずは国王軍の隊長に会って話を聞いてみよう。そしてやはり王女様は救わねばならないようだ。


 そもそも王女クラッカルがどうして裸でいたのかと言うと防御魔法ニジューマルは、膨大な魔力を放出する大魔法である為、衣服の類いは発動時に皆破れて消し飛んでしまうからなのだそうだ。魔法の効果は、まる1日と長いのだが詠唱し発動後も数時間の魔力の蓄積を行わなければならない。


 王女クラッカルは、魔力が尽きるまで蓄積を続け、次の日に魔力が回復すると、またこの作業を繰り返しているのだ。

 こんな事を毎日やっていたら身体を壊してしまうだろう。


 それとどうしても気になる事があったので俺は王女様に小声で質問してみた。


「あのっ、最初俺と眼が合った時、王女様はどうして笑ったんですか?」


 クラッカルは、俺の質問に少し驚いた様子だった。裸を見られた事を思い出したのか少し顔を赤らめた。そして皆に聞こえない様に俺の耳元で囁いた。


「それは、秘密ですよ。ふふっ」


 そう言って、この王女様はいたずらっぽく笑ったのだ。今度は俺の顔が赤くなる番だった……

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