第79話 その少女

 バルセイム城へは、秘密の地下道を潜り抜けるのが一番安全な方法だとグライドが言った。俺達は、グライドの案内に従って森の中にある小さな祠に隠された階段を降りて、今はアーチ型に石を組んで作られた地下道をテコテコ進んでいた。


「なあ、タケル、なんで僕ボコボコになってるんだろう……」


「"超美少女は正義"なんて俺のパーティのメンバーに言う方がどうかしてるよ」


 グライドは皆にボコられ、よろよろと地下道を歩いていた。顔も腫れてレイラさんに治癒してもらったのが台無しだ。


「だけど、お前が王女様をみたら僕の言うことが理解出来ると思うぜ」


 グライドは、懲りもせず王女の美しさを讃えた。

 それ程なのか王女クラッカルっ!


「そこ! 無駄話をしない!」

 リンカさんに怒られた……。グライドのせいで俺までとばっちりを受けるよ。


 本来なら暗闇の通路をメルが魔法で明るく照らしてくれていた。


「悪いなメル、お前のお陰で助かるよ」


「私は、超美少女の正義の魔法使いだからね。どんどん照らすから」


 いや、どんどん照らさなくていいから、グライドの方も少し照らしてやって欲しい。

 グライドは、先頭で歩いているのだが奴の足元だけが暗いのは気のせいだろうか。

 石の凹凸を拾って結構つまずきそうになっている。


「いてっ!」

 つまずいたグライド……

 そのまま前方に二回転って、しねーだろ普通!

 やれやれだ、全く見ていられないよ。


「メルっ、グライドの方もっと明るく出来ないか?」


「私は、全力だよ、タケルっ」


「そんな事言わないでエルフの街でおごってくれたグライドを照らしてやってくれ!」


 はっ!


 なんだ今の『はっ!』って……


 結果、めちゃ明るくなりました、やれよ最初から


「おいっ、タケルなんだか僕、足元が見えるようになったよ!」

 グライドの歓喜の叫びが通路に響いた。

 どうやら相当歩きづらかったらしい……


「ああ、メルが頑張ってくれてるみたいだ」


「そうか、さすが美少女魔法使いだな」

 おいっ、それ言っちゃダメじゃん!


 グライドは、学習しないヤツだった……

 超美少女の王女の存在の前では、全て嫌味にしか聞こえないよ、それ!


「あれっ、また暗いんですけど……」


 そうこうしてる間に通路の先に階段があった。

 どうやらここが城への入り口のようだ。


 階段の上に頑丈そうな扉があり、素直に開かない予感がびんびんしている。


「グライド、開くのかこれ」


「まあ、まかせろり」


 そんな香草みたいなギャグは要らない。

 しらけた眼で見ている俺達を横目にグライドは怪しげな呪文を唱え始めた。


「ナイイ、ラタイア、ラビト、カチバカチイ」


 ぶっとはすぞ、おいっ!

 バカにしてるよな、絶対!


 俺が拳を握りしめた瞬間、扉はアッサリと開いた。いや、適当すぎるだろ、この呪文。


 俺達が通り抜けると扉は勝手にしまった。


「はっ! 罠か!」


 いや、罠じゃないから、メル


「お兄ちゃん、中は明るいね。魔王城は、なんかもっと薄暗かったんだけど」


「まあ、明るい魔王城なんて雰囲気出ないからな、あと節約してるのかもな」


 この会話だと魔王城がお利口さんみたいな流れになっているが……


 しかし、このままウロウロしていると、外敵とみなされて攻撃されかねない。ともかく誰かに事情を説明して城の然るべき人に会わないとな。


 俺は近くにある扉を恐る恐る開け中を覗き込んだ。


 その瞬間、驚いた俺の動きは止まった……


 その部屋の中央には巨大な魔法陣が描かれており、蒼く光輝いていた。そしてさらに魔法陣の中央にひとりの少女がいた。


 それだけなら驚きはしない、だがその蒼い髪の少女は、一糸まとわぬ全裸だったのだ……


「えええ〜っ!」


 背後からの俺の声に気付いたその少女は、振り返った。


 その顔は、紛れもなく神々しい程の美しい顔立ちをしていた。いや、言葉には出来ない美しさと言っても言い過ぎじゃない。


 それが俺と王女クラッカルの初めての対面だった……

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