第78話 王女様は美少女じゃなかったの
傾いた大きな時計台のそびえる場所から少し離れた場所にバルセイム城はあった。城壁に囲まれた街ではあるけど城の周りには更に城壁が作られていた。昔の日本で行ったらお城の二の丸、本丸の間に作られた防護壁と言ったところだろうか。
「タケル、ニジューマルだよ。これは」
二重になってるから二重丸って、捻りが無いよ、メルっ!
だいいち、今はそんな二重丸な状態でもないしな……
「ニジューマルとはかなりの魔力の持ち主がいるようだな」
おいっ、リンカ、突っ込むとこだろ今の。腕を前で組んだリンカは真顔でニジューマルという言葉を使っている。
「お兄様、私もニジューマルは、初めて見た。確かに、あれが無ければ城はすぐに落とされていたかもしれない」
アリサまでも深妙な表情で呟いた。
あれっ、もしかして知らないの俺だけなの?
「あれは、王女クラッカルのニジューマルだよ、王女は高度な防御魔法に特化しているんだ。よしっ、ニジューマルがある所を見ると城はまだ大丈夫なようだ」
えっ? ニジューマルってもしかして魔法なの、それも結構有名な魔法なのか? 知らないと恥ずかしい事なのか? 誰か教えてプリーズ!
「ニジューマルだって? 一体どんな魔法なんだよ……。知ってるのか、ヒナっ」
「うん、確かニア・ジケービアル・ユーバイン・マルデルール・ブックハオ・レダという最高クラスの防御魔法の事だと思うよ。城壁に見える部分は、すべて魔法で作られているみたいだよ」
おいっ! あれ全部魔法なの⁉︎
名前はかなり、うさんくさいけどスゲーっ!
「じゃあ、そのニジューマルは、サクサクした感じの名前の王女様が発動させているのか」
俺は、城が無事な事を確認してホッとしている様子のグライドに向かって問い掛けた。
「ああ、そうだ。王女は王国の宝であり、魔王軍が最も欲しがった人材なんだが王族だけでなく、国民までが反対した為に前回は、奴らも諦めたようなんだ。妥協案として僕が魔王軍に連れて行かれる羽目になったんだが、王女が連れて行かれるぐらいなら僕もそれを望んでいたからな」
「ひねくれ者のグライドが喜んで身代わりになるなんていったい王女様は、どんな美少女なんだろう」
「タケル! 言い方! ひねくれてるってなんだよ。あとお前は勘違いしてるぞ! 王女クラッカルは、美少女じゃない……」
「えっ、そうなの⁉︎」
「超美少女だ!」
「なにーっ!」
超美少女だ……と。
思わず叫び声をあげた俺に蔑んだような眼差しが向けられた。ええと、いち、にい、さん……5人分ですね……
「タケルっ! 王女様は、身を守れるから助け無くて大丈夫じゃないかな。それよりMプランを優先させるべきだと私は思うよ」
なんだよメル、Mプランって
お前らのせいで作戦なんか立ててないよ。
あと蔑んだ眼で見るのやめろ!
「いや、タケルRプランこそ、一番重要だと私は思うのだが」
と蔑んだ眼のリンカ
「お兄様、やはりブレない為にも始まりのAプランを柱に考えなければいけない」
アリサも蔑みながら主張する。
「あ、私はちょっと恥ずかしいけどHプランがいいと思う」
ヒナが言った時点で、気付いた。いや蔑んだ眼で見ている、お前達の頭文字だよね、それ!
「タケル、王女を救わなければならない理由は、もう一つある。これは、些細な事なんだが王女は、時のグリモアの後継者なんだ。王女が亡くなれば時のグリモアの所有権を移す事が出来るんだ。シュベルトは、それを狙っているんだ」
いやいやいや、些細じゃないだろ、時のグリモアっ!
「超美少女の方が大事な理由なのかよ!」
「超美少女は、正義! 王国の古いことわざだ。当然わかるよ……な……」
グライドは、5人分の蔑んだ視線を感じ口ごもった。
「ええーと、ここにいる超美少女達と同じようにな……」
それやっちゃ駄目なやつだよ、グライドっ!
案の定、五人の眼はさらに細くなった。
謎の汗を垂らすグライドだが自業自得だよね。
「さて、そのちょー美少女の所に案内してもらいましょうか」
ヒナの言葉にグライドは、びくりとして
「はい」と言ってうなずいたのだった。
そこにプライドは微塵も無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます