第41話『やるからには全力で!の話』
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そんなこんなで数日が経ち、俺はバイトに精を出し、おやっさん達に合コン行く話をして、どうすれば無難に終わらせられるかを訪ねたりした。
しかし、おっさん連中っていうのは若い人間の恋愛話が大好きで、それが俺のような恋愛経験ゼロ男のものであれば、どうしても興味を引くらしく。
芝野と草野のおっちゃん、そして聡子さんからは、
「ナッちゃん。恋愛を頑張るのを、俺達はカッコ悪いなんて思わないぜ!」
「この前も言ったけど、恋愛はできる内にしておけ! 運命の出会いとかあるかもしれないんだから、全力で挑め!」
「そうよ、相手の子たちは真剣に恋愛しに来るんだよ! 失礼じゃないの!」
と、ちょっと説教をされてしまった。
いや、説教だと失礼だな……。至極ごもっともなご意見を賜わなったのである。
まあそんなこと言われて恋愛する気になるくらいなら、そもそも松永と織花から言われている時点で改めようって思うが。
だが、相手に失礼なのは、確かにそうだ。
ああ、どうしよう……。
そんなふうに悩んでいたら、結局合コン当日になってしまった。
「ああ~……」
最寄り駅の円形広場のベンチに座り、俺はため息を吐く。
土曜日の昼前ということもあって、周囲は楽しそうな家族連れやカップルで賑わっていた。俺とはまるで正反対。
俺の周囲だけ、輝度が落ちているような錯覚さえある。
一応、持っている服の中で一番のお気に入りを着てきた。
デザインに一目惚れして買った黒のジャケットに、白のパーカーとジーンズ。
とはいえ、織花も来るんだよなあ……。
織花はこれが、俺の持っている服の中で一番いい服だと知っている。
なんかそれって、超恥ずかしい!
だが、全力を尽くさないと失礼という言葉に納得した以上、それに嘘をつくことはできない。
つまり俺は、全力で挑む……!
この、合コンに!
そう覚悟をキメたはいいものの、心の奥底にある面倒くささは消えないので、ため息は吐いてしまうのだが。
「お前、今から楽しいことが確定しているとは思えない雰囲気だな……」
ベンチに座る俺の前に、松永が立った。
黒のオーバーサイズTシャツに、ファットジーンズと白のスニーカー。
ストリートファッション、というやつだろうか。
「よ、松永。いや、悪い悪い、そんなつもりじゃないんだけどさ。どうにも、俺はお前と違って、知らない人と話すのってあんまり好きじゃなくて」
「頼むぜえ~。無理やり誘った俺も悪いけどさ。俺を助けると思って、な?」
頭を下げられ、俺は妙に居心地の悪さを感じてしまう。
「わ、わかったわかった。大丈夫、役に立てるよう、頑張るって」
「よっ、鈴本」
と、松永の背後から、もう一人現れる。
確か……同じクラスの、周防……だったかな?
明るい茶髪のベリーショートに、ベージュのカーディガンと赤いTシャツ。そしてスキニーパンツという、すらっとした男。
「悪いな、松永が急に誘ったらしいじゃん。そのお詫び、ってわけじゃないんだが、まあ楽しんでってくれよ。あ、知ってると思うけど、俺は
と、手を差し出してきた。
胸板の厚さとか、体のゴツゴツした感じから、頑張っている運動部、って感じなんだな。
ちょっと肌も日焼けしてるっぽいし。
俺は「運動部ってなんか生命力に溢れてるなあ」なんて思いながら、その手を取った。
すると、なぜか周防はぐいっと俺を引っ張り、肩を組んできた。
「ええっ、なに!?」
驚いている俺に、周防は耳打ちをする。
「今日来るのは四人なんだけどさ、あ、一人は桐谷な」
「え、じゃあ三対四になるの?」
「桐谷は「司会進行」だってさ」
なんだそりゃ。
金払って開催されてるタイプの街コンじゃないんだからさ(行ったことないから、イメージでしかないが)。
「だからまあ、実質は三対三だ。マジ、来てくれて助かった、鈴本」
「い、いやあ、お役に立てたのはいいんだけどさ」
「今日は楽しんでいってくれ。狙いの子が被っても、恨みっこなしだぞ」
「ははは……」
それが言いたかったのか。
まあ、狙いの子というやつが俺にできるかはわからないが、それには賛成なので、頷いた。
「で、周防。どこで待ち合わせてんの? 開催場所は?」
ワクワクし、餌をねだって甘えるネコのように、周防にしなだれかかる松永。
どうでもいいが、俺達男三人で固まっているみたいになってないか?
「カラオケだ。会話が途切れても歌えばいいし、間が持つだろ?」
ほら、いつも行ってるあそこ、と場所を告げる周防に、「おお、ナイス! 了解だ!」納得する松永。
そして、ずんずんと先に円形広場から出ようと歩いていってしまう。
「んじゃ、俺達も行くか。今日はよろしく、鈴本」
離れていく周防と共に、松永の後ろを追いかけていく。
うわ、でもカラオケかあ……! 俺、あんまり音楽知らないぞ。
拳くんのバンドはまだカラオケに入ってないし、なんとか映画の曲だけで乗り切るしかないな。
なんにしても、知らない人と話すのはいいことだと、松永と話して思ったばかりじゃないか!
今日は知らない人が来るんだし、恋人云々はともかくとしても、仲良くなるぞ!
■
そうして俺達は、近くのカラオケ点に入り、一つのパーティールームに通された。
カラオケって、そういえば来たこと無いかも。
薄暗い部屋を見回しながら、二人と話しをしていると、すぐに部屋の扉が開く。
そして、まず入ってきたのは、織花だった。
いつも通り、パーカーにスキニージーンズという装いである。
「お、来たな織花。ってことは、他の女の子達も来たのか」
周防曰く、織花と今回女子側の幹事は連絡を取り合っており、そこで独自に待ち合わせをしていたらしい。
ので、織花が来たということは当然そのはずなのだが……。
なぜか、織花の表情は冴えなかった。
……珍しいな。
こいつが冴えない表情っていうのは。
「あ~……まあ、皆さん。女の子たちの登場で~す……」
と、なぜか織花はテンションが低い声で、ドアノブを持ち、入ってくる女の子たちを迎えた。
「こんにちは~」
と、キャピキャピした声を発しながら入ってくる女の子二人。
そして、俺は最後尾にいる一人を見て、血の気が引くようだった。
「こんにち……えっ」
その子も、俺を見て、固まっていた。
忘れるわけもない。
というか、この間会ったばかり。
「せ、千堂さん……!?」
そう、俺に告白をした、あの千堂さんである。
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