第41話『やるからには全力で!の話』

  ■


 そんなこんなで数日が経ち、俺はバイトに精を出し、おやっさん達に合コン行く話をして、どうすれば無難に終わらせられるかを訪ねたりした。

 しかし、おっさん連中っていうのは若い人間の恋愛話が大好きで、それが俺のような恋愛経験ゼロ男のものであれば、どうしても興味を引くらしく。

 芝野と草野のおっちゃん、そして聡子さんからは、


「ナッちゃん。恋愛を頑張るのを、俺達はカッコ悪いなんて思わないぜ!」

「この前も言ったけど、恋愛はできる内にしておけ! 運命の出会いとかあるかもしれないんだから、全力で挑め!」

「そうよ、相手の子たちは真剣に恋愛しに来るんだよ! 失礼じゃないの!」


 と、ちょっと説教をされてしまった。

 いや、説教だと失礼だな……。至極ごもっともなご意見を賜わなったのである。


 まあそんなこと言われて恋愛する気になるくらいなら、そもそも松永と織花から言われている時点で改めようって思うが。


 だが、相手に失礼なのは、確かにそうだ。

 ああ、どうしよう……。


 そんなふうに悩んでいたら、結局合コン当日になってしまった。

 


「ああ~……」


 最寄り駅の円形広場のベンチに座り、俺はため息を吐く。

 土曜日の昼前ということもあって、周囲は楽しそうな家族連れやカップルで賑わっていた。俺とはまるで正反対。

 俺の周囲だけ、輝度が落ちているような錯覚さえある。


 一応、持っている服の中で一番のお気に入りを着てきた。

 デザインに一目惚れして買った黒のジャケットに、白のパーカーとジーンズ。

 とはいえ、織花も来るんだよなあ……。

 織花はこれが、俺の持っている服の中で一番いい服だと知っている。

 なんかそれって、超恥ずかしい!


 だが、全力を尽くさないと失礼という言葉に納得した以上、それに嘘をつくことはできない。


 つまり俺は、全力で挑む……!

 この、合コンに!


 そう覚悟をキメたはいいものの、心の奥底にある面倒くささは消えないので、ため息は吐いてしまうのだが。


「お前、今から楽しいことが確定しているとは思えない雰囲気だな……」


 ベンチに座る俺の前に、松永が立った。

 黒のオーバーサイズTシャツに、ファットジーンズと白のスニーカー。

 ストリートファッション、というやつだろうか。


「よ、松永。いや、悪い悪い、そんなつもりじゃないんだけどさ。どうにも、俺はお前と違って、知らない人と話すのってあんまり好きじゃなくて」


「頼むぜえ~。無理やり誘った俺も悪いけどさ。俺を助けると思って、な?」


 頭を下げられ、俺は妙に居心地の悪さを感じてしまう。


「わ、わかったわかった。大丈夫、役に立てるよう、頑張るって」


「よっ、鈴本」


 と、松永の背後から、もう一人現れる。

 確か……同じクラスの、周防……だったかな?


 明るい茶髪のベリーショートに、ベージュのカーディガンと赤いTシャツ。そしてスキニーパンツという、すらっとした男。


「悪いな、松永が急に誘ったらしいじゃん。そのお詫び、ってわけじゃないんだが、まあ楽しんでってくれよ。あ、知ってると思うけど、俺は周防正次すおうまさつぐな」


 と、手を差し出してきた。

 胸板の厚さとか、体のゴツゴツした感じから、頑張っている運動部、って感じなんだな。


 ちょっと肌も日焼けしてるっぽいし。


 俺は「運動部ってなんか生命力に溢れてるなあ」なんて思いながら、その手を取った。


 すると、なぜか周防はぐいっと俺を引っ張り、肩を組んできた。


「ええっ、なに!?」


 驚いている俺に、周防は耳打ちをする。


「今日来るのは四人なんだけどさ、あ、一人は桐谷な」


「え、じゃあ三対四になるの?」


「桐谷は「司会進行」だってさ」


 なんだそりゃ。

 金払って開催されてるタイプの街コンじゃないんだからさ(行ったことないから、イメージでしかないが)。


「だからまあ、実質は三対三だ。マジ、来てくれて助かった、鈴本」


「い、いやあ、お役に立てたのはいいんだけどさ」 


「今日は楽しんでいってくれ。狙いの子が被っても、恨みっこなしだぞ」


「ははは……」


 それが言いたかったのか。

 まあ、狙いの子というやつが俺にできるかはわからないが、それには賛成なので、頷いた。


「で、周防。どこで待ち合わせてんの? 開催場所は?」


 ワクワクし、餌をねだって甘えるネコのように、周防にしなだれかかる松永。

 どうでもいいが、俺達男三人で固まっているみたいになってないか?


「カラオケだ。会話が途切れても歌えばいいし、間が持つだろ?」


 ほら、いつも行ってるあそこ、と場所を告げる周防に、「おお、ナイス! 了解だ!」納得する松永。


 そして、ずんずんと先に円形広場から出ようと歩いていってしまう。


「んじゃ、俺達も行くか。今日はよろしく、鈴本」


 離れていく周防と共に、松永の後ろを追いかけていく。

 うわ、でもカラオケかあ……! 俺、あんまり音楽知らないぞ。

 拳くんのバンドはまだカラオケに入ってないし、なんとか映画の曲だけで乗り切るしかないな。


 なんにしても、知らない人と話すのはいいことだと、松永と話して思ったばかりじゃないか!

 今日は知らない人が来るんだし、恋人云々はともかくとしても、仲良くなるぞ!



  ■



 そうして俺達は、近くのカラオケ点に入り、一つのパーティールームに通された。

 カラオケって、そういえば来たこと無いかも。

 

 薄暗い部屋を見回しながら、二人と話しをしていると、すぐに部屋の扉が開く。

 そして、まず入ってきたのは、織花だった。


 いつも通り、パーカーにスキニージーンズという装いである。


「お、来たな織花。ってことは、他の女の子達も来たのか」


 周防曰く、織花と今回女子側の幹事は連絡を取り合っており、そこで独自に待ち合わせをしていたらしい。


 ので、織花が来たということは当然そのはずなのだが……。


 なぜか、織花の表情は冴えなかった。

 ……珍しいな。

 こいつが冴えない表情っていうのは。


「あ~……まあ、皆さん。女の子たちの登場で~す……」


 と、なぜか織花はテンションが低い声で、ドアノブを持ち、入ってくる女の子たちを迎えた。


「こんにちは~」


 と、キャピキャピした声を発しながら入ってくる女の子二人。

 そして、俺は最後尾にいる一人を見て、血の気が引くようだった。


「こんにち……えっ」


 その子も、俺を見て、固まっていた。

 忘れるわけもない。

 というか、この間会ったばかり。


「せ、……!?」


 そう、俺に告白をした、あの千堂さんである。


 

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