第39話『デートの話』

「合コン……!? ご、合コンって、同じ人数の男女が、その後の交際を目的にしてやる、食事会のことか!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 周囲に俺等以外の人がいなくてよかったが、なんだって?

 合コンだぁ!?


 口にしているのに、全然飲み込めない。

 雲を掴もうとしているかのように、言葉が全然出てこない。


「そう、その合コン!」


「おいおいマジか! 夏樹が合コン? 超面白そう……!」


 織花の目が輝いている。

 やめて止めてやめて止めて!

 俺が合コンなんてできるわけ無いだろ!

 織花と千堂さん、姉妹以外の女子と会話したことなんて、遠い彼方の記憶だよ!?


「なあなあ、それって、ボクも行っていいのか?」


 そう言いながら、織花は松永の肩を揺すっていた。


「おお、もちろん構わねえけど。でも相手、他校の子達だぜ。俺の友達がさ、その学校に友達がいるからセッティングしてくれたんだけど。自分以外他校の子なのは、大丈夫なのか?」


「ボクは人間とのコミュニケーションめちゃ得意だから、大丈夫」


 まるで遊園地に行くと言われた夢見がちの子どものように、織花はわくわくが全身から溢れ出していた。

 なんだこいつのアクティブさは。


「ちょ、ちょっと待って織花。俺は行くなんて一言も」


「ええっ、頼むよ鈴本! 俺も彼女欲しいのに、人数が足りないんだよ!」


「それをなんで本格的に話すようになったばかりの俺に頼むんだよ!? ああいうのって、助け合いが大事なんじゃないのか!」


「それに関しては大丈夫な気がする! 俺達もう息ぴったりじゃん?」


「ぴったりになってないから言い争いが発生してんだろ!」


「お願いお願いお願い! 超カワイイ子ばかり来るみたいなんだよ!? こんな合コン、一生で何度できるかわからないくらいみたいなのよ!」


 手を合わせ、何度も頭を下げる松永。

 なんだか仏に祈るかのような姿だ。

 どんだけ必死なんだよ。

 そして、それだけ必死に祈る相手が、まだ友達というには早い俺というのも、どうなの?


「い、いや、そもそもさ……行ったとするじゃん? ってことは、女の子と話すわけじゃん」


「そらそうだろ。合コンで男としか話さないって、遊園地行ったのに乗り物乗らないようなもんだぞ?」


 俺が何を言い出すのかわかっていない松永は、キョトンとしている。

 なんかもうそれだけで、ちょっと俺とは世界観が違うのだが。


「そもそもさ、俺、自分が女の子得意かどうかもわからんのだけど……」


 話したことがないので。

 第二次性徴を迎えた女子に触ったこと、多分ないんじゃないかな?(織花は除く)


「なら、なおのことでは? どっちにしても、早い内から女の子に慣れといがほうがいいんじゃないか」


「いやあ、言わんとすることはわからんでもないんだけどさあ。俺にできるとはちょっと思えないっていうか、恥を作り出す丹念な作業にしか思えないんだけど」


「恋愛なんて、ある程度は恥ずかしいものだぞ? 笑い話ができたと思え! そして想像してみろ、女の子とうまく行ったお前を!」


 言われた通り、俺は心を落ち着けながら、頭の中で合コンする自分を思い描いてみる。

 挨拶をし、趣味だとか内面の話をし、気が合えば連絡先を交換し、今度はデートとかするんだろうな。


 その子から合コンの中で得た情報を駆使し「パフェ好きだって言ってたよね? すごい美味しい店があるから行かない?」なんて言ってみたりするのだろう。


 そのためには、もちろん下調べが必須だ。

 あと、パフェは俺も好きだからいいが、好きでないものだとしたら、少なくとも好きでないものに半日費やすことが確定してしまう。


 ……一日の期待度、めっちゃ下がらん?


 そんだけあったら、何本映画が見れるんだ?

 それを想像すると、なんだかとっても気分が落ち込んでしまった。


「え、なんか老けた?」


 顔を覗き込んで失礼なことを言ってくる松永。

 老けたとはふてえ物言いだ。


「あのさ……俺もこんなこと、言いたくないよ? でも、自分の心を深堀りして、本音を探り当てるとさ……」


 俺は、ちょっとだけ迷ったが、言うことにした。


「めんどくせえ……」


「マジかお前」


 まるで道端にちょっと信じられないものが落ちているのを見つけたような、信じられない視線を向けてくる松永。


「え、うまく行った自分、想像した? いきなり修羅場想像してない?」


「したよ。合コンでデートの約束して、相手の好きなとこに行って、みたいな動きを」


「なんで!? なんでそこで自分も楽しむっていう発想がないの!? デートって相手の楽しいとこにだけいくんじゃないのよ!? 本格的に付き合う前のデートって、お互いの趣味嗜好のすり合わせだぞ!」


 へえ、そうなんだ!

 なんだか盲点だった。

 さっきから、俺と織花の交友にショックを受けてたみたいだけど、松永のほうが断然先に進んでるような気がする。


「はあ……お前の奉仕精神、筋金入りだな。なあ、やっぱりさ、お前は気の合う女の子を見つけて、接し方を覚えたほうがいいよ。もうこれは決定です!」


 胸を張り、有無を言わせない決意を見せつけてくる松永に、俺は抵抗して、なんとか「じゃあいいよ来なくて」と言わせようとてみたのだが。


 織花の「まあ、こいつはなんやかんや言ってるけど、当日に「お前しかいないんだ!」って言えば、ついてくるよ。不義理だと思っちゃうからな」という言葉に、うなだれるしかなかった。


 さすがに親友。

 まったくもってその通りである。


「んで? 松永がそこまではしゃぐ他校って、どこだよ?」


 織花は残りのホットドッグを放り込み、咀嚼しながら言葉を待った。


「ん、ああ。聴いて驚けよ! なんと、今回のお相手の女子御一行は……青嵐学園セイランの子達なのよ!」


 ばばん!

 と、ドヤ顔をキメる松永。


 それはたしか、近くの名門女子校の名前だった。

 その手の話に疎い俺の耳にも入ってくるほど、可愛い子揃いと評判の学校だ。

 絶対顔面接がある、と評判。


 絶対そんなことないと思うが……。

 青嵐に対しての確証バイアスじゃないかな。


「ん~……?」


 織花は、その名前に何かひっかかるものがあるのか、首をかしげていた。

 なんか、こいつが悩むというか、脳からすぐ情報引き出せない状態になってるの珍しいな。

 記憶力いいのに。


「どした桐谷」


「いや、青嵐学園……? 聞き覚えがある、っていうか、なんだっけ」


「そりゃあるだろ。うちと違って、青嵐学園は全国区で有名なんだから。部活とかでも結果残してる部多いし」

 

「そうか、そうだよな。そういうのか」


 なんか納得していないっぽいが、織花はうなづいて、もう用はないとばかりに自販機を見ていた。

 まだ食おうとしてるな? 体格に似合わず、相変わらずの大食いだな。

 まあ、俺もなんか疲れたし、甘いものでも食べよう。


 そう思い、この話は終わりにした。

 どうせ行くことになるっぽいし……それなら、無難に終わらせてしまうのが吉だろう。

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