第17話 Before the Sun Goes Down

 第一倉庫爆破事件。

 その災害を引き起こした張本人、出雲と生駒の二人は機材センター長から激昂を受けた後に自身が破壊した壁の簡易修復。飛び散った破片の清掃。各所への注意喚起の張り紙を済ませるとお互いに疲弊した情けない顔を合わせるのだった。


―――Re:write―――


「もうヤダ! 出雲君ヤダ!!」


 生駒はいかにも分かり易いと言わんばかりに自身の頬を膨らませるとプンプンと比喩できそうな顔つきで荒い鼻息を吐き続ける。

 出雲はいかにもな態度をとる生駒をなぐさめる様に背中を叩くのだが、生駒の目から見ても少しも悪びれた様子は見受けられない。既に自分は『気にしてない』と言わんばかりのなめ腐ったような面構えが生駒の怒りの沸点を飽和した蒸気のように膨れ上げるのだった。


「イコちゃ~ん。もういいじゃ~ん」

「誰がイコちゃんじゃ!!」 


 出雲から追撃で放たれる年上をなめ腐った言動に生駒は怒号を返した。

 

 生駒は怒号を返しながら内心思った。

 激しく叱咤されたにも関わらず、こいつは既になんとも思っていないだろうと。

 出雲の担力には毎回驚かされるのだが、自分が対象となった際に改めて分かる無頓着過ぎる態度には腹が立つ。横に何食わぬ顔で居座り続けるのも然ることながら、気にすんなと言わんばかりの上から目線に一発殴りたくなるのだった。


 生駒は怒りを表すバロメーターのように浮かび上がった額の血管を感じ取ると、多少怒りに震える顔で出雲に詰め寄るのだった。


「お前は年上舐め過ぎだっ!!」


「お前、年上じゃねーじゃん!」


 生駒が顔を寄せ、間近で指差し注意しようが出雲の言動は変わらない。瞬時に返された小馬鹿にしたような返答に生駒の眉間のしわはより一層深く刻まれていくだけで、発言を訂正させるように至近距離で振り払った右腕も出雲にはいとも簡単に避けられると、むなしい風切り音だけを残したのだった。


「お前のへなちょこ攻撃なんか当たるかっ」


「何をぉ?! 君はさっ! 僕を舐め過ぎなんだよっ!!」


 年上としてのプライド傷つけられ、一度態度を改めさせても直ぐにリセットされる悪質なバックアップファイルのようにたちの悪い思想を持つ眼前にいる男に対し、生駒は少し涙ぐむように瞳に力を入れると下唇を悔しそうに前に出す。

 ただ、気落ちするように肩を落とした生駒の頭にポンっと手が置かれると、不意に自身の頭に感じた微かな感触に生駒は顔を上げたのだった。


「生駒ちゃんは年上って感じがしねーんだよ。背も小っちゃくて可愛いしさ」


 出雲は不意に生駒の頭を撫でながら優しく微笑む。先程までの態度を改めた様に生駒の容姿を称賛しだした発言に、生駒は一瞬で紅潮してしまった顔を恥ずかしそうに横に逸らした。


「か、かわいい…か、かわいいかー。ああ、可愛いね。うん」


 生駒は何やら照れるようにして俯くとブツブツと同じ言葉を繰り返す。余程うれしいのか体を小刻みに動かすと、何もない空間に時折自己を共感させるような言葉を呟き、あいまいな相槌をうつのだった。


 出雲は照れるようにして視線を外した生駒に緩めていた口角を無感情と言わんばかりに平行に揃える。少しだけ生駒の言動に引いているのか、自身の引き攣る鼻頭を抑えると目の前の年上の女性を憐れんだように見つめるのであった。


(こいつ、左鐙さぶみと同じくらいチョロいな。…正直引く。左鐙は良くても、こいつは嫌だけど)


 出雲は心に浮かんだ生駒を軽蔑けいべつするような言葉をグッと飲み込むと話を切り替える様に一台の工事車両を指差すのだった。


「生駒ちゃん、俺を事務所まであいつで送ってくれる?」


「――うぇ?」


 不意に話しかけられた生駒が少し驚くようにして出雲の指差す方向を見る。生駒が見つめた先には空荷の工事車両が一台。生駒は出雲の意図が分からないと言わんばかりに指差された工事車両をみながら目を細める。


「なんで?! なんで2tトラック?」


 生駒は意図が分からないと半開きの口を出雲に披露して問いかけた。

 質問を投げかけられた出雲は少し考える様に自身の顎先に手を添えると、感慨深そうに目を伏せる。


「いや、4tユニックでもいいんだけど…。と言うか、根が心配性と言うか、リスク潰しと言うか…、とにかく物品を載せて帰りたいからさー」


「?? ――あぁ。…うん、まあいいけど」


 生駒はどこか納得はいかない顔付きを披露しながらも出雲の言葉に最終的には首を細かく縦に振る。ただ、出雲の意図は分からないながら、顔つきが現場にいる時のように真剣身を帯びていた雰囲気を醸し出していた事を薄々感じとっていたのだった。


―――In ten minutes《10分後》―――



 先程生駒と実験した武器の一部と出雲が指定した道具を車に詰め込んでいく。出雲が指定した工具もそこまでの量ではなく、大方終わりの見えた積み込みに生駒は大きく息を吐くと額に浮き出た汗を拭う。出雲は残りの積み荷の中でも、重量物に値する物品をトラックの荷台にドスンと軽々しく置くと、生駒に電話してくると合図するのだった。


 スマホを取り出した出雲は直ぐに10とキーパッドで素早く打つと、鳴り出したコール音の応答を待つ。


『はい、いつも元気いっぱい。あなたの宍道です』

「あー。もう、そういうの良いから詰まんねーこと言うな」

『………対応がひでーな。毎度の事ながら返答に若干困るんだけど…』


 出雲の塩対応に宍道は少しだけ返答に詰まると沈痛な声で答えるが、出雲はいつもの事だと言わんばかりに気にする事なく話を進めるのだった。


「宍道。真面目な話だけど、今日は布志名と合わせて全部で何体のハイブリッドを処理した?」


『……あぁ。…えーと全部で30体くらい、かな?」


 宍道からの返答を聞いた出雲の顔が若干曇る。大きく溜息にも似た吐息を漏らすと頷くように何度か首を縦に振る。そして、少しだけ返答に間を空けるように視線を外した後に考えがまとまったのかゆっくりと口を開いた。


「…大合体シリーズ出そうじゃない?」


『…………』


 出雲の言葉に宍道からの返答が無くなると、無音の時間が数秒続く。考える事があるのか黙り込んでしまった宍道に対して、出雲は自分から口を開くと会話を続けた。


「明らかに討伐数が少ないからさ。地下でフル合体した。呼称するなら『タイタン』とか『ギガント』とか、そんなん出てきそうじゃない? こえーんだけど…」


『………あ~、だよね~~。はぁー、俺もそんな気がして来た…』


 少しだけ考えるようにして返答に時間を掛けた宍道は溜息交じりの落胆の声を漏らした。宍道からの返答を聞き、一層眉間にしわが寄った出雲は一呼吸置くように静かに煙草を取り出すと火をつける。


「はぁー。…明日は地下への定点レーダー多めに配置すっか。あくまで可能性と言うか…確証は無いんだけどさー」


『了解。出雲君の勘当たるから恐いんだよなー…。大合体シリーズって大抵防壁からの攻城戦みたいになるし。あれにワクワクするのゲームみたいだと思ってた初めだけで、焦るわ、吹き飛ぶわ、後々の作業を考えると溜息と嫌気しか出ないよ。はぁー』


 宍道の溜息交じりの愚痴にも似た口ぶりに出雲も静かに頷く。宍道の意見に大方同意するように『だよなー』とでも言いそうなしかめっ面を披露するが、宍道に返答する前に何故だか少しだけ微笑むのだった。


「まあ、あのエリアの防衛だったら3班も出るから大丈夫だけどな」


『ああー、確かに。…ちゃんいるもんね』


 正解と言わんばかりに宍道の返答に出雲は頷く。


「そうそう。うちのマスコットがいるから大丈夫だよ。取り巻きのロリコン共が喜んであいつの盾になってくれるし、任せとけば安心安心。放置放置」


『ひっでぇーなー。その口ぶりは3班から怒られるよ!』


「いいよ別に! あそこは左鐙絶対主義のロリコンピラミッドだから、叩き潰してもいくらでも湧き出るゴキブリ陣形でいいんだよ。ある意味永久機関だよ」


『………』


 出雲の吐き捨てた辛辣しんらつな言葉の数々に出雲の扱いに慣れている宍道でさえも返答に詰まってしまう。お互いの顔が見えるビデオ通話ではない為、出雲から宍道の顔は見えないのだが、予想するに相当苦虫を潰したような顔を晒していたのだろう。返答にしばらく時間を要した後、宍道はボソリと苦言を吐くのだった。


『…そんな事言うから、出雲君は3班に嫌われてるんだよ』


「本望だよっ! じゃーな、忙しいから、もう切るぞ。きちんと片付けして帰れよ。八雲君のケアもよろしくな」


『…了解。初戦の感想でも聞いときます。お疲れさんです』


「お疲れー」


 出雲は通話が終わったスマホをポケットにしまうと生駒の元に戻るのだった。


「わりぃー、ちょっと長電話になった」


「うん? 別にいいよ。積み込みは、ほぼ終わってるし」


 生駒はトラックの荷台を指し示す。荷台には綺麗に整頓された器具が並ぶと、固定する為に必要なロープや万力が既に準備されていた。出雲は自分がいない間もせっせと用意していたであろう生駒に向けて、感謝するように親指を上に掲げた。


「ありがとな。生駒ちゃん」


「あぁ、うん。それよりさー、もう載せるものはないよね?」


 生駒の問いかけに出雲は暫く考える様に頭上を見上げた後、再び生駒に顔を合わせた。


「あーーー、ちょっと待ってて、持ってくるから」


「うん? なんかあんの? 手伝おっか?」


「いいよいいよ。すぐ持ってくるから」


 出雲は生駒の申し出を手を横に振り断ると、そそくさと倉庫の中に消えて行く。出雲の言動に少々不安はあるものの生駒は言われたように待っていた―――


 ―――だが、数分後。

 生駒は両肩に特大の荷を背負い現れた出雲に大きく目を見開くのだった。


「わりぃー―――」

「―――わ、わわ、わりぃーじゃねーよ!! き、君っ! なんで、、シレっと担いでんだよっ!!」


 出雲が背負う馬鹿でかい機械の骨組みに慌てふためくようにして声を返した生駒は一見大げさに見える程に口を大きく開き、声にならない声を漏らす。パニックと言わんばかりにキョドった視線を散らすと、息も絶え絶えに出雲が背負う物を震える指先で指し示す。


「焦りすぎだって――」

「――当り前だろっ! 馬鹿なの出雲君! 12桁のロックナンバー掛かってたはずなのに?! なんで?!!」


「あぁん? あぁ。パワハラおじさん馬鹿だからパスワード容易に推測できんだよ。4126-1129-7016。いっつも口癖のようにパスワード言ってたからさ。良い風呂、いい肉、生ビールって…」


「ああぁぁぁぁぁ…………」


 生駒は声にならない声を漏らしながら、出雲の発言で何かを思いだしたのか澄んだ青空を見上げる。空は澄んで青く、ゆっくりとした雲の動きは悠久の時を浮かぶように流れる。呆然自失と言わんまでに光の消えた生駒の目は悲しい過去を思い起こしているようだった。


 ――@search back into Ikoma's memory・・・


『良い~風呂ぉー、いい肉~、生ビ~~ル♪―――』


 ガタイの良い男が上機嫌で鼻歌を歌いながら体を揺らす。その男はノッシノッシと言う表現がしっくりする程に一歩一歩を雄大に踏み出すと、頭に巻いたタオルからはボサボサに伸びた後ろ髪を風になびかせる。


『――木田さん?』


 生駒は悠然ゆうぜん闊歩かっぽする男の名前を後ろから呼ぶと、木田と呼ばれた男は口ずさんでいた鼻歌を止めた。


『あぁん? …あー、その声はイコかぁ?』

 

 木田は後ろも振り返らず、少しだけ煩わしそうな物言いを返すと歩みを止めた。


『うん。僕だけどさ…、さっきの鼻歌、なに? 晩酌でもするの?』


『…ちげーよ―――』


 首を傾けて尋ねた生駒の声に木田はもったいぶったように応える。そして、木田はゆっくりと首だけを回し、後ろを振り返ると、力強く右手を前に出し、生駒に親指を立てたのだった。


『―――俺の魂のパスワードだ!!』


『…………えっ?』


 丁度、強い西日が木田の顔を光で隠すと、片方だけ口角を上げた意地悪そうな笑い顔の口元と力強く立てられた右手の親指だけが生駒の目に映る。


『まあ、これだけじゃお前らにはわからんだろーけどな! 開けれるものなら開けてみやがれてっんだ、俺の金庫を!! ははっは―――』


 前を向き、豪快に笑いながら去っていく木田の後ろ姿が強烈に生駒の脳裏に焼き付いたのだった。


 ・・・Back to reality―――

 

「ぁ”ば”ば”……」


 全てを思い出したように生駒はやり切れない思いを口から濁音として吐き出した。


「あっ? 思い出した? あの人が使うとセキュリティーガバガバになるから防御システムに金掛けても意味ねーんだよ」


「…僕知らない。…聞こえないし、何も見てない」


 ガックリと首を垂らし、ふさぎ込んだ生駒を尻目に出雲はトラックの荷台に自身の肩に担いでいた金属の骨組みを降ろす。ズシンっと重量級の音を鳴らし、トラックのサスペンションを沈めた物体を出雲は固定具を使い荷台に縛った。


「でもさー。これ見ると思い出すよな、木田さんの事…」


 何も見ないように俯く生駒だったが出雲が吐いた感慨深そうなセリフに顔を上げると出雲が見つめる武器を同じように見つめるのだった。


「…あぁ、そうだね。木田さんの代名詞だもんね。その武器」


「だな…」


 二人は昔あったことを懐かしむように荷台に備え付けられた武器を見つめながらお互いが口角を緩める。


「木田さん以外まともに使えない欠陥品。懐かしいよね。――それよりさ、出雲君。そいつ骨組みだけだけど、どうすんの?」

 

「ああ。コンバート使う」


 運び出された荷台の武器に触りながら出雲が返した言葉に、生駒は呆れたように自身の額に手を置き、吐息を漏らす。


「…ほんっと何でも使えるよね。君は」


「何でもは使えないけどな。俺の特性上。な?」


 生駒は再度大きな溜息を吐くと、半ば諦め混じりに強く息を吐き、口角を緩めた。出雲に顔を合わせると、誰かと同じように片方の口角を緩めた意地悪そうな微笑み返してくる。生駒はその顔を見ながら自身の髪を搔きむしるように右手でクシャクシャするのだった。


「――っ。絶対壊さないでよっ! 絶対だからね!! 壊したら木田さんが帰ってきたら、……怒られるからね」


「Now Testify. 木田さんに誓って壊さねーよ」


「………」


 どこか寂しそうに遠くを見つめる出雲の表情に、生駒は相反する気持ちに対抗するように力強く瞳を閉じると、自身の頭をより一層掻きむしったのだった。


「指切り!」

「あぁん?」


 突然、生駒は大声で叫ぶと右手の小指を出してくる。生駒の口をへの字に曲げた表情を見て、出雲は少しだけにやけてしまうのだった。


「指切りって…、呪いでもかけんのかよ」


「いいからっ」


 出雲も観念してか右手を自身のズボンでゴシゴシと拭くと、生駒の前に小指を差し出す。差し出された小指に生駒は自身の小指を絡めると、お互いの小指が交錯して折れ曲がる。


「約束破ったらメカニカル武器、二度と渡さないからねっ! 僕」


「りょーーかい、了解。絶対壊さねー」


 出雲と生駒の二人は笑みを浮かべるとお互いが少し照れ臭そうに重なり合った指を見つめ直すのだった。


 ―――その後、


 生駒の運転するトラックで出雲は在籍する会社の事務所まで向かったのだった。


 

 ♢



「送ってくれたありがとな。生駒ちゃん」


 出雲は事務所横に停めたトラックの前から、運転席の窓から顔を出す生駒に感謝を伝える。


「ううん。どういたしまして」


「メカニカルセットの調整する時は連絡して」


「うん。また連絡するね」


 お互いに右手を上げ合図を交わした後に、生駒はトラックを発進させた。

 センターへの道を戻って行くトラックに出雲は手を振って見送った後、2階建ての事務所の中に入った。


 2階建の事務所の一室。出雲は入り口の扉を開けると自席の上に置かれた書類の山を片付けている布志名と阿須那と目が合う。


「自分で言うのもなんだけど、…その机を見ると座りたくなくなるよな」


「そう思うなら、たまには自分で片付けをして下さい」


 出雲のテンションが下がった情けない声に反応すると、阿須那は多少怒っているように眼鏡をクイクイッと中指で持ち上げると言葉を返した。


「無理だ。人の欲望のように積みあがっていく、その瓦礫の塔は、呼称するならバベルの―――」


「………」


 出雲の言い訳にも似た独り言に阿須那は無言で鋭い視線を返すと出雲はベラベラとウンチクじみた事を喋る口を止める。暫く出雲と阿須那の二人は真顔で見つめ合った後、出雲から口を開くのだった。


「…ごめんなさい。神の怒りが落ちる前に片づけます」


「……はい」


 出雲は布志名と阿須那に頭を下げ謝罪すると、ようやく少しだけ片づけられた自席の椅子に座るのだった。  

 

「布志名もサンキューな」


「どういたしまして。進捗状況も報告書で提出してあるから」


「マジ助かる。―――と言う事は、あれからだな」


 出雲は自席のPCの電源を起動させる。即座に点灯したモニターからは溢れ出るような大量の通知がこれでもかと表示される。壊れたように飛び出してくる通知を見て出雲は目を見開くのだった。


「何これぇ? ウィルスぅ?」


 出雲の何故かはしゃぐような声に釣られ、隣の席に座る布志名は横を向く。


「ふふ、何がだよ?」


「見て見て布志名。このメールの数。悪質なスパムかな?」


 出雲は自席のPCモニターをグイッと横に向けると、布志名に自分に届いた未開封の通知の束を見せるのだった。


「…ほ、本当に凄いな」


「だろー! ハイブリッド対応だけでも大変なのによー、この量は狂ってるだろ!」


 布志名も出雲のPCに映る通知の多さに呆れたように目尻を垂らす。布志名が引き笑いを披露する中、出雲は目を通した通知の名から重要そうなものを開いた。


「まずー!!」


「!!」 「!!」 「?!」


 出雲は突然、皆がビクっとするほどの大声を上げる。


「―――トップを飾るわ。今日も交戦しました、『なりかけ』だろうが、エレクトリカだろうが根こそぎ刈り尽くすイカれ戦闘集団『レネゲイズ』!!」


「………」


 出雲は紹介するような物言いで、徐々にテンションが上がってきたのか椅子から立ち上がる。


「続いては! なりかけをさらい、進化させるだの訳の分からない思想を掲げる。悪質新興宗教団体みたいなこと言ってる『リザルト』!!!」


「………」 「………」


 出雲は皆に演説でもしているかのように、熱弁を体にフィードバックするように手を横に薙ぎ払った。


「ラストはご存じ! 俺と木田さんが忍び込んでえらい事になったぁあ!! エレクトリカも関われない完全閉鎖地区の魔物。トップシークレットの『デモンズスクエア』!!!!」


「………」 「………」 「………」


 出雲は息を切らしながら力説すると黙り込んだ皆を見渡す。


「何で3大案件が俺んとこばっかり来んだよ!!!!」


 吐き捨てる様に苦言を叫んだ出雲は、最後にバシンっと机に回覧文書をバインダー越しに机に叩きつけた。


「出雲さんが変な人だから、変な人に好かれるんです」


「………」


 皆が出雲に注目する中、出雲の後ろを通り過ぎた阿須那はボソッと吐き捨てる様に呟くと何事もなかったように去っていくのだった。出雲は去っていく阿須那を暫く平行になった口で見つめた後、始まりの合図と言わんばかりに両手で机を叩くのだった。


「よーーし喧嘩だ、ぱっつん眼鏡! お前の眼鏡を星形にしてやるからな!」


 その後―――


 ギャアギャア事務所で騒いでいた出雲だったが、見かねた北浦に一喝されると、おとなしく自席に戻る。そして、数分後に所要があるからと阿須那と北浦が二人で事務所を出て行くのを見て、「不倫だ。不倫」と悪態をつき、布志名の苦笑いを誘ったのだった。



 ・・・The scene changes to dim―――


 カツ……カツ…カツ、カツ―――

 日がもうじき落ちる頃。薄暗い建物の奥から、固い床の上をゆっくりと歩く音は近づいて来る。反響するように鳴る音にうす暗い闇の中に佇む男は、直立不動の姿勢で立ち尽くすと、暗闇に徐々に輪郭を浮かばせていく人物にお辞儀をした。


「お早いおかえりで―――」


 お辞儀をした男は顔を上げると両腕を自身の体の前に差し出す。


「―――リルカ姐さん」


「あぁ…」


 闇から姿を現したリルカは両腕を差し出した男にぶっきらぼうに応えると、自身の羽織う上着を脱ぎ捨てるように放り投げた。金色に輝くリルカの瞳は少しだけ目尻を下げると、微笑むように口角を上げた。


「はっ、今日はおもしれぇやつとあったんよ」


「…そうですか」


「ああ―――」


 リルカは不意に顔を上に向けると、思い出し笑いするようにして、口から八重歯を覗かせた。


「出雲 儚。…あいつとは、じゃれあい決定だ。はっ」


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