第15話 New Enhance Tools 『Mechanical Boots & Arm』
出雲と生駒は第一倉庫で、新武器『ハイドラ』の実験を終える。
しかし、威力は申し分なかったのだが、汎用性のあるものとして使用するには、耐衝撃、重量、他
「できてるよ。…ただ、あくまで試作品という事を忘れないでね」
「了解了解。まずは、見せてもらおうか? 生駒楓の実力とやらを…」
「聞いたことあるセリフだし、偉そうだなっ、君は! …ちょっと待ってて」
生駒は出雲に返答すると、車輪の付いた運搬具に乗せてあった物体を、奥から運び出してくるのだった。
「君がお望みの物は、これでしょ! メカニカルブーツとアンカーパッド付メカニカルアーム。…申請通すの、結構苦労したんだからねっ!」
生駒が運んできたメカニカルブーツとアームと呼ばれた物体を、出雲は近づき腰を降ろすと、確認するように手に取る。
金属でできた骨組みと人体の関節箇所を伸縮性のある繊維で覆い、腕を丸ごと包むようにして、肩部分から身体を縛るようにして固定するような形状のメカニカルアーム。
アームと同じ構造ながら、足底にクラッチ機能、底面と踵に噴出孔のような穴と、少し踵を浮かせるような形で組み込まれたショックアブソーバー付きのスプリング機構のついた、膝下までを覆いそうなブーツ。
出雲はそれらを、一つ一つ丁寧に、裏返したりして確認すると、自身の感覚で重さを判断するように腕を上下させるのだった。
「やっぱ、
自身が要望し、用意してもらったにも関わらず、出雲は自身の持つ知識から、生駒に文句を吐き捨てると、片方の顔を歪め、納得がいかないような顔を披露する。
生駒は、そんな不躾な態度をとる出雲に、自身のメカニックとしてのプライドに火が付いたのか、売られた喧嘩をかうように、出雲にズカズカと自身の履くブーツを鳴らせ近づいたのだった。
「お前って、言うなって言っただろっ! …君さー。君の知識量は、僕も認めてやるよ!」
言葉を吐き捨てた生駒は、多少尖った目で睨むようにして出雲を見つめると、多少上に向けた顔で、顎を前に出し、自身の想いを誇示するように腕を組む。
出雲も生駒の言動に装備を構う手を止めると、生駒に真剣な顔を合わせたのだった。
「当り前だろ。道具を本気で使用するなら、色々知っとかねーといけねーからな。設計図と感覚だけじゃ、現場は動かせねーのと一緒だ。用意、準備。その周到さが、リスクを減らし、円滑に現場を進める。武器も一緒だ」
出雲の口から出た正論のような言葉に、生駒は組んでいた腕を自身の脇腹に添えると、自身の首を多少斜めに振るようにして傾けた。
「確かにね。知っているからこそ。自分で出来るからこそ指示できる事もある。机上の空論を吐き捨てる奴に比べれば、君は凄いと思うよ。―――だけどなっ!」
生駒の声量は基本的に大きく、ハキハキとしているが、生駒は自身の気持ちを強調するように、更に大きくした声で出雲に返答するのだった。
「僕が、メカニックだぞ!!!!」
生駒は低めの身長ながら、しゃがみ込む出雲を威圧するように、言葉を吐き捨てると上から見下ろす。そして、更に自身の顔を出雲に寄せると、会話を続ける。
「確かにバイオニック式は汎用性がある。重量も落ちる」
「あぁん? じゃー、なんで―――」
「―――君の基準に合わせると、間違いなく機械式がフィットするからだよっ! 僕が断言してやるよっ!!」
「………」
「舐めるなよっ! 僕をっ!!」
「………」
出雲と生駒は、しばらく無言で見つめ合うが、不意に出雲は「参りました」と言わんばかりに、自身の両腕を上にあげると、優しく微笑み、瞳を閉じるのだった。
「――…
直ぐに自分の意見を撤回するようにして謝る出雲に、生駒は立腹していた気持ちを放出するように、フンっと鼻から息を抜くと、尖らせていた瞳を和らげるのだった。
「ほんとだよっ。まあー、君は文句を言っても、他者の思いも汲んでくれるから。…僕は好きだけどね」
「俺は、鬼と子作りなんかしたく――」
「――鬼でも、大蛇でもねーって、言ってんだろっ。もうー…」
「ははッ―――」 「ふふっ―――」
生駒の少し照れるように視線を外して言ったセリフに、出雲は顔を顰め首を傾げると、冗談じみた言葉を返す。そして、いつもの様に出雲の冗談に生駒が突っ込みを入れると、二人は笑い声を上げたのだった。
「――まあ、試作品だけど装着してみなよ」
「りょっ」
出雲は左目を閉じ、自身の額に右手の人差し指と中指を重ねた状態で引っ付けると、敬礼のような仕草をとり、生駒に元気よく返事を返すのだった。
その後二人で、アームとブーツをワイワイ言いながらも取り付けると、出雲は装着した感覚を確かめる様に、手をグ―パーと動かしたり、ブーツで地面を踏みつけるのだった。
「アンカーパッドは、使い方が難しいから気をつけてよ。対象に刺さった杭を膨張して固定するインサートハンマー型。出雲君の右手だね」
「ああ、なるほど。発射できる、打ち込み式アンカーみてーなもんか…」
出雲は生駒の説明に言葉を返すと、自身の右手につけたアームを自身の目線まで上げ、確認するように動かす。
「そうそう。それで左が対象を掴む、挟み込むような形で固定するクランプタイプだよ」
「2種類、か―…左は硬いヤツ用?」
出雲は生駒に聞き返す様に質問すると、自身の左腕を上げ、指し示すようにプラプラと揺らすと、出雲の仕草に気づいた生駒は、力強く頷き説明を続けるのだった。
「うん。打撃式が通らないヤツ用だね。だから、2種類。ワイヤー巻取りは、小型ウインチ。超強力小型モーター搭載で、巻上げ性能が3KN.m 特殊極細ワイヤーの耐荷重が3t」
生駒は淡々と説明するが、出雲は生駒の呟いた性能に口を大きく開いた驚愕の表情を浮かべると、焦ったように聞き返すのだった。
「はぁ?! 300Kgの3t?! この大きさと細さで?! お前、何したの?!」
「お前って言うなっ。…両方に言えることは高密度、高占有。ワイヤーを低密度の耐熱マグネシウム合金を使ったりすれば、更に重量を下げれるけど…比重率より、丈夫さを優先したよ」
尚も畳みかける様に説明する生駒の説明に、出雲は呆れるのを通り越したように声を漏らすと、「まいった」と言わんばかりに瞼を閉じ、感嘆した声を上げるのだった。
「ははっ。すっげ。――これさー、今さら気づいたんだけど。…もしかして、打ち込み式の方が重いのって――」
「――そうそう。さすが、出雲君。打ち込み式は1回使いッきりだろ? だから、対象から外す時に、どうしても、こちらがパージしなきゃいけない。だから、スライドディスチャージ方式の専用カートリッジ付きって訳。だから丸いのが5個ついてるだろ?」
生駒の返答に出雲は目を丸くして驚くと、自身の右手につけたアームのウインチ機構をマジマジと再度見つめる。改めて見ると右手のみ、リール上の筒が、ヨーヨーを5つ付けた様な外見になっており、出雲はそれを確かめる様に左右にスライドする丸い機構を動かすと、生駒に顔を合せるのだった。
「…まじで、すげーよ。冗談抜きで尊敬するわ。楓は天才だ。いや、まじで!」
「ほ、本心でぇー、言われるとさー。さ、さすがに僕もー。て、照れる、かなぁー。ふへっ」
出雲の本心から出た言葉に、生駒は体をくねらす様にして照れると、恥ずかしさを隠す様に、手を忙しなく自身の顔の前で動かすのだった。
「もうほんっと、酒癖がクソ悪いのと、おっぱいが小せえのが直れば、完璧なのになー。…―あーでも、常時オイル
「………」
出雲は発言の際中に生駒の顔に視線を合せると、発言を途中で止める。
「おっ? さすがに突っ込みきれねーか?」
煽るような出雲の問いかけに、生駒は言葉を捻りだす様に、声を出さずに口を何度もパクパクと動かす。そして、暫く膠着するように御互い見つめ合うと、生駒は言葉を発するのだった。
「…おっ、オーラ――」
「オーラ?」
「――テスカトリポカじゃねーよっ!!」
「良く出来ましたー!」
出雲は待ち望んでいた正解といえる突っ込みを捻り出した事を称賛するように、生駒の頭を撫でまわすと、生駒も奮闘したと言わんばかりに顔を緩め、何故だか嬉しそうに微笑み返すのだった。
「さっきのは難しいよーッ! あそこから黒曜石に繋げて、煙って言われてもさー」
「感心、感心。そこまで突っ込めるのは楓しかいない。――でも、オーラって何?」
「えー? オイルとか言ってたから、オーランチオキトリウムかと思って」
「な、何それ?!」
「えっ? 高濃度の炭化水素オイルを産生する藻類だけど…」
「ご、ごめん。さすがに俺でも分かんねーわ…お前の博識すげーわ…」
生駒の整備士としての実力にもだが、雑学を詰め合わせたような博識ぶりに、出雲は最後は呆れたように首を横に振るのだった。
「それより、アンカー使ってみたいんでしょ?」
「ああ、使っていいってんなら、使いてーけど…」
「いいよ。あそこに撃ってみなよ」
生駒は一つの金属で出来た人型の様なものを指差すと、出雲は生駒の指先に注目するよう、視線を動かすのだった。
「へ―、…模型かー?」
「まあ、模型というより、硬度をそれらしくした金属の塊なんだけどね…」
「OK、OK。とりあえず、撃ってみるわ。慣れてなくて危ねーから離れといて」
「わかった」
出雲の言葉に従うように、生駒は出雲から距離を取る。
出雲は生駒が離れたのを確認した後、態勢を整える様に身構えるのだった。
「どっち、撃つー?!」
「どっちでも! おすすめは、打撃式!」
「了解!! じゃあ、撃つぞ」
アンカー発射の確認を生駒にとった出雲は、標的に狙いを定める様に手を動かし微調整すると、再びアームを注視するように確認する。ただ、直ぐに発射すると思われた出雲だが、珍しくウロウロと顔を忙しなく動かすと、生駒に再び顔を合わせた。
「すまん! これ! 発射は個別声紋認証?」
「あっごめん。言い忘れてた! 違う違う! 前腕の手首の下!」
「ああ! このリングみたいなやつか?」
「そうそう! 奥にスライドで発射、手前で巻き取り! 誤作動防止で、結構力いるよ!」
「あーー! アイシー、アイシー!」
お互い凄く適当な会話だが、出雲は直ぐに生駒の言葉を理解すると何度も首を縦に頷き、「わかった」と手を上げる。そして直ぐに気を取り直す様に、視線を標的に向け構えた。
「今度こそ撃つぞ?」
「いいよー!」
「オーライ! ――行くぞー! どっせい!」
出雲の謎の掛け声と共に発射されたアンカーは、バスンッと飛び出すような音を鳴らし標的に向け飛ぶ。そして、金属に無理やり食い込むような打撃音を響かせ、一瞬で標的に突き刺さると、出雲は食い込んだアンカーを、腕と体を使い、力いっぱい引っ張り、きちんと固定されているのを確認したのだった。
「おーー。きちんと固定されてんじゃん!」
「よしよし! 出雲君、巻き取りは―――」
「―――あーい!」
「馬鹿――」
生駒の言葉を全て聞かぬまま、いい加減に返答した出雲はアームの巻取り機能を作動させるため、おもいっきりトリガーを引いたのだった。
「わっつ――」
急に起動させたウインチのフルパワーに、出雲は地面を跳ねる様に引っ張られると、引きずられるように標的の鉄の塊に突っ込んでいく。生駒が唖然とした表情をする中、出雲は瞬時に地面を片足で蹴り、身体を空中に投げ出すと、標的に対し垂直となるように体を捻り、両足で模型に着地すると同時に衝撃を殺したのだった。
「あっ、あっぶねー! ――バカー! お、俺じゃなかったら、怪我してたぞっ!!」
出雲は地面に体を平行にしながらも、生駒を向き多少怒鳴り声を上げると、模型を蹴るようにして、地面に足を着けた。
生駒も出雲の無事を確認して、ほっとするように胸を撫でおろした後、反論するように大きく口を開くのだった。
「馬鹿はそっちだよーっ!! なんで、僕が喋ってる途中で起動させるのっ?!!」
「さ、先に言えよー! …それより、これ! どうやってパージするの?!」
「トリガーを捻る様に回転させてっ!」
「あー、なるほど。――わかった!!」
出雲は生駒に言われた通り、すぐさまトリガーを捻るように回転させると、カシャンと細かく音をたて、ワイヤーの付いたカートリッジが、横に飛び出す様に排出される。出雲はそれを確認すると、つぼめた唇で賛辞する様に、短く音を鳴らすのだった。
「ヒュウ。すげー…」
「凄いだろー」
「ほんとすげーよ。―――うん。…それよりさー、これ…」
「うん。なに?」
出雲は生駒を称賛するが、違和感を覚えた様に、急に自身の足に装着しているブーツを不思議そうに眼を見開いた顔で見つめる。そして、首を捻ると何度も地面を踏みブーツの感触を確かめ、両足で軽くジャンプを繰り返した後、近寄って来た生駒に、更に困惑した表情で顔を合せたのだった。
「これさー。オイル式の高性能ショック使った耐衝撃制御は分かるけど…もしかして、力覚センサーとか、感圧式の出力調整装置?みたいなの組み込んでる? 詳しく分かんねーけどさー…」
出雲の首を捻りながらの質問に、生駒は口と眼を大きく開いた後、顎に手を添え、片方の口角を上げると、得意げな顔を披露するのだった。
「おーーっと! さすが出雲君!! ご褒美に、僕がチューしてやろう――」
「――やめろ! メタノール中毒! それより、説明しろ」
生駒は気付いてくれた事への嬉しさからか、わざとらしく口を窄めふざけるが、出雲はそれをあしらう様に跳ねのけると、珍しく真剣に問いただす。
「…普通喜ぶだろ。なんで僕、劇物扱いなんだよ……まあ、気になってるようだしさ。今から解説するよ」
「ああ、頼む」
生駒は出雲が頷いた後しゃがみ込むと、出雲の身に着けているブーツのパーツを、一つ一つ指差し説明を始めるのだった。
「うん。耐衝撃機構は出雲君が言う通りだよ。力覚センサーは6軸を採用している」
生駒はブーツのシリンダー部分を指差した後に、自分の掌に3つの力の方向を表す様に指で圧力をかけていく。
「6軸。いわゆる、X、Y、Z軸のモーメントと軸に対するトルク計測だね。そして、それを圧縮空気とスプリングを補助推進に―――」
「―――待て待て待て! 圧縮空気なんかじゃ――」
「―――最後まで聞けよ!! 君が言う通り圧縮空気なんかじゃどうにもならない。だから、圧縮空気は、あくまで微小のバランサーだよ。実際のメイン推力。というかアシストしてるのは、超伸縮、超柔軟、超感度が可能にする。言ってしまえば、君が大好きな――」
説明中に食い気味で言葉を挟んだ出雲を御するように、生駒は注意すると、身振り手振りで説明した後、自身の掌を重ね、上下にギュッと閉じる様な仕草する。そして、もったいぶるように一度言葉を止めると、出雲に視線を合わせるのだった。
「「超変形機構」か?!」
二人の声が重なると、生駒は片目を閉じ、正解と言わんばかりに出雲を指差し、説明を続ける。
「そう。導電性高分子。君は知っていると思うけど、分かりやすく言うと、電気を通すプラスチック」
「ああ、電気活性ポリマーだよな?」
「そう。自由度の高い誘電性エラストマーアクチュエーター。弾性を持った高分子、誘電性エラストマーと、エネルギーを動作変換する装置、アクチュエーター。その二つを利用した、言ってしまえば人工筋肉。そして、発電素子、センサーとしても使用できるそれを使った、実験的な液体筋肉も搭載してみた。まあ、正確には高アンプを使った油圧自己修復装置なんだけど」
生駒の説明に出雲は顎に手を添え、視線を外し俯くようにして考えた後に、細かく頷くと、再び生駒に視線を合わせた。
「人工筋肉で筋力が増強される装置…って事か?」
出雲の問いかけに、生駒は瞳を閉じ、否定するように首を横に何度か振った後に、会話を続けるのだった。
「ううん、違うんだ出雲君。凄く簡単に言えば伝わる力をより面にして大きくし、斜め上にかかる推進力を、なるべく進行方向に力がかかるようにする装置なんだ。いわゆる筋力増強というより、君の高い身体能力を更に接触面に伝えるアシスト機構。だからこその、ブーツタイプなんだ。いくら君でも力を掛ける足場がなければ、どうにもならないだろ?」
生駒は真剣に力説した後に、出雲を「どうだ」言わんばかりに指差し微笑む。その仕草に、出雲は大きく息を吐いた後に、再び感嘆するように声を漏らすのだった。
「…はぁー、すげーわ。…生駒ちゃん」
「ふふっ、凄いだろ? 僕の実力を思い知ったか?」
出雲の感嘆する声に、生駒は更に有頂天になると、上機嫌で言葉を返し、胸を張るようにして威張る。
「うん、すげー。もう、好き」
「好き?!!」
「そうそう。…でも、一時の感情でお前なんか抱いたら、それこそ一生もんの恥というか、人生最大の汚点というか……お前は、どうせ
「…なんで僕が酒関係の地獄で、君に至っては獣姦関係の地獄に落ちるんだよ。…君は、僕の事を生理的に嫌いすぎだろ……」
出雲のいつも通りの、上げてから落とす言動に、生駒は忙しなく動かしていた体を止めると、スンっと感情の消えた顔で呟き返したのだった。
「人の事、獣って酷すぎるだろっ!」
「ははっ。――…生駒ちゃん。ちょっと、本気で動いてみていいか?」
抗議する生駒に、出雲は乾いた笑いを返した後、急に真剣じみた様に視線を尖らせると、生駒に声を掛け、倉庫内を見回す。
「うん、良いけどー…感覚が違うと思うから、気をつけなよー」
「おう」
生駒の了解のとった出雲はその場で屈伸した後、尚もブーツを履いた感触を確かめる様に、片足に力を込めてみたり、足底を見る様に足を上げ、後ろを振り返ったり、暫く動作を確認する動きを繰り返した後、その場で何度か小刻みにジャンプする。そして、準備が整ったのか、両足に力を込めた後に、地面を蹴り走りだす。
出雲は全力で踏み抜いた時、地面に伝わる、いつもと違う感覚に少し戸惑う様な顔を見せたが、何度も地面を蹴るうちに少しだけ分かって来たのか、さらに加速すると倉庫内の壁にぶつかるような勢いで、地面を蹴り上げ跳躍した。
出雲の高い身体能力をさらに飛躍させるように設計されたブーツのおかげか、自分で思うより高く飛び上がった出雲は体を捻るようにして壁を蹴り上げると、更に三角飛びのように上空高くに身を投げ出し、グルグルと何度も空中で回転した後、身を翻し地面に着地したのだった。まだ十分に感覚が掴めていないのか、その余りの反動故か、着地後に少しだけよろめいた体を、持ち直す様にして、態勢をたて直したのだった。
「――とっと」
「すっご!!!」
驚きの声を上げた生駒に、出雲は駆け寄ってくると、自身もブーツの性能に半ば呆れたように目を見開き、多少歪んだ顔で声を返す。
「慣れたらやべーぞ、これ!」
「君は、猫科に所属するつもりかい? 相変わらず呆れた身体能力だよ…資料用に録画しといて良かったよ」
「―――もうじき空中で二段ジャンプできるなー…」
「それは無理、出来ない出来ない。ブーツの性能だけじゃ無理だから」
出雲の冗談なのか、判断が付きにくい顔つきで呟いた返答に、生駒は片手を呆れたように横に振る。
「出雲君」
「あん?」
「両方ともまだ試作品だから。悪いけど暫くの間、仕事終わったらセンターで調整に付き合ってよ。僕も、なるはやで卸せるように努力するからさっ」
「ああ、もちろんいいぜ」
出雲の笑顔での返答に、生駒は微笑み返した後、少し悪だくみをする様に口元を緩めると、不敵な笑みを見せたのだった。
「ふへっ…それと、さ…」
「うん? なに?」
「悪いんだけど、もう一つだけ実験に付き合ってよ…」
「あぁん?」
「君に、ご褒美を上げた僕にも、ご褒美を貰わなきゃー。ね?」
「あ?」
尚も企んでいるように不敵な笑みを返す生駒に対し、出雲は思い当たる事が無いと言わんばかりに、自身の首を大きく傾けるのだった。
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