第14話 New Weapons 『Hydra』

 出雲は突然現場まで迎えに来た、AHEメカニックの生駒楓によって、拉致されるように、機材センターまでの道のりを共にする事になった。

 今時珍しい生駒の操るスポーツカー『ロータス エリーゼ』に乗り込んだ二人は、機材センターにつくまでの間、世間話を楽しんでいたのだった。


 ♢


「ねえねえ、結局さー。お前何しにきたの?」


 助手席に乗る出雲から、多少馴れ馴れしく話しかけられた生駒は、運転しながらチラッと横目で出雲を睨むと、再び前を向き返事を返す。


「お前って言うなって言っただろ、僕。…君に頼まれていた物の試作品ができたのと、いつもの新武器のデモンストレーターをお願いしにきたんだよ」


 出雲は生駒の返答に、多少誇張したように驚いた顔を作ると、返事を返す。


「えっ、まじで? 頼んでたのできたのっ?!」


「試作品だけどね。まあ、新武器の実験手伝ってくれたら見せるよ」


 生駒の言葉に、出雲は自身の右手を握り拳を作ると、任せろと言わんばかりに生駒に向けて、その拳を振りかざすのだった。


「まかせろまかせろ、契約成立だ。新武器も楽しみだなー。ねえねえ、どんなの作ったの?」


「ふっふっふ。それは、ついてからのお楽しみだよ、出雲君。…僕、頑張った。僕、凄い。身を削ったかいがあったよ」


 出雲から自身が制作した新武器の事を聞かれ、若干上機嫌になった生駒は、ハンドルを握りながらも、自身を称賛するように呟くと、頭を小刻みに揺らしながら、したり顔を出雲に見せた。出雲はそんな上機嫌の生駒の顔を見た後、何度か自身の首を上下に揺すると、返事を返すのだった。


「へーーー。あれか、八塩折之酒やしおりのさけを飲んで酩酊した、お前の尾っぽから、草薙ブレードでも―――」

八岐大蛇やまたのおろちじゃねーよっ! …そう言う意味の、身を削ったじゃないしっ! 何度も言うけど。僕、酒豪って訳じゃないからねっ!」


 出雲の多少小馬鹿にしたセリフに、生駒は運転中にもかかわらず、出雲に多少尖らせた顔つきを合わせ突っ込み返すと、再び前を振り向いた。返ってきた生駒のリアクションに、出雲は多少意地悪そうな笑みを浮かべ、笑い声をあげるのだった。

  

「ははっ。でも、酒癖わりーじゃん。今も俺、実質監禁されてるし。早くお爺さん、お婆さんの元に返りてーよ。布志名のみこと、早く助けに来ねーかな。」


「……なんっで、君が奇稲田姫くしなだひめポジションなんだよっ。…おかしいだろ」


 出雲の軽口を聞き、生駒は口を半開きにし、呆れたような表情を作ると、多少力の抜けた声で返事を返したのだった。


 2人は途切れることなく会話を交わすが、市街地を抜けた瞬間。

 生駒は、不意にサングラスを取り出し、自身に装着すると、前を見ながら出雲に声を掛ける。 


「―――飛ばすよ」

「あぁん?」


 出雲は生駒の声が聞き取れなかったのか、多少荒くれた声を返すが、生駒は既に臨戦態勢に入ったかのように、目を尖らすと、愛車のギアを叩き込み、右足のアクセルに力を込めた。


「いくよっ。」

「おまっ、ちょっと待てっ!! 踏ん張る―――」


 出雲が声を返す間もなく、ギアのあげられたエリーゼは、急加速するようにスピードを上げると、出雲は突然の事に踏ん張り損ねたせいで、座席シートに吸いよせられるように、頭と背中を叩きつけられたのだった。


「―――うっは」


 出雲は言葉を漏らした後、直ぐさま、ドアに自身の手を掛け、足を踏ん張るようにして力を込めると、生駒に抗議するように、必死な形相を彼女に向けた。


「く、車は! きゅ、急の付く運転! ダメなんだぞっ!!」


「ロータスエリーゼ。お前に魂があるのなら…―――」

「―お前は『A〇E』にでも、所属してんのか… まあ、俺も愛読書だけどな。もう、最っ高!」


 生駒が言うロータスエリーゼに魂が宿ったのかは分からないが、二人の乗る車は、スピードを上げると、あっという間に目的地の機材センターに到着したのだった。


――re:write―――


 街外れにある広大な敷地に、一際大きなゲートが一つ。

 大型車も通れるような門扉の前で、生駒は運転席のウインドを下げると、ICセキュリティカードを、カメラ機能のついたモニターに提示する。そして、認証されたと同時に、読み取り機器にかざすと、間の前のゲートが自動的にスライドしていく。

 開いていくゲートの隙間から、出雲が捉えた視界には、徐々に大きな建物と、多種多様な重機が見えてくるのだった。


 ゲートが開き切ると、生駒は自身の愛車を、一番手前の第一倉庫と書かれた場所の空きスペースに入れ、車を停車したのだった。


「はいはい、出雲くん降りてっ。新武器の実験だよっ。実験」


「…もう、お前絶対捕まるからなっ」


 上機嫌で手を鳴らす生駒とは違い、ここへ来るまでの道のり、余程大変な目に合ったのか、出雲は少しだけ生気がなくなったような声でボソッと嫌味を返した。そして、若干嫌気をだしたような表情を見せたが、生駒に急かされ、シートベルトを外すと、多少グダった動きで、車外に出るのだった。


 出雲たちの目の前にある第一倉庫。

 外から見てもわかるから位に、一際頑丈に見える分厚い外壁に囲まれている。

 実際、防音、対衝撃も完璧な倉庫らしく、新武器などのテストプレイにも使用される実績のある倉庫だ。

 広さで言えば、だいたい学校の体育館位はあり、中にはエリアに分けて、色々な機材が置いてあるのだった。


 そんな、第一倉庫の中に、二人は入って行くのだった。


「…生駒ちゃん。…あ、あいつは?」


 倉庫の中に入って、出雲は何故だか生駒の顔をチラチラ気にしながら、若干聞きづらいのか、言葉を詰まらせながらも生駒に尋ねた。生駒はその声に、後ろにいる出雲を振り返るのだった。


「うん? あー素直なお? 今日、本社行ってるからいないよ」


「…そ、そっか。…あ、あいつ、元気?」


 出雲にしては珍しい、しおらしい態度に、生駒は若干呆れたように半開きになった口を出雲に見せると言葉を返すのだった。


「…き、君は…。もー、自分で聞きなよっ? 君さー、素直なおも言ってたけど、なんでそんなに素直なおに他人行儀なの? 他の人には傍若無人な癖にっ」


 生駒は出雲に詰め寄るようにして問いかけるが、出雲はきょどるような視線を、生駒から反らすように、顔を背ける。


「い、いや。や、やっぱな、あいつは、な…」


「…まあ、言いたいことは、分かるけどさー」


 生駒は出雲が、素直という人物にしおらしくなる理由を知っているかのように言葉を返した後、再び前を向いて歩き出した。そして、暫くした歩いた後、前を向いたまま出雲に喋りかけたのだった。


「…僕から追加で情報あげるよ。この前二人で飲んだ時、素直なおさ。大分、君の愚痴言ってたよ。あんまりさー、気にしすぎも良くないんじゃないのかな?」


 生駒から言われた言葉に、出雲は唇を中にしまい、バツの悪そうな顔をした後に、返事を返したのだった。


「…あーー、了解。まあ、機会があったら話すよ。…あー、もう!! この話は終わりだっ! 武器だ。武器を見せろ!」


「ほんっとっ。―――わかったよ。直ぐに用意するから、待ってて」


 出雲の若干不貞腐れた態度に、生駒は呆れたように言葉を返した後、天井から伸びたコードを手繰り寄せ、リモコンの様な物の電源を入れる。そして、リモコンを持ったまま奥に置かれていた、一つの重そうな物体の近くまで行くと、慣れた様に玉掛けすると、リモコンを操作し天井に設置されているホイストクレーンを動かしたのだった。


「―――これ、結構重いんだよね。試作品だから、実際25㎏あるんだよね」


 生駒は天井クレーンを操作しながら、ブツブツと不満を呟くと、出雲の近くにその物体を降ろしたのだった。


「まずは、これ。通称『ハイドラ』。回転打撃複式パイル・ドライバー。3点式杭打機を6連装にした物だよ。形状はおっきいリボルバーみたいでしょ?」


「造形が、かなりカッコいいな。…なんか、スーパーロボットとかの腕についてそうだもんな」


 生駒がクレーンから降ろした『ハイドラ』と呼んだ武器を、生駒は腕を組みながら、片手の親指だけで指し示すと、武器の使用について説明しだした。出雲はその説明を頷きながら真剣に聞いた後に、称賛しながら、その武器に近寄るのだった。


「…君なら、絶対そう言うと思ったよ。…補足説明させて、『ハイドラ』は、最終打撃に火薬も使うからね。注意してね」


 生駒の説明に、出雲はハイドラを見ながら、凄く嫌そうな顔を見せたのだった。


「うっわっ! 衝撃凄そうだなー。…俺の手、吹き飛ぶんじゃねーか?」


「吹き飛ばねーよっ! 僕を舐めるなよっ! ただ、出雲君が言うように衝撃は凄い。バイブロ使いの出雲君ならわかると思うけど、ノックバックは必ずあるからね」


 出雲のわざと下げた眉と軽口に、生駒は顔を尖らせ、直ぐに反論すると、更に武器の仕様について説明する。出雲はそんな生駒の態度に、自身を親指で何度も指差し、自身満々な顔を披露した。


「まあ、俺は基本となるバイブロ使えるから大丈夫だ! なんせ、木田仕込みだからなっ! はっ! 零式に比べたらハナクソみたいなもんだっ!」


 出雲は『任せておけ』と、言わんばかりに言葉を言い放つが、生駒はその言葉に、凄く嫌そうな顔つきだと誰でも分かるくらいに顔を歪め、出雲を見つめるのだった。


「…あれをー、基準にしないでよーーっ。…あんなの僕の師匠が作った悪ふざけと狂気の塊なんだから。……誰が使うんだよ…」


 生駒の言葉に、出雲は何かを思い出したかのように何度か頷くと、生駒に顔を合わせ声を掛けた。


「あっ、そういやー、あいついねーな」


「うん。出掛けてるよ」


「あーーー、人間狩りか。やっぱ四天王最強のテッ〇・〇ロイラーは忙しいなっ!」


「ま、ま、まっ! き、君ッッ!! な、な、なんでそれ言うのッ! し、死にたいの!!」


 生駒は出雲の言葉に完全に取り乱すと、慌てふためいたように自身の体を動かし、大きく何度も首を横に振りながら、必死の形相で出雲に注意する。生駒の取り乱し方は尋常ではなく、出雲に口を開けて詰め寄るようにして体に触れるが、出雲は全く気にしていないかのように、とり作った笑い声をあげるのだった。


「はっはっは―――」


「…笑えないよ」


 注意しようが気にせず笑い声を上げる出雲に、生駒は、今度は沈み込んだ様な、凄く深刻な顔を見せると、恐る恐る、自身の過去に起こった悲劇を語りだしたのだった。


「……君がさー。その言葉を師匠に呟いて、上機嫌でセンターを出て行った後、師匠も気になったみたいでさ。…PCで検索しちゃったんだよね。…はじめはさー、『海外のスターの名前かしら?』とか言ってたんだけど、画像が出てきた瞬間―――」


「あー、そっくりだなって、ようやく自覚したんだろ」


「ちっ、違うよッッ!! …し、師匠の顔がさ、しゅ、瞬間的に真っ赤になって、ワナワナ体を震わせ始めてさ、座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がり―――」

「『』。って言ったんだろ」

「君は、もう殺されてしまえ…」


 会話の途中で挟み込んできた、出雲の暴言に、生駒は光を失った瞳で出雲を見つめると、抑揚のない声で、若干哀訴するように呟いたのだった。


「もーーっ、ほんっとに! 言わないでよっ! それより早くテストしてよっ」


「あー、もう言わねー言わねー。あいつえーし。ハヤブサの出雲でも、苦戦するからな。 鉄の白石はくいし! 暴走風俗通いの布志名! 不死身―――」

「―――黙れよ。いいからやれよっ!!」


 生駒に本気で注意された出雲は、生駒に微笑み返した後に、ようやく本腰を入れた様に、さっきまでふざけていた顔つきを変え、目の前の武器に集中すると、ハイドラを持ち上げながら、まじまじと見つめ始めるのだった。


「左はバイブロ専用だからね。右につけるよ。…おっも。あぁ、コレ引いといて、ぶつけてガンっ、タイプか」


 出雲は武器の使用方法を、生駒から説明を受ける前に、感覚で語りだすと、片手で重量物を持ち上げ、自身の右腕に合うか確認し始める。ようやく真面目になった出雲に、生駒も安心したように、大きく息を吐き出した後、ハイドラを指差すのだった。


「そう、君が言う様に、対象に3点設置後、手前にトリガーを引いて、最後は押し込む感じだよ。トリガープルで連装杭が振動回転するから、プッシュで火薬推進すれば、ボンボンボンっと、回転するように杭が連続で相手を打ち抜く、ってわけ。やたら硬い敵とかの装甲を貫くのを目的にしてるよ」


 生駒は腰に両手を添え、出雲に武器の最終説明した後に、重ねた分厚い鉄板部分を指差し、『ここに打って』と、指で催促する。出雲も生駒の思惑を理解すると、頷き返した後に、自身の右手に、ハイドラを装着したのだった。


 用意が整った出雲は、鉄板の前まで歩いていくと、距離を取り、自身の体を安定させるように、どっしりと重心を落とした。そして、こまめに足元の位置を調整すると、ハイドラをつけた右腕を胸の位置まで上げ、攻撃目標を尖った視線で凝視した。


「いくぞっ!! 生駒ちゃん!!」


「いいよ。こっちもセットできてる」


 生駒もたくさんの計測器や、動画録画用のカメラを既にセットしており、出雲に準備が整っている事を合図すると、自身の前に用意していた、床に置かれたPCの前に座り込みながら待ち構えるのだった。


「うっしゃ。ぶち込むぞっ!」


「――すーっ」


 出雲は自身の首をゴキッっと横に捻り鳴らした後に、大きく息を吸い込む。


「いっけぇぇ!! ハイドラぁぁああ!!」


 出雲は掛け声と共に、右腕を対象の鉄板にぶつけると、三点式アンカーを瞬時に設置、そして、ハイドラのトリガーを力いっぱい引く。瞬時に回転、振動し始めたハイドラは、出雲の右腕を揺らす様に鉄板に食い込んでいくと、出雲は、『ここだ』と言わんばかりに、ハイドラのトリガーをめいいっぱい押し込んだ。


「ぶちぬけぇぇえ!!」


 出雲の声に合わせるかのように、ハイドラの6連装杭が回転するように火薬で押し出されると、連続で射出された杭が、ボンッボンッと破裂音を鳴らし鉄板に食い込む。そして、全ての杭を打ち出し、最後には分厚い鉄板をガキンッという轟音と共に完全に貫いたのだった。火薬の反動で、出雲は少しばかり後ろにノックバックするが、直ぐに態勢を整えると、薬莢が吐き出されたハイドラを持ち上げ、見つめるのだった。


「いいねぇ!確かに、硬いやつに使えそうだ。ちょっと衝撃が凄いけどな。後やっぱり重いな」


「うーん。そうなんだよね。フレーム強度上げたのと、複式機構と火薬推進のせいで、必然的に重くなっちゃうんだよねー。衝撃も、凄いねー…。…計測数値見る限り、もっと抑えなきゃだよ。あーもう、今は出雲君専用武器だーー…」


 出雲はハイドラの事を誉めながらも、使ってみた感想、改良点を伝えると、生駒は出雲の意見を聞きながら、自身のPCに表示された数値を見た後、自身の額に手を当てると、納得いかなかったのかガックシと頭を下げるのだった。


「―――炭素、かな―――いや、エンジンをもう少し―――うーん、ショックも」


 生駒は真剣な顔つきで、先程計測した数値と、出雲が身に着けるハイドラを交互に見ながら、ブツブツと改良できるところがないか、独り言をつぶやき始める。自身のPCでハイドラの設計図を開くと、そのまま改良できそうなポイントを記入していくのだった。

 出雲はその姿を見ながら、少し悪そうに微笑んだ後に、生駒に声を掛けた。


「生駒ちゃん、あれは? あれ」


「…あーーー、待って。今降ろす」


 出雲が笑顔で『あれあれ』と言うと、生駒は瞬時に理解したかのように、PCを操る手を止めると、倉庫の隅の運搬具に乗せてある荷物を指差した。


「そこにあるのが、出雲君ご所望の『メカニカルブーツ』と『アンカーパッド付メカニカルアーム』の試作品だよ」


 生駒は出雲ご所望の品を指差した後に、出雲にニヤリっと微笑み、右手の親指を前に突き出し、力強く立てた。

 生駒の態度に、出雲も不敵に微笑み返すと、拳を突き出すのだった。


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