第12話 A Role Assigned ② High Medical
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数分後、出雲たちが待っていた医療班が到着する。
見るからに頑丈そうな防護服に身を包んだ白い装いの集団。
集団の一番前にいた人物に出雲は手を振り、近寄ると声を掛けた。
「お疲れさんっす。…これ、あの子の採血データ。」
出雲は防護服を着た人物に声を掛けると、更に近寄りデータチップを差し出しながら、薫の方を指差した。その声に防護服の男は頷くと、顔の横にある突起部分を押し顔を包んでいたシールドを上げ顔を見せた。
「お疲れ様です。確かに受け取りました、出雲さん。」
防護服の男は出雲からデータチップを受け取ると、すぐさま自分の左腕に着けていたデバイスに受け取ったチップを読み込ませた。セットしてすぐに数値化されたデータとグラフのようなものが液晶画面に浮かび上がると、男はそれを確認するように見つめる。
「基準値と比べると、若干だけど一部の数値がオーバーしてます。あくまで若干だからねっ。Hbが120位。…だから、早期治療頼みますよー、ハイメディカルさん。」
「そんなに強調しなくても最善は尽くしますよー。」
出雲の意地悪そうな顔と大げさに人を指差す態度に、防護服の男は少したじろ気ながらも言葉を返す。
「いや、なんてったって、《ハイ》》メディカルだからねっ。ハイメディカル!」
「もーーー。相変わらず、意地悪だなー。」
出雲は更に大げさに防護服の男の会社名の一部を連呼し強調すると、凄むように眉を曲げ顔を近づける。出雲の言葉に防護服から少し見えている顔を更に歪ませると、男は参ったと言わんばかりに自身の頭を防護服の上から搔くと苦笑いしながら言葉を返した。
「当たり前よー。善波さんはハイブリッド化治療のプロフェッショナルなんだから!!」
「はいはい、ですね。…うん、確かに。この値なら充分早期治療可能です。」
出雲に善波と呼ばれた男はしつこく自身の事を弄る出雲を軽くあしらうと、液晶に映る薫のデータを再度確認する。そして、左腕のデバイスを操作し受け取った薫のデータに情報を追加するように何かを打ち込んだ後、出雲に言葉を返す。
善波から返ってきた言葉に出雲は無言で頷くと、安心したようにようやく笑顔を見せた。
「うん。…凄い。」
データを見る善波が突然呟く。
「えっ?何が?」
出雲は善波の主語のない呟きに、ぶっきらぼうに尋ねる。
「いえ、いつもの事ながら出雲君の対応はパーフェクトですよ。抑制剤注入、体外循環。…それにあの子を見れば分かります。アフターケアまできちんとしてある。」
「アラーツですから。当たり前の事してるだけっすよ。」
出雲の行った対応に善波は本心から感心すると、薫を見ながら褒めちぎるように言葉を掛ける。その言葉にチラリと薫を振り返った出雲は、とるに足らないことだと言わんばかりに鼻を鳴らすと、したり顔を善波に披露し言葉を返した。
「…毎回言って申し訳なるんですがー。…医療班にきませんか?」
「誘ってくれるのはありがたいけど、俺は現場仕事が性に合ってます。」
善波の言葉に考えるそぶりも全く見せず、出雲は善波の誘いを慣れた様に断ると満面の笑みで笑うのだった。
「ですかー。…前も言いましたけど、うち結構給料いいですよ。」
出雲に断られた善波だが、出雲を何度も誘っているような口ぶりで囁くと、コソコソと手でお金を示す形をとるのだった。
「…善さーん。…でもね、お金だけであの笑顔が見れなくなるのは―――」
出雲は善波の言葉に呆れたように肩を落とした後に言葉を続けると薫に視線を合わす。そして、布志名と楽しそうにしゃべる薫の笑顔を確認した後、グルっッと力強く善波を振り返り、顔を上に向け顎を突き出すと瞳を閉じ優しく笑ったのだった。
「すこしつらい…かな?ははっ。」
出雲は片目だけを開くと善波に言葉を返した。実に出雲らしいと言える言葉と表情に、善波はまたしても参ったと言わんばかりに自身の頭をポンっと右手で叩くと微笑み言葉を返すのだった。
「ふふふ。本当にあなたを引き抜きたいだけに残念です。…では、患者を。」
「おっけ。…カオルンー!!こっち来て―!!」
出雲は任せてと言わんばかりに善波に親指を立てると、大声で薫の名前を呼ぶ。
出雲の自分を呼ぶ声に振り向いた薫は、布志名に促されるように立ち上がると、出雲の傍に小走りで駆けていった。
薫は出雲に近づくにつれ、重々しい防護服を着た男達が怖くなったのか、若干怯えるように出雲の身体を捕まえ背中に隠れると、ヒョコッと顔を出し警戒するように善波達を見つめる。
「大丈夫だよ、カオルン。この人達、風呂入ってなくて体がクセーから、あんな服着てんだよ。」
「そ、そうなんだ…た、大変だね。」
自分に掴まり身構える薫に出雲は薫に微笑み声を掛けると、善波達を指差し突然愚弄し始める。突然放たれた自身を貶す言葉に善波達は唖然とし絶句するのだった。
「もーーー。すぐそういう事言う!その子が信じるじゃないですかー!…全く。」
出雲の言葉に暫く固まる善波だったが、薫から向けられた若干憐れむ視線に
すぐさま声を大きくして反論する。
その必死に弁解する姿に出雲は再び笑い声を上げた。
「はははっ。カオルン、この人達がお医者さんだよ。…クソクセーけど。」
「…一言余計ですよ、まったく。…まあ、防護服は臭いですけどねっ。ははは…」
出雲は薫に善波達を手短に紹介すると、またしても余計な言葉をボソリと呟いた。
善波もあきらめた様に言葉を返すと、出雲の言葉を肯定するように力なく笑い、自身の防護服の匂いを嗅ぎながらしかめっ面を披露するのだった。
「ふふ、ふっ。ははははは。」
「うん。そんだけ笑ってくれると俺も善さんも嬉しいよ。…後でお見舞い行くからね。」
「うん。」
無垢に笑う薫の顔を見た出雲は優しく微笑むと穏やかに声を掛けた。その声に応えるように薫は元気よく首を縦に振り言葉を返した。
2人の光景を見る善波達にも思うものがある.
短くウンと頷いた後、自身の背負う会社名の入っている防護服の胸をしばらく見つめる。
ハイブリッドになった人は、もう助けられない。
だが、なりかけの状態なら自分たちなら何とかできる。
自分たちは、Heal Hybrid human Hyper Medical
通称High Medicalなんだと再び胸に刻むのだった。
「善さん!!」
物思いにふける善波に、出雲は大きく声を掛ける。
善波はその大きな声に、出雲に顔を向けた。
「よろしくお願いします!!」
顔を向けた善波に、出雲は深々と頭を下げていた。
先程までの生意気な口調で煽る出雲の姿はなく、ただひたすら懇願するように自分たちにお願いし、少女の回復を信じる出雲に善波は自身の胸を任せてくれと言わんばかりに大きく叩くのだった。
「ええ、任せてください!後は僕達の仕事…いえ、使命と責務です!…『瞬時快復、即退院』ですよ!!」
「はっははは、なーにパクってんのぉ!それ、アラーツじゃん!!」
善波の自信満々に放った第7班アラーツを示すスローガンをもじったセリフに出雲は大声を出し笑うと突っ込む。
「ははは。良いものは真似しますよ。…良ければ、最後に本物聞かせてもらえませんか?」
「りょーーーっかい。」
善波からの突然のお願いにも出雲は快く声を返すと、目を閉じ大きく息を吸い込む。そして勢いよく顔を上げ前を向いた。
「どんなに絶望的な状況でも、常に考え、声に出せ。そして、行動で示せ!仲間を信頼した先に描いたものを展開しろ!!活路はその先にいくらでもある!!」
「『瞬時判断、即展開』!!」
「「了解!!瞬時判断、即展開!!」」
出雲の大きな声があたりに響くと、皆が敬礼し出雲の言葉を復唱する。
その光景に薫も辺りを見渡した後、皆を真似するように手を額にあてたのだった。
その後、善波に手を引かれと立ち去っていく薫に向けて、出雲と布志名はずっと手を振り続けていた。時折、出雲たちが気になるのか薫はたびたび後ろを振り向くと、同じように出雲たちに手を振っていた。
歩きながら善波は、ふと薫に声を掛ける。
「薫さん。その怪我は僕たちが治します。だから、早く元気になってください。後ろで手を振る人達を一緒に喜ばせましょう。」
「はい。」
善波から声を掛けられた薫は伝えられた内容を肯定する様大きく頷く。そして自身に宿っていた恐怖や不安を吹き飛ばす様に善波に大きく声を返した。善波もその小さい体躯から出された力強い声に大きく頷くと会話を続ける。
「でも、本当に第7班アラーツは良い班でしょう?有名人の出雲君もいますしね。」
「ゆーめいじんー?…しゅとさんは、有名なの?」
「ええ、あなたを助けた出雲 儚さんはこの界隈では有名人ですよ。」
聞き返した薫に善波は言葉を返すと、一呼吸置く様に少し間を空けた後言葉を続ける。
「出雲さんは、エレクトリカ最強では無いかも知れません。ですが、私が知る限り―――」
前を向き歩く善波は途中で言葉を一度切り薫に振り向いた。
「間違いなく最良の人です。」
善波の真剣な瞳と信頼を現す言葉に、薫はもう一度頷くと出雲たちを振り返ったのだった。
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