第11話 (少しだけ修正中)A Role Assigned ① AL★e★RTs
レネゲイズと思わしき女との邂逅。そして、戦闘。
出雲は想像を絶する女の強さと歯切れの悪い幕引きには納得できないわだかまりがある。
だが、なりかけの少女を救出できた事実は変わらない。
当初の目的は遂行でき助けることのできた命に出雲は感謝すると同時に安堵の表情を浮かべる。そして、自分の傍らで恥ずかしそうにも自身の手を握る少女に出雲は笑顔を向けていた。
出雲の勝手気ままな性格もあるが、すり減っていた少女の心にも、ようやく光は見えたのだろう。二人が地上に戻るまでの間、その手をお互いが離すことはなかった。
♦
地上に出ると待ち望んていたかのように暖かい陽光が3人を照らす。地上で少女を捜索していた時の焦る様な気持ちが助長した邪魔になる暑さも、暗闇の中で生死をかけた戦闘からくる冷え切るような冷たさも、今はどうでもよくこの光が心地良い。
出雲は地上に吹く風に更に気持ちよさを感じていたが、若干息を切らし少し疲れが見える少女に気遣うと、すぐさま建物の遮蔽物を指差し誘導した。そして、少しでも暑さを緩和できるよう日陰にあった腰掛けられそうなブロックに座ると少女を横に座らせ話しかけた。
「ごめんね。疲れているのに歩かせて」
「ううん。ダ、ダイジョブです」
少女を気遣う出雲にこれ以上心配を掛けたくないのか、少女は大きく首を横に振り疲れていないと大げさにアピールすると言葉を返した。そんな少女の気遣いにも似た遠慮に出雲は気づくと、ごそごそと自分のバックを漁り始める。出雲の突然の行動に少女と布志名が注目する中、全く気にせずに出雲はポイポイと道具や薬をあたりに散らばせた後、両手で二つのものを掴み取り少女に言葉を掛ける。
「あ、これ飲む? クソまじーけど、一応ジュースだよ」
出雲はアンプルの入っていたバッグから500mlのペットボトルと紙パックを取り出すと少女に両手で持った飲み物を差し出した。
「な、ナニコレ?」
その出雲が取り出したジュースと言った飲み物だが、少女が見た感じメーカーはおろか商品名も書いていない謎の飲み物に、少女の呟いた言葉からも読み取れるが若干の不安が広がる。保冷剤と共に冷却バッグに入れていた為、容器に滴る汗の具合からも冷えているようには見えるが、何やら得体のしれない飲み物に少女は困惑するように首を傾げる。出雲は不思議そうに自分を見つめる少女に、手に持つ飲み物を小刻みに震わせ容器の中の液体を撹拌させると言葉を返した。
「自家製経口補水液と冷やし甘酒。いわゆる飲む点滴」
「て、点滴???」
「そっ。クソまじーけど、これで失われた体液の補充と栄養はとれるよ。…まあ、クソまじーけどね」
自分が差し出している飲み物にも関わらず出雲は口を曲げ凄く嫌そうな顔で眉間にしわを寄せると、少女に自身が持つ飲み物のまずさを強調して見せた。
「は、ははは…まずいなら、いらない。かなー…」
出雲から差し出された飲み物だが、まずいと強調された説明を聞き、喜んで飲もうとは思えない。少女は遠慮するように愛想笑いで返すと、首をゆっくりと横に振り言葉を返すのだった。
そんな二人のやり取りを近くで見ていた布志名は、若干困っているのだろうと推測される顔を披露する少女をフォローするよう出雲に近寄ると軽く頭を叩いた。
「いたっ」
「そんなこと言われて飲む人いないだろう。…これで、良かったら飲んでね。」
出雲を叱責した後に布志名は少女に自身のバックから取り出した冷えた飲み物を差し出す。笑顔で差し出された布志名からのプレゼントを少女は受け取ると頭をぺこりと下げるのだった。
「あ、ありがとう。ございます」
お礼を伝えた少女だが、少し緊張しているのか、それとも遠慮からか、受けとった飲み物を飲もうか迷う素振りを見せる。
間違いなく喉は乾いているだろう。見た感じで分かる水分不足で荒れた唇と肌、乾いた喉を潤すように無理やり飲む枯れた唾液、熱中症ではないが発汗からくる疲労も見える。だが、少女は飲み物のキャップを掴んだり離したりを繰り返し、たびたび出雲と布志名に視線を合わすと飲んでいいのかと確認するように目配せする。そんな少女に布志名は腰を落とし目線を合わすと無言ながら優しく微笑み、少女の迷う手に自分の手を添えると飲み物のキャップを開けるのだった。
「はは、開いちゃったね。飲もうってことだね。はは」
「あ、ありがと…」
布志名の対応に少女は頬を赤く染め恥ずかしそうに照れると小さく言葉を返した後に顔を俯かせた。その紳士的な布志名の態度と少女の照れるような素振りに、出雲は睨むように布志名に顔を合わせると、心のこもっていない抑揚のない声を強調するように真顔で呟く。
「なに? 突然のイケメン気取り?」
「何がだよっ」
「まあ、いいや。お前は俺が知る限り一番イケメンだよ。…クソ変態だけどなっ!!」
「なんで切れてんだよっ! お前」
「俺たちは、最強かつ、最良かつ、あの人が作った信頼された技術部隊!第7班、
出雲はこれ見よがしに声を張ると自身の着る作業着の背中を指差し自分が所属する班を誇らしげに強調する。そこには、会社名より大きく書かれた大文字小文字のアルファベットと意味ありげにeを囲う星が映える。自身の誇りにも似たその文字、AL★e★RTsが出雲たちを象徴する様に存在感を放つが、話に脈絡なく自分達の所属する班を誇張するように自尊しだした出雲に布志名は若干戸惑う表情を浮かべながら言葉を返す。
「あ、ああ、そうだけど。…それがどうした?」
真意が読み取れない布志名は困惑しながらも改めて出雲に尋ねると、出雲は
自身の背中を指していた指先を動かし、若干の間を作った後にビシッと布志名を指差した。
「だけどお前はアラーツの性癖開発部門長、己の身を喜んで差し出す人体実験のエキスパート栞先生だ!…かっこつけやがってよー。地下会員制クソ変態紳士倶楽部『ワルプルギス』で、姫からインキュベーターって呼ばれてるくせにっ。言えねーけど、なんだよあそこのキャッチコピー!!私と契約うんぬん、俺ってほんとうんぬん(笑)とか、お前はまさしく地球外生命体だよっ。魂の宝石が穢れで真っ黒だよ!!!!」
「お前ぇぇぇ! なに言ってんのっぉぉ!」
突然放たれた出雲の予期せぬ暴言に、さすがに焦りを隠せなくなった布志名は珍しく体を跳ねさせながら出雲に叫ぶと慌てた様に出雲に詰め寄る。しかし、満足したようにしてやったり顔を披露する出雲に布志名は不安を覚えると恐る恐る少女に振り返ると視線を合わせた。
そこには困惑するように佇む無言の少女が一人。
出雲の放った言葉の全てはわからなかったのだろうが、少し引き攣ったように顔を曇らせると力なく笑っていた。そんな少女にバツが悪そうに布志名は唇を嚙みしめることしか出来なかった。
「…この娘の前で言う事ではないだろうー。はあぁー」
参ったと言わんばかりに落胆し肩を落とすと布志名は力なくため息をついた。だが、すぐに気持ちを切り替える様に顔を上げると、天を仰ぎ爽やかな笑顔を披露しボソリと呟く。
「まあ、間違いではないけどな。ははは…」
「ははは、じゃねーよ。」
汚名を肯定しつつも爽やかに笑う布志名に、出雲は呆れたように目を細めると言葉を返す。
「…まあ、お前のそういう気取らない所が俺は好きだけどなっ。…儚ぁぁぁー! 栞ちゃんーーー好きぃーーーぃぃぃ!!」
出雲は突然叫び、布志名に好意を伝えると勢いよく抱き着いた。
「と、突然なんだよっ!気持ち悪いなーお前は。…ま、まあ。ど、どーーも」
「へへっ」
気持ち悪いと言いながらも布志名はそこまで嫌ではないらしく出雲にどもりながらも言葉を返すと、その後お互い笑いあうのだった。そんな楽しそうな二人の光景と仲の良さに少女は静かに微笑む。
自分が先程までおかれていた状況は自分の事ながら酷いと思う。
嫌だと何度も呟いたし泣いた。
現実を見ても、想像をしても、浮かぶのは絶望と喪失。
永遠に繰り返されるような逃避する日々に疲弊する心体。
自身の環境と境遇を恨む事しか浮かばなかったのに…
(この人達を見ていると、生きててよかったと思う。…まだ生きていたい。)
生きていたいと、ふと過った少女。その心に灯った声に嬉しさを顔に現すと喜びを噛みしめた。もしかして、今までの2人の可笑しなやり取りも、自分を励ます為なのでは無いかとさえ思えてくる心境に、少女は未だ馬鹿騒ぎする2人に自分から話しかけた。
「あ、あの。え、えーと…えーーーと。…お、おー、お兄ーぃ、さん?」
「ははーい! お兄さんでーす。…あっ、そういえば俺たち名前言ってなかったねー」
出雲達を何と呼べば良いか迷う少女は口ごもりながらも振り絞るように出した声で二人に声を掛けると、すぐさま出雲は少女を振り返り右手を高く上げ振ると言葉を返す。そして、名前を名乗っていなかった事を思い出すと仕切りなおす様にその場に2人で整列した。
「では、改めてっ! EDS第7班、AL★e★RTs所属! 出雲 儚。苗字でも、名前でも、しゅとって省略してもいいよ。チャームポイントは、長いもみ上げと左目。よろしく!」
出雲は自己紹介を終えると右目を閉じチャームポイントと伝えた自身の左目を大きく開くと最後に少女に向け人差し指と中指をビシッと向け合図した。
少女は名乗った出雲の顔を改めて見直す。
出雲が自身の魅力と言った片方だけ長いもみ上げは出会った時から特徴的だとは思っていた。だが、もう一つ伝えられた左目に注目しても特段変わったところは見られない。
不思議そうに少女は首を傾けるが、出雲が自身の両眼を開いた際、確かに違和感を感じとる。
若干だが両目の角膜の色合いと虹彩の模様が違う。
そして、白目と黒目部分に極微細の銀の線が血管のように張り巡っている。
確かによく見れば普通の瞳とは違う出雲の左目を少女は覗き込むように見ていた。
「あんまり見られると照れるなー。お兄さん、惚れやすいから気をつけてね」
自分の顔をまじまじと凝視する少女に出雲は軽口を叩くと再びウインクするように瞳を閉じる。出雲の対応に近くで見つめていた少女は、再び慌てるようにたじろくと少しばかり距離をとり恥ずかしがるのだった。
「同じくAL★e★RTs所属。布志名 栞です。…うーん。出雲、俺って何って呼ばれてるの?」
布志名は首を横に振り、前髪をさらりと流すと端正な顔立ちをさらに引き締め自身の名前を少女に伝えた。だが、自分の愛称がわからないのか、出雲に顔を合わせ問いかけた。
「えっ、女の子は、ふっしーとか、しおりんとか、王子とか、布志名さまとかじゃない。…まあ、大多数は変態だけどな。この前、
出雲からの返答に若干顔を曇らせていく布志名だったが、出雲から出た
「あ、あいつー…覚えとけよ」
「あーしばけしばけ。あいつ、この頃調子に乗ってるからな」
「しゅと、さん。…ふしな、さん?」
確認するように自分たちの名前を呟く少女の声に2人は少女に視線を合わす。
「そう、出雲と布志名だよ。俺の苗字珍しいでしょ、自分でも気に入ってるんだ」
出雲の声に、ウンウンと頷く少女。
そんな少女に出雲は自身の苗字、出雲という漢字を腰道具から取り出したラチェットを逆さにすると柄の部分で地面に書き込む。少女も出雲の地面に書いた漢字を見ながら少し驚いたように声を上げる。
「出るに雲? でくも? しゅっと???」
「そっ、読めないっしょ。みんな初めは『いずも』って言うからね。…それより、お兄さん達にも名前教えて欲しいな。」
「あっ、ええーと。カオル、私は佐田 薫だよ。しゅとさん」
少女は自身の名前を慌てたように伝えると、出雲の真似をする様に地面に薫という漢字を大きく書いてみた。
「薫ちゃんかー。カオルンだな」
「俺的には、かおちゃん。かなー?」
「はは、『かお』とは言われてたよ」
「…うん。…そっか」
少女の言葉に出雲は少しだけ俯くと、薫の頭に手を乗せポンポンと頭を撫でた。
薫も出雲を信用してか、自分の頭に置かれた少し大きな出雲の手を拒むことなく受け入れると、安堵するように微笑んでいた。
「薬も効いてくるからね。すぐに医療班もくるから、もう少しだけ待っててね」
「うん」
薫は出雲の声に大きく声を出し頷くと布志名から貰った飲み物を口に運ぶ。そんな薫の様子を見た出雲は立ち上がると、薫の頭に手を置き軽く2回たたくと布志名に顔を合わせた。
「布志名。ちょっと、熊さんに連絡してくるわ」
「ああ、わかった」
出雲は薫から少し離れた場所で地面に仰向けに寝そべるように背中を壁にもたれかけると、ヘルメットを脱ぎ、胸ポケットから煙草を取り出す。そして、ケースを叩き飛び出した煙草を口にくわえると、ライターで火をつけた。ようやく取れた休息を味わう様に、深く吸い込んだ煙草の煙をフーと空に吐き出す。そして、スマホを胸ポケットから取り出すと熊本に連絡を入れたのだった。
「熊本です。待ってたよ出雲君」
「ういっす、熊さん。ミッション完了。なりかけの少女、薫ちゃん無事救出しました。処置もしてありますよ」
すぐに熊本に連絡が繋がると第一声から出雲を待ち望んでいたという言葉に、出雲は少女を無事救出したことを真っ先に報告する。
「さすが出雲君。仕事が早いね。」
「はは、これくらいどうってことないっすよ、アラーツですから。ハイブリも宍道がどうにかするんで、俺はしばらく煙草休憩しますよ」
「うん、お疲れ。宍道君達も頑張ってるみたいだよ」
「はは、そっすか。…まあ、宍道以外は休憩とるように言っといて下さい」
「ははっ、了解」
元気そうに軽口を叩く出雲の声を聞き、オペ班も安心したのか熊本も出雲との会話を暫く楽しんでいた。
「それよりさー、由里香にお礼言っときなよ」
「えっ、なんで?」
不意に熊本がだした由里香の名前に、出雲は全く心当たりがなく少し驚いた顔で熊本に聞き返した。
「地下に出雲君が1人で潜るって言った時にさ、実はオペ室大変だったんだよ。由里香さー、『あの馬鹿は、ほんまに!』って怒って、即座に班の立て直しと布志名くんへ援護要請してくれてたんだよ」
「熊さんっ、あいつ調子乗るから言わんでええねん」
熊本から伝えられた内容と、少し離れた位置から熊本へ注意するように喋りかけた由里香の若干怒る声に、出雲は近くにあるオペの定点カメラに目を閉じ口角を上げると無邪気な笑顔を披露するのだった。
「由里香は俺の事大好きだなー。近いうちに告白されるんじゃねーかー? はっ」
「…聞こえてたと思うけど。由里香、隣にいるからね。…うん。また、プンプンするからね。わかってると思うけど、短気だし、気が強い―――」
「…クマさん。誰が短気で、ツンデレで、気性が荒いねん」
「そ、そんな事っ! い、いい言ってないよ。…ほらー出雲君。助けてよーーー…」
出雲の由里香を煽るセリフに多少困った顔で返答した熊本だったが、余計なことを口走ったようで由里香に詰め寄られると、多少ドスのきいた声で圧力を掛けられていた。熊本は後ろに感じる圧に若干怯えながらも焦燥する心で由里香に弁解するが、最後は出雲に情けない声で助けを求めるのだった。
「はっはっ、クソ短気。…まあ、冗談はそこまでにしときますよ」
オペ班の余裕のある会話に出雲は笑いながら呟いた後、気持ちを切り替えるように真剣な顔になると話を続ける。
「熊さん、本題なんすけど。救出の際に地下でレネゲイズの女と交戦しています。クソ派手な女で、特徴は金髪トゲトゲでクソ化粧が濃くてパンキッシュな女。名前はリルカ・アルデって名乗ってたけど…そっちのデータベースにのってるっしょ?」
「えっ!! レネゲイズ?!! レネゲイズと戦闘してたの?!!」
「鉢合わせましたよ、仕留め損ねたけど」
「ちょ、ちょっと待ってて。し、調べるからっ!」
レネゲイズという言葉に焦りながらも熊本は、出雲に伝えられた特徴と名前を即座に本部のデータベースで調べる。熊本が確認している間の数秒、出雲は先程のリルカとの戦闘でついたバイブロの傷を確認しながら煙草を燻らせていた。
数秒後、熊本から出雲に一報が入る。
「…ヒットだよ。出雲君が言った特徴に当てはまる人物がいる。…情報精査する限りレネゲイズの超危険人物だと思う。間違いなく
「やっぱか。…わかった以上、次は俺も全力でいきますよ。あいつらのしている事、俺は到底許せねーから」
出雲は熊本から伝えられた情報に言葉を返した後、苛立つように右の拳を左手のバイブロにぶつけた。そして、先程交戦した相手リルカ・アルデを思い起こし、両目を尖らせ煙草の煙を吐き出した。
「…うん、そうだね。こちらも、もう一度情報精査した上で名前登録しとく。申し訳ないけど、こっちのデータベース開示するから後で追加情報送っておいて」
「了解。現場終わったら確認して送っときます」
出雲は熊本から言われた追加の依頼に了解すると、吸い終わった煙草を消しその場に立ち上がった。出雲はそろそろ熊本との通話を終えようと思ったが、バイブロに再び見た瞬間、何かを思い出したように熊本に声を掛けた。
「あっ、そうだ。熊さん、ここの現場終わったら本社の機材センター行くんで、
「あっ了解だよ、
「えっ…あいつ、ここ来んの?」
熊本から伝えられた生駒楓なる人物の突然ここへ来訪するかも知れない事実に、出雲は顔を歪めると嫌そうな声でボソリと呟いた。
「…出雲君。そんな嫌そうにあいつとか言ったら、楓また怒るよ」
出雲の言葉に若干顔を曇らせた熊本は、出雲に少し注意するように声を掛けた。
「やーーー! だって、やだもんあいつ! 運転荒いし、酒癖悪いし、おっぱい小さい癖に年中タンクトップで見えそうだし、こっちは少しも見たくないのに。相方の茨木童子でも―――」
「…出雲君、僕じゃ2人はフォローできないからね。…隣にいる人で手いっぱいだからね…」
「誰がクソヤバ女やねん。大変やな自分、手いっぱいなんか。…私のせいで」
出雲の暴言を遮るように言葉を返した熊本だったが、またしても後ろから迫りくるドスのきいた由里香の言葉の圧に、ヒュッと怯えるような単音を漏らしたのだった。
「…ごめん。…切るね、お疲れ。―――違うからっ、そんな事―――」
「はは、クッソこえー。さよならー熊さん、じゃねぇー」
必死で弁解する熊本のフェードアウトしていく声に出雲は笑いながら別れを告げたのだった。
出雲は通話が終わると 2本目のタバコに火をつけ薫の方に視線を向ける。何やら楽しそうに布志名と会話しているらしく、嬉しそうに身振り手振りで何かを伝えていた。
ふと、自分を見つめる出雲の視線に気づいた薫が出雲に視線を合わせると、出雲は右手を振り応える。その様子を見た薫も負けじと笑顔で手を振ってくるのだった。
布志名も楽しそうに手を振る薫に何かを伝え頭を撫でた後に、その場を離れ出雲の横に移動すると煙草に火をつけた。
「おやー? 一服ですかぁー? 布志名さん。王子様が少女の前で煙草を吸ってもよろしいんですか? 王位剝奪されて、変態だけになりますよ」
「何でだよっ。俺にも一服位させろよ。…それで、どうだった?」
出雲は布志名を軽口で煽るが、布志名は苦笑いするように微笑むと煙草に火をつけ言葉を返した。布志名の問いかけに出雲は少しばかり間をとるように煙草の煙を吐き出すと、布志名に言葉を返す。
「…ああ、レネゲイズで間違いねーよ」
「だよな。…もう少しキツイの喰らわせてもよかったな」
出雲は布志名に顔を合わせると言葉を返した。その自分の考えを確信させる出雲の言葉だが、既にその返答は分かっていたかのように布志名は静かに頷くと言葉を返した。そんな布志名の態度に出雲は若干上を見るように首を傾けると、右目を閉じ布志名を右手で指差した。
「ほんとだよっ、女だからって手加減すんなよなっ!100億V《ボルト》の2000万A《アンペア》でも喰らわせてやれよ、電撃王」
出雲は布志名に言葉を返すと、最後に布志名の顔を見ながらニカッと意地悪そうに笑い、布志名のライトニングボルテックスを出す姿勢を大げさに足と両腕を広げ真似するのだった。
「何だよ、その恰好っ。しかも、そんなに出ねーよ。自然現象超えてんじゃねーか。…ふふっ、お前はー」
出雲に大げさに自分の技を真似され、若干恥ずかしそうに照れた布志名は煙草の煙を落ち着かせるように吐き出しながら言葉を返した。そんな布志名に笑い返すと出雲は言葉を返す。
「ははっ。…でもよー布志名。俺さー、今回少しだけ昔を思い出したよ。俺が木田さんに助けてもらった時を。…きちんとやれたかな、俺」
出雲は昔の事を懐かしむように少し寂しそうに笑うと、自身の今回の対応を珍しく不安げに空を見ながら問いかけた。その様子を見ていた布志名は出雲を見ながら微笑むのだった。
「お前ができてなかったら俺が困りますよ、アラーツの主任さん」
「だな。俺はアラーツ主任の出雲 儚だからな」
布志名の言葉に応えるように出雲は言葉を返した後に、布志名に微笑みながらウインクした。布志名は出雲と顔を合わした後、ゆっくりと煙草の煙を吸い込み空に向かい吐き出すと口を開く。
「…でも、木田さんかー。…お前の師匠、今頃どうしてるんだろうな?」
「誰が何と言おうと、間違いなく生きてるよ。そいで、どこかでクソ適当こいてる。あの人は我儘でパワハラおじさんだけど…」
出雲は前を向き煙草の煙を吐き出した後、斜め上に向けた自信満々の顔を布志名に向けた。
「今も昔もエレクトリカ最強は『スリースターズ』の
「だなっ。最強が似合うのは、あの人だけだよな…」
少々昔を懐かしむ2人の会話が終わると、丁度吸い終わったタバコを布志名が取り出した携帯灰皿に詰め込む。そして、自分たちをじっと見つめる薫の元に微笑みながら戻るのだった。
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