第10-1話 Name is Riruka.Aled (1)
出雲達は『なりかけ』の少女を発見するが、予想外の出来事に阻まれ地下へ逃げ込まれてしまう。
少女を追うように薄暗い地下に飛び込んだ出雲だったが、地下道に突然響いた少女の悲鳴の先に見たものは、少女の首を片手で掴み空中に浮かす不気味な女の姿だった。
――Re:write――
その、金髪を
女の金色の瞳には殺気が
女は辺りを掌握する異様な雰囲気を醸し出しながら、ケタケタと笑い声を上げ続けるのだった。
たった一言――
女は金色に輝く瞳で不意に現れた出雲を品定めするように見つめると、一見大きめの白い日傘に見える物体を出雲に突き付けた。
傘の先端を覆う銀色の突起は暗闇に鈍く光ると、女はグルグルと手首を捻りながら出雲を挑発するように日傘を回転させ続ける。女の歪んだ口角は人を馬鹿にしたように更に歪に曲がると、飢えた獣のように口を大きく開いたのだった。
「腐れハイブリッドまがいにぃ! 腐れエレクトリカぁああ!!」
女は突然声を荒げた後、糸が切れた操り人形のようにガクンと首を垂れ下げる。前髪は重力により女の瞳を隠す様子に被さると、沈み込ませた顔には歪な陰影が宿る。
「…まとめて――」
女は先程とは打って変わって、独り言を呟くように小声で
「…あの世に――」
女は恐怖を演出するように沈んだ顔から徐々に声量を上げていくと、飛び出した犬歯を見せつけるように口元に半月を描いて笑う。声量が上がるごとに増長していく禍々しさは大気中を汚染していくように周囲に広がると、突如女は沈み込ませていた顔を上げたのだった。
「――送ってやんよぉおおおッ!! ふはッ!!」
見開いた眼、歪んだ口角、噛み殺すと言わんばかりに尖った犬歯、突然荒れ狂う異常性。悪役として自己を表現した時、100点満点の女の態度に出雲は少しばかり呆れたように笑みを浮かべると女を睨み返すのだった。
「はっ! やんよやんよっ、うるっせーんだよ! ちったー黙れよ、イカレ女ッ!!」
「ふはっ、つれねー♡ …あたしなりの手向けだったんだぜぇ?」
女は突然口調を変えると、出雲を挑発するように甘ったるい声色で言葉を返す。
出雲を小馬鹿にしたようなセリフもだが、余裕と言わんばかりに敵前で体をくねらせるおちょくった態度も出雲にとっては侮辱のように映るのだった。
出雲は女の態度に舌打ちを返すと、女を睨み返す。
そして、自身の怒りを表す様に左手につけたバイブロハンマーを力いっぱい握りこむと女に向けて突き付けるのだった。
「ッ! なぁ、に、がぁ手向けだ! クソ女!!!!」
出雲は敵意をむき出しにすると荒げた声で言葉を返す。
だが、地下道に響き渡るような出雲の怒声にも、女は依然変わらぬ態度でニヤニヤと微笑むと、大げさに両腕を外に開き、『つれない』と言わんばかりに首を傾げアピールするのだった。
「おいおい、怒ぉんなよぉー♡ お前には葬式代も献花もやんねーかんよぉ。…だから――」
女の人を馬鹿にしたようなニヤケ面が会話の途中で突然消える。
半月のように曲がっていた女の口角は無感情に平行に揃うと、出雲との戦いに備えるかのように冷酷に尖らせた瞳は、『おふざけは終わりだ』言わんばかりに出雲を見つめるのだった。
「―――せいぜい、あたしに見惚れて死んでくれよ…」
女は抑揚なく呟き、最後にフッと息を吐くように笑うと左手に持つ日傘から伸びた一本のコードを力強く引くのだった。
「せいぜい楽しませろよぉ! エレクトリカぁ!!」
女が再び怒声を上げた瞬間。
高回転のエンジンが起動したような音が辺りに響く。
女の手に持つ日傘は振動するように震えだすと継続するように重いアイドリング音を響かせる。時折威嚇する様に女が日傘の柄を握りこむと、握りこんだ力に比例するように回転数が上がっていくような、甲高い音が空気を切り裂く。
膨らんだ日傘の中で鳴り続ける、女の武器であろう物から発せられる威嚇音に出雲は気づいたように頷くと、女に微笑み返すのだった。
「いい趣味してんなっ!! …リコイルスターター付のエンジンブレードかよっ」
「ハッ、クハッ! …よーーーく、わかってんじゃねーかぁ。お
「…ははっ、うるせーよ。博識なんでな」
出雲は余裕を持った表情で微笑むと女も小馬鹿にしたように微笑み返す。
お互い視線をぶつけ合った後、出雲は小さく笑い声を上げると左手につけたバイブロハンマーを見せつけるように掲げるのだった。
「はん! サブカル好きのクソ女が好きそーな、旧時代の遺物掲げて喜んでんじゃねーぞ!! 今の時代はバイブロだ、クソ女ッ!!」
突きつけられた出雲の武器と
「―――くっ、くはっ」
「核心つかれて笑ってんじゃねーよ」
「かか。…うっぜぇーーー♡」
両者が
「お前と喋ってんと頭がイカレそうだぜぇ…――」
「――気にすんなッ! もう既にイカレてんだろ、お前は」
「…………」
「…………」
「死ねよぉ…。腐れぇエレクトリカぁっ!!」
痺れを切らしたように女が声を荒げると同時に、出雲に向けて構えたエンジンブレードのトリガーを人差し指で握りこむ。
女が握りこんだ瞬間、銃弾が射出されたような火薬が
女の武器から射出された二発の弾丸は出雲の顔に目掛けて飛んでいくが、注意深く女の動向を探っていた出雲は分かっていたように自身の顔の前にバイブロハンマーを突き出した。
女のトリガーを握るタイミング。
発射音。
マズルフラッシュにも似た閃光。
自分に向けられた女の持つ武器の特質と殺意。
気づく事が予定調和と言わんばかりに、出雲は自身の左手に持つ武器バイブロハンマーの分厚い金属装甲で二発の弾丸を弾いたのだった。
金属が金属に弾かれた音を鳴らし、二発の弾丸は出雲から逸れるように後方の壁に食い込む。
「あめーよ。…バイブロなめんなよ。そんな豆鉄砲じゃ傷もつかねーよ」
「くはっ、いいねぇー、いいねぇ♡ 腐れのくせにやるじゃん、お前」
「ちんけな子供騙ししてんじゃねーぞ! 掛かって来ねーなら――」
出雲は低い姿勢で身構えると、地面を蹴る右足に力を込める。
「―――こっちから、行くぞっ!!」
出雲は言葉と同時に地面を踏み抜くと、女に向かい突進する。
女も出雲の突進に合わせ、抜刀するように身を縮めると再び微笑むのだった。
「こいよ。…白けるから、命乞いなんかすんなよ、腐れエレクトリカ」
女は真顔で呟くと、自身の手に持つ日傘の柄を握りこむ。
膨れていた日傘は臨界点を迎えた様に覆いかぶさっていたカバーが弾け飛ぶと、中から歪に回転する刃が敵意を剝きだしたかのように唸りを上げる。
不規則に回転する刀身はチェーンソーのような音をたて空気を切り裂くと、デコボコに尖った刃は相手を苦しめる様に研磨された刀身を暗闇に光らせた。
女は突進してくる出雲を迎え撃つように抜刀した刃を構えると、地面を叩き割るような
「死ねよ腐れッ!!」
突進してくる出雲に向けて、カウンター気味に入った女の
「あめぇ」
女の武器が空を切った音を響かせる。
出雲はすかさず左手のバイブロハンマーを女に構えるが、女は初手は陽動と言わんばかりに自身の体を刃を振り抜いた勢いのまま横に一回転させると、続けざまの連撃を斜め上から振りかざす。
「まだだぜぇぇッ!!」
回転する力を加え振り下ろされた女の刃だが、出雲はバイブロハンマーに備え付けられた対象をつかむチャックと呼ばれる部分を瞬時に閉じると、女の刃を無理やり固定し攻撃を受け止めた。
金属同士が無理やり擦れる音が響き、固定されたお互いの武器からは鉄粉と火花が巻き上がる。薄暗い地下道にオレンジ色の火花が舞う中、両者は至近距離で顔を合わせたのだった。
「てめぇ、『レネゲイズ』だろ?」
「はっはぁ、あたしは、リルカ。リルカ・アルデ! …死ぬ前に知れて、よかったなぁー♡ 」
「名前なんか聞いてねーよッ。イカレてんのか?!」
お互いの顔が触れ合いそうな距離の中、女は出雲の真剣な問いかけに対しても不意に舌を出してお道化るのだった。
「くはっ。Name is Ri.ru.ka♡」
「F※※K Yourself!!〈黙れっ!!〉」
小馬鹿にした女の猫撫声に出雲は言葉を返すと、自身の左腕を軋ませながら力を込めると女の武器を弾く様に後ろに押し込んだ。
「ッ!!」
強引に武器を押し込まれ、女は態勢を崩したように右手が後ろに弾かれる。
「喰らっとけ!」
一瞬びっくりしたような顔で目を見開いた女だが、右手に構えたナイフを握りこみながら、ナックルガード越しに右の拳を自身の顔に叩きこもうとする出雲に対し再び微笑むのだった。
「ふはっ♡」
出雲の放った右拳のパンチに、リルカと名乗った女は倒れる程に上体を後ろに反らし
「Take This!!」
「ッッ!!」
出雲もリルカの回転蹴りに
「がっ!?」
斜め上に打ち上げられた出雲が驚愕の表情をする中、すぐさまリルカは追撃の左足の回転蹴りを空中で放つ。
「one more shot!」
「くッッ!!」
空中から叩きつけられるように放たれたリルカの蹴りは、人間とは思えない力で出雲を後ろに吹き飛ばすと、出雲の体は勢いよく地面に叩きつけられる。
「――ガッ」
出雲は叩きつけられた衝撃で小さく声を漏らすが、地面を転がるようにして勢いを殺すと地面に手を添え、態勢を立て直すのだった。
(なんつうー力だよ。こいつ、マジで女っつーか、人間か?)
出雲がリルカの尋常でない力に驚きの声を心で漏らした瞬間。
態勢を立て直した出雲が見たものは、地面に転がる自分に追い討ちをかけるべく落ちていた自身の武器を拾い、こちらに勢いよく突っ込んでくるリルカの姿だった。
「死ねよっ!!腐れエレクトリカァァァ!!」
断末魔のような叫び声。
人とは呼べぬ、その何かは、『これで終いだ』と言わんばかりに最後に口角を垂らし微笑むと、自身の右手に持つエンジンブレードを無慈悲に振り下ろそうとするのだった。
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