第7話 Mottled Human
布志名達A班は雑居ビル内で多数のハイブリッドと交戦する。
無数に溢れ出す様なハイブリッドを見て、布志名はエレクトリカと言う異能の力を使用し敵を圧倒したのだった。
布志名達は全員負傷することなく無事ハイブリッドの討伐に成功し、雑居ビルを後にするのだが、その時宍道率いるB班では出雲を呼ぶような緊急事態が秘かに発生していたのだった―――
―――Re:write―――
「宍道!! なりかけは?!」
出雲の一際大きな声が遠くから反響するように廃墟に響くと、宍道は声がした方向を急いで振り返る。急いで振り向く動作にしても、出雲に合わせた顔の表情にしても宍道はだいぶ焦っている様に感じられるほど険しく顔を歪めていたのだった。
出雲は息を切らしながらも宍道の目の前まで走ってくると、少し苦しそうに自身の両膝に手を付き、乱れた呼吸を整える。宍道は出雲のゼイゼイと荒い息を吐く姿と額に浮かぶ大量の汗を見て、尚更申し訳なさそうに顔を合わせるのだった。
「ごめん、出雲君。急いで来てもらってっ!」
宍道は謝りながらも出雲に軽く頭を下げる。
「んはッ。…良いからっ、はあ、状況――」
出雲は息を整えながら屈んだ体制から自身の顔を宍道に向け問いかける。
「うん。場所はここ、26地区の旧駅付近。なりかけは女の子、年齢は見た感じ10代前半だと思う」
「子供かよっ!! 何で見失った?!」
出雲の少しだけ責めるような物言いに宍道は申し訳なさそうに再び頭を下げる。
「すんません。俺のミスです! 女の子を発見した際、ハイブリッド対応に手こずって人員さくのが遅れました。…すんません」
「くっそ! 間がわりーな! ――レーダーはっ?!」
「ロックはしたんですけど…――」
宍道は更に顔を歪めると悔しそうに出雲から視線を外す。
「――けど?!」
「オペが言うには、…地下かもって。だから、レーダーが効かないらしいです」
「くっそ! 地下かよ!! …あーー! クソが!!」
出雲は苛立ったように声を荒げてしまうが、歯を食いしばった後に直ぐに気持ちを切り替えるように辺りを見回すと、自身の腕に装着した小さなモニターで周辺マップを見るのだった。
「オペは? 直通ナンバーも!」
「オペは熊さん! 2428! 由里香ちゃんも捜索対応で応援に入ってる」
出雲は宍道から聞いたナンバーを即座にデバイスに打ち込むとオペレーターと割り込み通信を行う。
「割り込むぞ!」
『
「―――あっ、熊さん! 出雲です。オペの状況は?!」
『出雲君!――レーダーの反応はなし。空撮、定点カメラも共に確認出来てない。現在、由里香に映像を戻して確認してもらってる』
「了解! 逐一情報ください!」
『わかった。任せて!』
出雲は熊本からオペ班の情報を聞き出すと、再び腕につけたモニターを操作し表示されている周辺マップを拡大する。そして、映し出された現況のマップと昔のマップを重ねるように表示し詳細図を開くと昔に存在したであろう地下鉄のマップが表示する。
「地下鉄か…」
出雲はモニターに映る地下施設の多さに顔を顰めた後、宍道に顔を合わせる。
「宍道! お前達はこの周辺の地上部分を散策しろ! ハイブリッド対応も怠んなよっ! 3人がカバーできる範囲で分散して捜索しろ!!」
出雲の指示に宍道は頷き返す。
「了解!! ――出雲君は?!」
宍道の問いかけに出雲は周囲を見渡した後、宍道に顔を合わせる。
「――最悪、潜る…」
「はぁ?! 一人はダメだよっ!! 単独で地下潜るつもり?!」
「それしかねーだろ! きちんと布志名にも声は掛ける!」
「――でもさっ、地下はレーダーも効かないし、明かりもない! オペフォローも効かないから単独はあり得ないよっ!!」
宍道は「ありえない」と言う事を強調するように多少大きくした声で反論する。強張らした顔を合わせ自身の腕を大きく振るのだが、出雲は宍道の意見に首を横に振るのだった。
「直ぐに潜る訳じゃない。まずは固有資格の『リンカー』を使って、飛行ビットで地下の様子を確認する」
「り、リンカー使うって言っても、脳波での直接操作も電波と一緒で距離に限りがあるからね!! しかも! 見つけたら潜んないと行けなくなるでしょっ!!」
宍道は一歩も引かずに出雲を説得するのだが、出雲は決して首を縦に振らない。むしろ宍道の話を聞きながらも次の準備をする様に自身の持つバッグをゴソゴソと漁りだすのだった。
「リンカーも確かに距離に限りはあるが、リモコン操作と違って手の数以上の機器を同時に使用できる。だから、手がかりを発見する確率も上がるだろ」
「いやっ、だけどさっ! 潜んないと行けなくなるって言ってんじゃん!! 『なりかけ』がいるって事はハイブリッドだけじゃないんだよッ! あいつらもいるかも――」
「――なめるなよ、宍道! 俺には、あれがある」
出雲は余裕があると言わんばかりに不敵な笑みを浮かべると力説する宍道に自身の右目を閉じた顔を合わせる。出雲の自信を表す様な多少尖らせた瞳で見つめられた宍道は言葉に詰まっているような感じで何度も顔を横に動かし視線を反らすが、尚も真剣に見つめてくる出雲に対し諦めたように大きく息を吐いたのだった。
「はぁー…。ほんとーに言う事聞かずだよ。職長としてあり得ないからね!」
「はんっ! まあ、俺は元々現場上がりだからな」
「ほんっとっありえん! ――でも、サポートはするから通信だけは絶対してよ!」
「了解」
宍道は親指を立て合図してくる出雲に自身の頬を膨らませるようにして溜めた息を強く吐くと根負けしたのかガックリと首を垂らす。出雲は宍道の態度に少しだけ優しく微笑んだ後、自身の所有するライセンスカードをデバイスで読み込むのだった。
『クラス
出雲のライセンス情報を自動音声が伝えると、出雲は直ぐに熊本と通信を行う。
「熊さん。地下探索に『リンカー』使用してビット飛ばします。ライセンスは既に通してます」
『あ、りょ、了解! ――え、
「さっすが熊さん、迅速対応」
熊本からエレクトリカ使用についての許可が下りると出雲はすぎさまバッグから煙草大の球状の物体を取り出すと、取り出した機器の頭にプロペラの様な物をつけていく。そして、取り付けが終わった物を手で回し確認すると地面に一つずつ並べていくのだった。
「うし。――動かすか」
出雲は地面に並べた物体を語り掛ける様に凝視すると、自身の指先を空に向け巻き上げの合図をする様にクルクルと回すのだった。
―『リンク』――『離地』
出雲は心で呟くようにして3機の物体に視線を集中すると機器の稼働ランプが瞬時に緑色に点灯する。そして、数秒後、ビットと呼ばれた物体は地面から浮き上がると出雲の指示に従う様に空中を旋回し始めるのだった。
「うし、良好良好。――ホログラム展開、と」
出雲は腕につけているデバイスを操作するとモニター部分から映像が浮かび上がると空中に3画面に分かれて投影される。
「よしッ!」
『問題無さそうだね。でも、リンカーって便利だよね。外部からのアクセス権限あれば何でも操作できるんでしょ?』
熊本の問いかけに出雲は自身の周りを旋回させていた3機のビットをホバリングするようにして空中に静止させると口を開く。
「いやー、そうでもないよ熊さん。便利つっても機器も操作する方も余計なノイズ消したり、結局電気信号だから解析したり、アルゴリズム判定したり結構脳に負荷は掛かるんだよね」
『そうだね、エレクトリカには違いないから負荷はあるよね。リンカーは索敵、先行探索どころか、場合によっては攻撃もできるから使用者は多いんだけどね』
「まあね。でも、攻撃に転じられるのは本の一握りだよ。――っと無駄話してる場合じゃなかった。捜索開始します」
『了解。でも、無理はしないでくれよ! お互い必ず逐一報告を!』
「了解!」
熊本からの指示に出雲は額に二本の指を重ねて当てると「了解」と前に突き出す。
その後、出雲は地下への入口となる地下鉄の階段らしき場所からビットを飛ばして探索を開始する。意思を持ったように動く3機のビットは明かりのない地下に潜っていくと、出雲はホログラム表示された画面を食い入るように確認するのだった。
♢
出雲達が『なりかけ』の少女を捜索し始めてしばらく時間が経過する。
出雲はビット3機を同時に地下へ飛ばし捉えた映像を頼りに空中に投影された映像を注意深く観察するのだが、暗闇による視界の悪さ、地下の崩壊により閉ざされた道、他にも悪条件はいくつも重なり少女を発見する事には至らない。ビットに付いたLED照明は辺りを照らし少女の痕跡をくまなく探るが、映る映像も拾う周囲の音も地下の無限の暗闇を象徴するかのように消え去ると時間だけがむなしく浪費されるのだった。
「ここにも、いないか…。次ぃ!!」
出雲は全くない手掛かりの中でも諦めることなく、何度も人が入れそうな地下へのルートを見つけてはビットを飛ばし探索を繰り返す。
地下に潜らせ、道が途絶え、ビットをまた地上に戻す。
出雲は同じ工程の繰り返しに疲労と焦りが蓄積されるが、少女を探しながらも場を見据えると、オペの熊本や地上を探索する宍道達に指示を飛ばすのだった。
「宍道! そっちは?!」
「だめ! 痕跡が見つかんない」
出雲は少々焦りが見える宍道の声にも自身のペースを崩すことなく、少しばかり瞳を閉じる様にして考えると直ぐに口を開く。
「…あれ! 自動識別ついた地中レーダー…。えーと、セレンディッパー使って!」
「あっ!! セレンちゃんかー!! 直ぐ用意する! ――甲斐ちゃん! セレン準備して!!」
宍道は出雲の指示にすぐさま頷き返答すると、近くにいた坊主頭の人物に声を掛けセレンディッパーと言う機器の準備に取り掛かるのだった。
「宍道! オペと連携して対象の消失地点を重点的に捜索しろ! 小さい子なら地下深くまでは行かないと思うんだ」
「了解! 即組み立ててオペと連携します」
「頼んだ!」
出雲は宍道に指示を飛ばすと再びビットを地下へ送り込もうとするが、ビットを浮かび上がらせた瞬間、オペから通信が入るのだった。
「なに、熊さん?」
『出雲くん。間が悪い事にハイブリッド反応だ。数は1だが反応がデカい。地下から上がってくると思われる。距離はそこから50m付近』
「間がクソ
出雲は宍道の居る方向に目をやると必死に機器を組み立てる宍道の姿が視界に映る。
「――ハイブリッド対応、俺がやります!」
『でも、出雲君は――』
「――いや、大丈夫! 宍道達はセレンを組み立てさせてるし、ハイブリ1体なら俺が即終わらせる」
『りょ、了解! タイプは鋼だと思う。――場所は、そこから……7時の方向、距離50m』
出雲は熊本から指示の合った方向を睨む。
「熊さん! 俺のモニターに出現地点の印付けて!」
『りょ、了解! ――――…よし! 印付けたよ』
出雲は自身のモニターに表示された熊本のつけた印を見た後、自身の首を力強く横に捻ると大きく首の骨の音を響かせるのだった。
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