第6話 Lightning Vortex
ハイブリッドの数が多い事を確認した布志名はエレクトリカと言う特殊な力を使用する事を決める。
布志名は自身の両腕につけた機械式のリストバンドのような装置を起動させると、自身の両腕を起点に渦巻くような青白い閃光を創り出すのだった。
「見ておいて、八雲君。今から俺のエレクトリカを見せるから」
布志名は 少しばかり逆立てた髪の毛で八雲を見つめ話しかけると、八雲は初めて間近で見るエレクトリカと言う能力に驚いた様に自身の目を見開いたのだった。
―――Re:write―――
布志名は八雲に顔を合わせた後、再びハイブリッドの方へ視線を向けると自身の身に閃光を纏った状態で歩みを進め始める。
「よく見とけよ、八雲。あれがエレクトリカだ」
津和野は驚いたように目を見開く八雲の肩を後ろから叩くと声を掛けた。
「かみ、なり、――ですか?」
「ああ。布志名君のエレクトリカは電流、雷だな。兵装名はライトニングボルテックスだ。――少しだけ説明してやる」
「は、はいっ」
雷を纏う布志名を後ろから見ながら津和野は八雲にエレクトリカと言う能力について説明し始めるのだった。
「エレクトリカって言葉は能力を使用する人間を指したり、兵装名の事を言うんだが、能力は人それぞれだ。固有資格って言ってるけどな」
「こゆう、資格…?」
「ああ、お前も持ってる仕事関係のライセンスみてーなもんだな。資格と一緒で能力自体もクラス分けされてるが基本的に異質な力には違いねーから管理されてんだ。
――だから布志名くん。さっき元請けのオペさんに使用申請出してたろ?」
「あ、ああ。はい、出してましたね」
「すげー力には違いねーんだが、難儀な力でもあるらしくてな…。基本的には、ああやって使用時の申請が必要になってくる。そして、大体のエレクトリカが力を増幅したり制御したりする装置。特殊兵装を身に着けてるんだ。――布志名くんも両腕につけてんだろ?」
津和野は布志名の両腕を指差すと、八雲は頷き返す。
「ああ、はい。雷を纏う前、触ってましたね」
「ああ、アンプって呼ばれる装置らしいんだが。布志名くんの体は常人にない電気回路が形成されてるらしく強力な静電気を発生、帯電することができるらしい。それをあの装置で増幅することで放電の制御――まあ、小形の雷を敵にぶつけれるって事だな」
「か、雷を創る。エ、エレクトリカって凄いんですねー…。――で、でも、ハイブリッドって金属だから電気が――」
「――まあ、見てろ。お前が言わんとしている事は分かるが…、雷はこえーぞ」
八雲の言葉を遮るように津和野は言葉を返すと、顔を合わせてきた八雲に不敵に微笑むのだった。
「塊は俺が一気に片付けます。津和野さんは八雲君をフォローしつつ、離れた所にいるハイブリッドをお願いします」
布志名は壁の前で津和野を振り返ると津和野は右手を上げて応える。
「あいよ。――八雲、俺の後ろにつけ」
「は、はい」
八雲が津和野の声に頷くのを確認すると、布志名は再び前を向くのだった。
「まずは俺が飛び込みます。津和野さんは頃合いを見てフォロー頼みます」
「了解」
津和野が了解したのを確認した布志名はハイブリッドと自分達を隔てていた壁から飛び出すと両腕を起点に渦巻く小型の雷を解き放つかのように輝かせる。そして、瞬時に薄暗い室内を青白い閃光が照らし、敵を威嚇するように空気を震撼させる音を響き渡らせる。
静寂な室内に鳴り響いた音と眩い光にハイブリッドは銀色に輝く姿態を輝かせると、一斉に鈍く光る赤い眼を布志名に向ける。そして、標的を見つけた事を知らせる様に唸り声を上げると、人の血肉を求めるが如く不規則に生えた手足を動かし布志名に襲い掛かるのだった。
だが、布志名は何体ものハイブリッドが自身に襲い掛かってくる事を確認しながらも落ち着いた様子で自身の手の平を重ねるとハイブリッドに向かい腕を伸ばした。
「
布志名の言葉に呼応するように両腕で圧縮されたような雷の渦はハイブリッドに向かい瞬時に解き放たれると、対象に向かい曲がるような複雑なルートを作りながらも高速で一番近い位置にいたハイブリッドを貫くと遅れた様に雷鳴を轟かせる。そして、尚も閃光を放ち暴れ狂う雷は、周りのハイブリッドに攻撃させる間も与えずに敵を貫いた雷は引き寄せられるように方向を変えると2体目、3体目と
室内を駆け巡る渦の様な雷に貫かれたハイブリッド達は身体を震える様に跳ね上げさせ順に動きを止めていく。雷の作り出す過大な電気の渦は対象に触れると超高温であるかのように火花をまき散らしながら対象の体を破壊していくのだった。
津和野に手招きされるようにして顔を出した八雲だが、布志名がハイブリッドを瞬く間に
「…す、すご――」
「――ボケっとすんな八雲!!」
「は、はいっ!!」
津和野から注意が入り言葉を矢継ぎ早に返した八雲だが布志名のエレクトリカが気になるのか、注意を受けた後も津和野の後ろから何度も布志名の動きを確認してしまうのだった。
縦横無尽に駆け巡る雷光は何度か布志名の腕から放たれると敵を貫く意思を持った生き物のようにハイブリッドを貫いていく。更に数を増やすハイブリッドだが数が増えようが、布志名の創り出す雷は相手に攻撃を許さない。瞬く間に相手を貫き活動を停止させると、動きを止めたハイブリッドは床に重なるように転がるのだった。
「――相変わらず、すげーな布志名くんのエレクトリカは。…まあ、こっちも楽でいいけどなっ――とっ!!」
津和野も布志名の指示通り目線をハイブリッド、布志名、八雲と忙しなく動かしながら布志名の攻撃の邪魔にならない動線を作り出すと敵を寄せ付けないように電光ナイフで切り裂いていく。派手さこそないものの熟練された無駄のない動きで相手の攻撃をかわすと、すかさず刃を突き立てる様にして振りぬいていく。
八雲は津和野のナイフ捌きもさることながら、攻撃をいなす様な腕の動き、足場の悪さをものともしない足の運び、そして、戦いながらも自身を気遣うような目線の動きにベテランの持つ渋さにも似た格好良さを感じてしまうのだった。
津和野は八雲を後ろに抱えながらハイブリッドの片腕を切り飛ばすと右足で距離をとるように蹴とばす。
「うしっ――八雲! フォローするからこいつに
突然、津和野から出された指示に八雲は少しだけポカンと間を挟んでしまうが、直ぐに握りこんでいた刀身の短いナイフを自身の顔の前で構えるのだった。
「は、はい。できますっ!」
「できる」と言葉を返した八雲だが、津和野からの急な指令に対し少しばかり戸惑う様に鈍る足先をなんとかハイブリッドに向けると片腕になったハイブリッドに焦点を合わせる。そして、何度も短く息を吐くと覚悟を決めた様に片足で地面を蹴る。だが、片腕とはいえ異形の怪物に変わりはないハイブリッドが間近に迫ると、その獰猛さを表す様な赤い目に少しばかり
「八雲! 俺もサポートするが無理はすんな」
「………はっ、ふっ」
八雲は集中しているのか津和野の声に返答せず右手に握りこむナイフを逆手で構えるとハイブリッドの攻撃権に飛び込んだ。
八雲の動きに合わせハイブリッドも片腕を大きく振り下ろすが、八雲は少しばかり力が入り過ぎている右手のナイフで綺麗に攻撃をいなすと下から突き上げる様にして、ハイブリッドの残りの腕を切り飛ばした。
「おお。お見事」
八雲をカバーできる位置で武器を構えながら、津和野は八雲を称賛するような声を上げる。
「よしっ。――とどめ――」
下から繰り出した刃が弧を描くと八雲はナイフを左手に持ち替え、止めの一撃と言わんばかりに相手の首筋に向け振り抜こうとした。腕の振りを最短にした教科書のような動きだったが、初実戦故の恐怖心か、敵に集中し過ぎたせいかは分からないが、踏み込むために出した左足が少しばかり滑ってしまう。
「くっ――」
軌道がそれたナイフはハイブリッドの皮膚こそ切り裂いたものの致命傷には至らない。そして、八雲が直ぐに態勢を立て直そうとして際にはハイブリッドは大きく歪んだ口を大きく開けると八雲に噛みつくように頭を傾けたのだった。
「やっ――」
「――やくっ!!」
口を開け襲い掛かってこようとする、目の前にいる畏怖を纏う怪物に八雲は思考が停止してしまったように体の動きを止めてしまうが、津和野は直ぐに八雲の体を無理やり後ろに引っ張るように八雲の肩を力強く握りこむ。
フォローすると言うだけあって津和野は瞬時に八雲の肩を引っ張り自身の身体を前に出すが、八雲の動き、全体を把握していたのは津和野だけではなかった。
布志名は自身の目の前に迫るハイブリッドを見つめながらも八雲の動向を確認するように見つめていたのだった。
布志名は態勢を崩した八雲に気づくと自身の両腕を自身に迫るハイブリッドと八雲に迫るハイブリッドに向ける。そして、青白い雷を纏う布志名はかざした両手の指先を狙いすましたように相手の体に合わすのだった。
「――
青白い閃光が辺りを眩く照らし、布志名の指先から放たれた雷は先程までの変則的な曲がりくねった軌道ではなく一直線に相手に向かう。そして、青白く光る光の矢は目で追えないようなスピードで瞬時に2体のハイブリッドを貫いたのだった。
雷に貫かれたハイブリッド2体は感電したように体を震わせた後、前のめりに床に倒れ込むと津和野はダメ押しと言わんばかりに倒れたハイブリッドの頭を切り飛ばした。
「すまん。手間かけさせたな布志名くん」
津和野が辺りを見回した後、布志名に右手で合図を送ると布志名も辺りを見回しハイブリッドがいない事を確認すると頷き返す。
「いえ。狙えたんで自己判断で先に仕掛けました。――津和野さんのサポートの邪魔に――」
「――あーー。いい、いい、布志名くん! 間違いなく助かった! ――八雲」
「………は」
まだ少し放心状態の様な八雲は震える様にして津和野に顔を合わせる。
「すまんな、ちょっと無茶させて。ただ、意地悪じゃねーんだ。―――全然違ったろ? 訓練と違って…。すげーこえーだろ自分を殺す気で向かってくる奴」
津和野は自身の頭を申し訳なさそうに搔いた後、八雲に顔を合わせ少しばかり口を尖らせると真剣に見つめる。
八雲も津和野の声に反応すると、少しだけ落ち着いたように大きく息を吐くのだった。
「…はぁー…、はい。――正直恐かったです。まだバクバクしてます」
八雲の胸を撫でおろす姿に津和野は八雲の肩に触れる。
「だよなー、俺も未だにこえーんだ。十年やってもあいつらの殺意には慣れねーし……俺の最初なんて身構えた瞬間、ナイフ落してんだから散々だぞ」
「え、えー…、そ、そうだったんですか?」
「そうそう。そして、俺の時も先輩から声かけてもらってんだ。俺を慰める様に『恐いよなー』って。――…ふんっ、それ考えると俺も少しは成長したんだな。ははっ――」
八雲の前で津和野は笑い声を上げると少し照れ臭そうに自身の後頭部を触りながら笑う。八雲は照れくさそうに笑顔を見せる津和野にようやく自身の口角を緩めた。
布志名もゆっくりと二人に近付いてくると笑みを見せる。
「うん。みんな初めはできない。だからこそ、津和野さんみたいに頼りになる人がいるんだよ。ふふっ」
「は、はい!」
「いやー、あんまり頼りにはすんなよ八雲。なんせ年寄りだからなっ。ははっ――」
布志名に褒められたことで更に津和野は恥ずかしそうに顔をクシャクシャっと歪めた後、照れ隠しのように八雲の背中を叩くのだった。
「ふふっ、うん。――では、全員で敵が残っていないか最終確認しましょう」
「了解。――八雲。残りがいないか一緒に辺りを見渡すぞ」
「は、はい!!」
布志名の指示に従い、皆が周囲を見回す。
3人は倒れている無数のハイブリッドにも細心の注意を払い、何度も視線を交錯するようにして見直した後、布志名は自身の身に着けるレシーバに手を振れた。
「由里香ちゃん。そっちは?」
『うん。…こちらもレーダー、モニター共に反応なし。戦闘解除して大丈夫です』
「了解」
由里香の戦闘解除の言葉に布志名はようやく自身の身に纏っていた雷の渦を戦闘解除するように消し去ると、青白く発光するような光が消え、周囲には再び籠るような薄暗さが広がるのだった。
薄暗い部屋の床に転がる
先程まで部屋に響いていた叫びや足音は消え去り、隙間風が聞こえる程の静寂が訪れる。鉄の塊は少しだけ
『さすが布志名くん。危なさを微塵も感じさせず周りも壊さない。フォローも完璧、パーフェクト対応だよ』
「みんながいたからだよ。――でも、褒めてもらえて素直に嬉しいよ」
布志名は少しだけ照れたようにして髪をかき上げると口角を緩めた。
『はあぁぁーん』
「?」
『――あっ、ごめんなさい。ううん、こちらこそ助かりました」
「う、うん」
『…はぁー、どっかの独り言が多い人も布志名くんを見習って欲しいんだけど…。――…はぁ、考えると胃が痛くなりそう…」
「…は、は、はは……」
由里香の溜息交じりの一言に布志名は直ぐに自分の中で浮かび上がった人物を思い返すと苦笑いを返すのだった。
「あのー…、津和野さん。出雲さんもエレクトリカ? なん、ですよね?」
由里香と通信する布志名から少し外れた所で八雲は不意に津和野に尋ねる。
津和野は八雲に顔を合わせると少し難しそうに顔を
「ふぅー。…八雲。布志名君のエレクトリカ凄かっただろ?」
「あっ、はい! びっくりしました!」
「だよな。…だけどな八雲。出雲、あいつのは、もはや次元が違う。反則の領域だ」
「えっ…?」
津和野は少しだけ顔を曇らせると淡々と八雲に出雲の事を語る。気をつけろと言わんばかりの津和野の態度に八雲は少しだけ訳が分からないと言わんばかりに半開きの口から声を漏らした。
「あいつのエレクトリカは特殊だから見れる機会があればだが…。――今のお前じゃ目ん玉飛び出るぞ」
「…そ、そんなに凄いんですか?」
「ああ――」
津和野の真剣な物言いに八雲は言葉を詰まらせるが、津和野は更に自身の発言を強調するように口元を歪め一呼吸間を挟んだ。
「――街が粉々になるからな。…本気だからな」
「…へ、へー」
津和野の余りにも真剣な発言を聞き、八雲は若干怯えるように顔を引き攣らせたのだった。
「由里香ちゃん。A班は引き続きルートに沿って27区まで向かうよ」
『了解です。ルート上の索敵は任せて。布志名くん、気をつけてね』
「うん。…津和野さん、そろそろ行きましょうか?」
「あいよ。――行くぞ、八雲!!」
「は、はい!」
布志名達A班は再び27区へ向かい再び歩み始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます