第5話 Gifted
現場での最終打ち合わせと言う名の朝礼が終わると各班に分かれて皆が散開していく。
今回出雲達に与えられたミッションは二つ。
『ハイブリッドの討伐』
そして、『なりかけ』と呼ばれる者の救出だった。
スタートエリアとなる第一ゲート前に陣取る出雲はメンバーを見送った後、自身にレシーバーをセットすると無線機を起動させるのだった。
―――Re:write―――
「――あ、――あ、―あああ――」
「――聞こえる? ――聞こえてんなら返事して? …聞こえますかー?」
出雲が自身の腕につけた小型のモニターを見ながら各班の現在位置を確認する。
調整するように何度か応答を願う合図を無線で飛ばすと小さくノイズが入った後、出雲のレシーバーに応答が返ってくるのだった。
「――…こちら布志名。――A班。今の所、問題はないよ」
「布志名、了解。こちらも聞こえてます。…宍道? ―しんちゃん!!」
「――聞こえてる聞こえてる。――こっちも大丈夫、出雲くん」
「宍道、了解。…オーライ! 無線は問題なし。――2人共、こっから先はオペにも繋いでくれ。ルート、指示の変更はなし。常に警戒して慎重に進んでくれ!」
「了解」 「了解っす」
出雲は2人の声が耳に届くと、その場で「ヨシ」と呟き頷く。そして、自身が身に着ける武器や道具を再度確認し始めるのだった。
出雲は武器を目で確認し、手に持てる物は感触を確かめる様に触れて確かめ、確認が終わった武器と工具を徐々に体につけたホルダーにセットしていく。
焦ることなく、迷うことなく、流れる動作で最終確認を行った出雲は、最後に左手に装着したバイブロハンマーを感慨深そうに見つめるのだった。
「…今日も頼むぜ」
出雲は呟いた後、自身の額にバイブロハンマーをゆっくりと当てると集中するように目を瞑った。
金属独特の冷やりとした感触を肌で感じる様に――
微かに匂うオイルの匂いを嗅ぐ様に――
今までの事を思い起こす様に――
そして、これから起こる戦いに備える様に――
集中したように口を閉じた出雲は数秒後、ゆっくりと眼を開いたのだった。
「…さーて! ――行きますか!!」
声を上げた出雲は立ち上がると、A班、B班の後を追うように歩み始めるのだった
♢
『29地区 旧市街地 歓楽街付近』
出雲がスタート地点から動き出してから約10分が経過していた。
布志名は歓楽街付近をオペの指示通り歩みを進める。だが、その顔は納得がいかないとまではいかないが、オペと通信しながらも何度か首を傾げる場面があったのであった。
「わかりました。このまま指示通り進みます」
『お願いします布志名さん。レーダーに今のところ反応はありません。―――きゃ、声もカッコいいよー、どうしよう』
「――は、はは」
布志名はオペレーターをしている女性の小さな呟きを拾ってしまい、少しばかり戸惑う様にして苦笑いするのであった。
―うーん。あいつから由里香ちゃんがオペするって聞いてたけど…、――何かあったのかな?
布志名は少し心配するように首を傾げると前日に出雲から言われたことを思い返すのであった。
♢
「布志名。明日の現場だけど、お前のオペ、由里ちゃんだからな」
「あ、ああ。わ、わかった」
隣の机から出雲が伝えてきた内容に布志名は驚きながらも頷くと声を返した。
「お前、由里香指名すんの大変だかんな。あんなんだけど、すげー指名依頼入ってるから、今回も難癖付けて嘆願書を無理やり通してやった。ははっ」
「…お前、あんなんって怒られるぞ…。――でも、由里香ちゃん良くとれたな?」
布志名は出雲に返答しながらも少し不思議そうな顔を見せるのだった。
実際、由里香は名物オペレーターの一人であり人気も高い。
的確な指示、状況判断能力、索敵操作、どれをとっても一級品と名高く、それに加えて由里香の容姿を知る者は口を揃えて「可愛い」と言うような人物像だったのである。
少しばかり困惑する表情を見せる布志名に出雲は椅子を動かし近寄ると、覗き込むようにして顔を合わせるのだった。
「まあな。出雲に不可能は無いからな。――でもさ、人気で言ったらお前の方が凄いからな! なんっだよ、あれ? 女性オペ、みんーな俺に布志名さんを『紹介して下さい、紹介して下さい』って、人をマッチングアプリか何かと勘違いしてんじゃねーか?」
「は、はは、は…。…俺はそんな、モテるような人物像ではないんだけどな…はは…」
出雲の言葉に布志名は本当に困ったように眉を下げてしまうのだった。
実際、布志名は女性から直接声を掛けられることも多く、その度に嬉しい反面、少しばかり戸惑う機会が多かったのである。自分をそこまで卑下するわけではないが、何故こんな自分に好意を寄せてくれるか凄く疑問に思う事が度々あったのであった。
少しばかり困ったように感情の伴わない乾いた笑いを繰り返す布志名に出雲は左目を閉じると片方の口角を上げ、両手で指差すのだった。
「そういうとこじゃない。誰が見ても顔カッコいいくせに気取らないし。属性に変態はついてるけど、それすら隠さねーじゃん、お前。だから―――」
出雲は会話の途中で間を挟むように屈託のない笑顔を布志名に見せるのだった。
「―――
出雲に間近で微笑まれ、下の名前で呼ばれた布志名は少し照れたように瞳をつぶると両手で前髪をかき揚げるのだった。
「…うん。お前から好きって言われるのが、一番うれしいって。少しおかしいよな…」
「おかしくない、おかしくない。俺とお前の仲だからなー、しょうがないっ!」
「ふふっ、だな。――でも、何度も聞いて悪いけど、結局由里香ちゃんのオペ対応どうやって通したんだ?」
布志名は嬉しそうに微笑みながらも少し恥ずかしくなったのか、少しばかり自分の話を終わらせるようにして話題を切り替えたのだった。
布志名の問いかけに出雲は今度はあっけらかんとした表情を合わせてくると口を開く。
「あぁ、簡単だよ! 女性オペにさ、「貴様は俺のオペがやりたいか?」って脅しただけ。『お前を俺の、専属オペにしてやろうかぁ? ふははは』とか言っとけば何とでもなる」
「………は、はは。…ごめん出雲。…笑えない」
出雲の冗談なのか、本気なのか分からない返答に布志名は顔を引き攣らせ、何とか上げようとした笑いも途中で止まってしまうのだった。
それもそのはずで、布志名は度々出雲の対応についてオペから苦言を受ける事が多かったからなのである。オペは口を揃えて出雲を扱いにくいと連呼すると、布志名に助けを求めるのであった。
布志名が良く聞く、出雲の苦言は―――
①意味不明な独り言が多い。
②言葉の真意が難解すぎてわからない。
③脈絡なく、すぐ怒る。
④行動がとにかく無茶苦茶。サポートできない。
この、4点セット。
ただ、4拍子揃った出雲の人物像も教育係だった師匠が師匠だからしょうがないかともよく囁かれていた。
――だが、もう一つ。よく聞く言葉もある。
窮地陥った状況を経験したオペが必ずいう事。
「あの時、出雲さんで本当に良かった」と――
苦言を言われながらも、間違いなく一番頼りにされているであろう目の前に居る男に布志名は想い返すようにして笑いかけたのだった。
「ふふっ。お前が一番凄いよ」
「???」
目の前で惚けた様に首を捻る出雲に布志名は再び微笑んだのだった。
♢
布志名は昨日の事を思い返し少しばかり微笑みそうになるが、未だに由里香の声がしない事については少しだけ心配そうな顔を披露してしまうのだった。
交戦予測エリア付近まで歩みを進めた布志名達だが未だレーダー機器などにハイブリッドの反応はない。
以前は賑やかだったであろう街並みがそこら中にある看板の残骸や街頭照明から推測はできるが、今はどれも明かりはついていない。街としての機能を止め、人として例えるなら疲れ果てたような表情をどこらかしこにも浮かべているような状況に少しばかり恐怖心を煽られてしまう。
崩れそうな街並みを尖らせた視線で確認しながらも3人は気を紛らわす様に会話をしながら歩いていくのだった。
「津和野さん。昔はここに大勢の人が住んでたんですよね?」
新入りの八雲が不思議そうな顔で津和野に尋ねると津和野は警戒するように見渡していた視線を少しばかり止め、八雲に顔を合わせるのだった。
「だな。…20年の歳月、か。――正直な話、ここを歩く人混みが俺は煩わしかったんだ。どこへ居ても声が聞こえる。常にぶつかりそうになる。でもな―――」
津和野は八雲を見つめる視線にどこか哀愁を漂わせ見つめる。
「――今じゃ誰もいねー。この街を寂しく感じるのは何か見当違いな願い事が叶っちまったみたいで、少し…、嫌になるんだよな…」
昔の情景を知る40代の津和野は八雲に言葉を返した後、年相応の哀愁を漂わせ崩れた街並みを懐かしそうに見つめる。そして、ふと壊れたガラスに映ってしまった自分のぼやけた顔を見て、少しばかり感慨深そうに虚像の自分と見つめ合うのだった。
「…俺も、…歳とったな」
誰にも聞こえない小声で呟いた津和野は暫く立ち止まってしまいそうになるのだった。
「――津和野さん」
「――あ、ああ。どうした八雲?」
自分の名前を呼ぶ八雲の声に少しばかり驚くようにして津和野は八雲に返事を返した。
「僕、初めて隔離地区内に入ったんですけど。…凄いボロボロですね? ―街自体が心霊スポットみたいですね」
八雲は初めて見る防壁内に隠されていたような光景に、何故だかホラースポットに遊びで来た若者のように少しだけテンションを上げると、興味本位で定まらない視線を散らかし、体をソワソワと動かす。
その若者特有のテンションに津和野は少しばかり口元を歪ませてしまうのだった。
「…そうだったね。八雲君はゲートの中は初めてだったね」
八雲の声が聞こえた布志名は辺りを警戒した後、八雲を振り返ると声を掛けた。
八雲は布志名に声を掛けられ、少し緊張した面持ちで顔を合わせるのだった。
「は、はい。初めてです」
「少し恐いでしょ?」
「は、はい。初戦闘ですし、街並みからも少し不気味さは感じます…。――いきなりハイブリッドとか出てきそうだし――」
八雲は布志名に返答した後、言葉に出したことで少し恐くなったのか辺りをキョロキョロと見回す。そして、少しだけ気落ちを落ち着かせるように大きく息を吸い込もうとした瞬間、自身の背中に叩かれたような衝撃が走ったのだった。
「痛ッ!」
驚いて声を上げた八雲が振り返ると津和野が大口をあけて笑っていたのだった。
「ははっ、びびんな八雲。どうせお前はなんもできやしねーんだから。いきなり出来たんならエレクトリカにでもなっちまえ!! ははっ――」
「もー、びっくりさせないでくださいよーー、津和野さん」
安心したように力なく瞳を閉じた八雲に上機嫌で笑う津和野。
傍から見て親子のように見える2人に布志名は優しく微笑むのだった。
「こんな凄惨な街の中でも笑える。だから――」
布志名は自身の瞳を力強く開くと二人を真剣に見つめる。
「――もっとみんなが笑えるように。――まずは今日のミッションを協力して遂行しましょう!」
「おう!」「は、はい」
布志名の声に2人は即座に頷くと、力強く返事を返したのだった。
♢
布志名達A班は時折会話を交えながらも目標地点に進んでいく。
布志名は腕につけている小さなデバイスのモニターで現在位置などを確認すると、この先はハイブリッドが多数目撃されている危険ポイントの一つに入ることが分かる。警告を知らせる赤色のラインと出雲が追加した危険予測エリアが重なるように画面に映るのを確認した布志名は先を見据える様に前を向くのだった。
「この先、警戒ラインと現場代理人のリスクエリアが重なります。再度オペの見識と先行索敵をお願いします」
『は…―――えっ?――――』
「?」
先程まで会話を交わしていたにも関わらずオペレーターの声が途切れ始めると応答に暫く時間がかかる。なにやらバタバタと動く音が布志名の耳に届いた後、『私に切り替えんで』と先程までとは違う女性の声と運動後に荒く乱れたような吐息が混ざり聞こえてくるのだった。
『はぁはぁはぁ。――お久しぶりはぁ。布志名くん。――はぁ、由里香です。うぇ』
「由里香ちゃん?! うん?! 何で息、切れてるの?」
息を切らしながらも必死で喋ろうとする由里香に布志名は若干混乱しながらも言葉を返したのだった。
『はぁ、うん。――ほんっとーにごめんなさい。別件呼び出しが予想外に長引いてしまって遅くなりました。ここからは私が担当します。よろしく』
由里香は息を整えながらも布志名に遅れた理由を告げるのだが、少しだけ高くした声といつもと違う標準語に近い口調で平静を装っても、布志名は息切れしていた事が気になってしまい少しばかり戸惑ってしまうのだった。
「う、うん。こちらこそよろしく。由里香ちゃんなら心強いよ。――でも、久しぶりだね」
『はぁーーーん』
「ん?」
突然、耳に届いた大きな吐息の様な猫の鳴き声にも聞こえる不思議な叫び声に、布志名は再び困惑するように言葉を詰まらせたのだった。
『ごめんなさい。取り乱しました(?)』
「う、うん」
『――でも、
「は、はは、ははっ…」
由里香の毒を混ぜながらの熱弁に布志名は乾いた笑いしか返せなかったのであった。
「う、うん。――あっ、そうだ。この前は出雲がやらかしたみたいでごめんよ」
『……………』
布志名が話題を変える様に振った謝罪の言葉に由里香からの応答が止まる。そして、暫くした後、すすり泣く様な声が聞こえてくるのだった。
「うぅ、ほんまにあの馬鹿はー。…うぅ、なんであいつバイブロ使いたがんねんやろ。…ほんでもって、なんであいつのバイブロあんな威力あんねん…。おかしやろー。ありえへんやろ、あの威力……」
「…ごめん。本当にごめん…」
由里香の本心であろう嘆きに布志名は速報で流れたバイブロ事件を再び思い出すと、少々由里香が気の毒になってしまい、自分のことではないが謝ってしまったのであった。
由里香のせいでは無いのだが、おそらく連帯責任で怒られたであろう事を思うと、布志名は少しだけバツの悪い顔を晒してしまうのだった。
その後、布志名達は由里香のオペに従い歩みを進める。
時折混ざる出雲への不満、苦情を聞きながらも、由里香のオペを信じる様に周囲を警戒しながらもルート通りの道を進んでいくのだった。
由里香も布志名に不満を吐露しながらも、オペ業務には決して手を抜かない。
自身の前に映る複数のモニターを確認しながら、定点カメラ、無人撮影機の映像を瞬時に切り替え操作する。そして、得た情報を的確に布志名に伝えるのだった。
『ちょっと待って、布志名くん』
布志名は由里香の声に歩みを止めると、すぐさま後ろを歩く2人に手で「止まれ」と合図を送る。
『先行させてた無人偵察機にハイブリッド反応あり。その先200メートルにある第一商業施設ビル内に多数の反応。…跳ねっ返りがあるから簡易予測だけど、数はおおよそ20。大きさ的にクラスは鉄と鋼、『なりかけ』ではないと予測できます』
「200m先。商業ビル内。数20。救出対象なし。了解!」
布志名は由里香に端的に言葉を返し頷く。
八雲と津和野も伝えられた内容に頷くと、身構える様に自身の身に着けた道具に手を伸ばすのだった。
「八雲! お前はナイフにしろ! 飛びは誤射が恐い」
八雲は武器選定を迷いながらも飛び道具を選ぼうとするのだが、八雲の事を気にかけていた見ていた津和野はすぐさま注意するように指示を出したのだった。
八雲は津和野の指示を聞き頷き返すと、ナイフに切り替えホルダーから抜き取ると利き手でグリップを握る。
「は、はい」
「気負うなよ。今日は基本、
「は、はい。わかりました」
津和野の八雲を心配するような声を聞き、布志名も八雲を振り返る。
「うん。きつい言い方になるけど、今日は何もできないと思って欲しい。いくら模擬訓練しても実戦になると特有の雰囲気が邪魔して徐々にズレが大きくなっちゃうんだ。…慣れも恐いけど、意思疎通のズレも凄く恐いんだ」
布志名は真剣に瞳を尖らせながら八雲を見つめる。
優しい声色ながら少しだけ尖って聞こえる「ズレ」と強調された内容に八雲は息を飲み込む。
「自分の一つ一つの動きが、皆を危険に晒す事がある事を覚えておいて欲しい」
「…は、い」
八雲は布志名の声で実戦での恐怖を煽られ少しだけ体が委縮してしまうが、直ぐに布志名は尖らせていた瞳を和らげると優しく微笑むのだった。
「でもね、仲間が助けてくれることも覚えておいてね。指示とフォローはこっちに任せて。それは俺と津和野さんの役目だから」
「は、はい!!」
布志名の緩急をつけたような指示、注意事項に八雲は大きく頷き返事を返した。
尚も優しく微笑む布志名と「任せとけ」と力強く頷き、余裕を感じさせる笑顔を合わせてくる津和野に、八雲は大きく息を吸い込んだ後、自身の手に持つナイフを身構える様に持ち直したのだった。
♢♦
布志名達A班は敵の反応があったビルの前まで来ると、少しだけ会話を交わし、呼吸を整えた後、由里香のオペに従い商業施設ビル内に侵入するのだった。
中に入った瞬間、外とは違うどこかヒンヤリとした感触を肌で感じると共に淀んだ空気、腐食した鉄のような腐食臭が鼻腔を刺激するように辺りに漂う。
刺激臭に顔を曇らせた八雲とは違い、場慣れしている布志名と津和野は微塵も顔色を変えることなく、うす暗いビルの中を八雲を先導するように前に進んでいく。
布志名と津和野は視覚を常に広げ、連携してお互いの死角を補うと、足元に散らばる残留物や瓦礫さえも見落とさないのだった。足音すら立てない動きを繰り返す2人の動きを見て、新人の八雲は、ただただ感服してしまうのだった。
『止まって布志名くん。―その先に反応。数約10』
布志名は由里香からの指示を受け歩みを止めると、この先にハイブリッドがいる複数体いる事をハンドサインで合図する。布志名は津和野と八雲が身構えたのを確認した後、視線を前に戻すと先陣を切る様に壁の向こうを静かに覗き込むのだった。
「―8,9,10。――数10確認」
布志名は小さな声で由里香と後ろにいるメンバーに確認した状況を伝えると、再びハイブリッドの動向を探るように壁の向こうをのぞき込む。
紅い瞳を光らせ、ウロウロと部屋の中を歩く銀色の姿態。
未だこちらに気づいている様子はないが、重なるように敵が密集している状況を見て、布志名は戦況を見据えると由里香に通信を行うのだった。
「由里香ちゃん。数も多いし、場慣れしていない子もいる。それに――」
布志名は一瞬チラリと八雲を振り返る。
「――俺のエレクトリカも見せておきたい。――だから、
『――了解。ライセンスの読み込みをお願いします』
由里香から返ってきた言葉に布志名は頷く。そして、一枚のカードを取り出すと、自身の腕につけているデバイスに素早くかざしたのだった。
『クラスA。
布志名の装着しているレシーバーとオペの由理香に自動音声が流れると、すぐさま由里香は返答するのだった。
『西尾 由里香。エレクトリカの使用申請承認します』
『使用申請、承認』
「了解!」
由里香からエレクトリカと呼ばれるものの使用許可がおりる。
布志名は許可が下りると同時に両腕に装着していたリストバンドのような機器を交互に捻るようにして起動させた。
起動された装置は備えつけられた計器が徐々に緑色に点灯していくと上昇していくランプサインと出力を表す数字が可動ラインを超えた時、機器特有の動作音を静かにたてていた装置の周りに少しずつ「バチチッ」と威嚇するような細かい音と共に青白い光が走り始める。そして、布志名が腕を広げた瞬間、両腕を起点に圧縮されていた電気の渦が暴れ狂うように一際大きく煌めいたのだった。
「久しぶりに見れんなー」
青白い雷を纏う布志名を見て、津和野が不敵に微笑む。
「な、何ですか?! あれは? …雷?」
八雲が突然の事に驚きの声を漏らすと津和野は八雲を振り返るのだった。
「よーく、見とけよ八雲。あれが、人類が使用する異能エレクトリカだ! 布志名君の兵装名は――」
『久しぶりに見れんな、布志名君のエレクトリカ。通称――」
『「――ライトニングボルテックス」』
由里香と津和野の声が重なると、布志名はライトニングボルテックスと呼ばれた雷の渦を纏いながら静かに八雲を振りるのだった。
「見ておいて、八雲君。今から俺のエレクトリカを見せるから」
布志名は少しだけ逆立った髪をなびかせながら八雲に優しく微笑む。
優しく口角を緩めた布志名だが、八雲にとっては穏やかないつもの顔とは違うように見えてしまう。布志名のどこか研ぎ澄まされたように感じる鋭い視線を見て、八雲はこれから戦いが始まる事を改めて感じ取ったのだった。
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