第49話 合同安価葬儀

 大きな祭壇の前に6つの棺桶が並んでいる。祭壇には6つの遺影が並んでいる。その前には十数人の遺族が座っていた。そして司会者とお坊さんが2人、本来は宗派別にグループ分けされるはずなのだが、今日は予約が少なかったらしく2つの宗派の合同の葬儀になった。

 俺は空いている席に座っていたが、隣の人間が本当に俺の親父の遺族かは分からない。何でも合同葬儀の場合、遺族の数の差が出ることで揉めることがあるらしく、席は順不同になるらしい。まあ葬儀中に隣の人間と無駄口叩くのもおかしいしそれはそれでいいとは思う。


 「それでは、葬儀を始めます」

粛々と葬儀が始まった。最初はうちとは違う宗派のお坊さんがお経をあげる。長々とお経が読まれた後に将校になるのだけど、そこで初めて隣の人間が俺の親父の右つ隣の遺影の遺族だと分かった。

 そして俺ら? の宗派のお坊さんの出番だ。

「さて、始めたいのですが、司会の方、この数珠はまた別の宗派の方の者ではないですか?」

司会者は慌ててスタッフに指示を出した。


 なんだかんだで葬儀が終わると会食になった。さすがにテーブルごとに遺族が分かれた。俺の席には唯一の親戚の人だけがいる。確かにこれは数時間あると辛いかもね。とはいえこの親戚の叔父さんとはあまり面識もない。親父とは結構仲が良かったらしく結構エピソードトークを振ってくれてたけど俺にとっては「へえ、そんな事が」と言うしかなかった。

 会話もなくなり、お腹もいっぱいになって何となく手持ち無沙汰になった時に隣のおばさんが話しかけてきた。

「芳治さん、亡くなってたんですね」

ああ、同じ町内の人か、多分この人が親父の唯一と言っていい、多少話したことがある人だったと思う。もう90を超えて家とデイサービスの往復で近所の人とは交流がなかったけど、床屋は行かないといけないからな。

 ただ、デイサービスで床屋を利用するようになってからはご無沙汰だったと思う。ケアマネの人から聞いたところによると、デイサービスに行ってもあまり他人と話さないらしいので多分話した寮から言えばこの人が晩年一番話した人なんだろう。


 家に帰ってきた。何とか片付けて遺骨を置く場所を決めておいてよかった。親戚は会場で別れたので遺骨を、申し訳ないけど地面に置いて鍵を開けようとした。

「だめよ、浩二君」

床屋のおばさんが気を利かせて、そちらの遺骨は旦那さんに任せてこっちに来てくれたみたいだ。

 俺は鍵を開けて、ここに置いてください、と言うとおばさんは顔を少し曇らせながら置いてくれた。申し訳ない、ここしかないんです。


 おばさんが慰めの言葉を言い、俺もお返しの言葉を言い、一人の部屋に何となく座った。

「レンタルの礼服、返さなきゃ」

俺はまだ新しい遺影に一つ礼をしてあと15分後に取りに来る人のために着替えをした。


おわり

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