第23話 掃除 8月10日
どうしても取れない汚れがあった。
部屋が傷むのを承知で削り取ると、そこには何かの臓器のようなものが・・・。
その日、俺は見てしまった。
このアパートは生きている。
はがす壁紙、床板、天井、すべてに血管のようなものが脈動していた。
俺は掃除なんてしていなかったから知らなかった。
でもなんかおかしい事は気づいていた。
放置していてもほこりや細かいゴミがあまりたまらないのだ。
もちろんPETボトルだのプラトレーのようなものは捨てないといけなかったけど。
結局何がどうなってるのか調べてみた。
すると、このアパートは2階建てなんだけど、その1階の天井と2階の床板の下に
その本体はあった。
そこに脳のようなもの、心臓のようなものがあり、そこからアパート全体に
口のようなものがついた触手を張り巡らせていた。
で、これをどうしようかという話になるんだけど、アパートの住人に言うかも含めて
俺は悩んだ。
だってこいつがいるだけで、別に今までマイナスなことはなく、むしろ誇りや
食べ残したもの、食べかす含めてすべて綺麗にしてくれてるんだから。
そこで、悩んで大家さんにだけ相談することにした。
大家さんだけは補修などでどうしてもこの化け物をどうするかという問題にいずれ
当たると思ったからだ。
大家さんにいうと。
「あら気づいちゃったのね」と言われた。
まあそうだ、長年補修もなしに来ているわけではないだろう、昔から気付いていた
方がそりゃ自然だった。
そこでどういうことかを聞いてみるとどうやらこの化け物は昔大家さんが飼っていた
爬虫類だったらしい。
ところがアパートの中で飼っていたらどこかへ逃げて隠れてしまったらしい。
その後何もなかったのだが、そのペットとよく似た小さな子供はよく見かけたそうで
自然に繁殖していたのだと、それでそのままにしておくことにした。
ところがある一匹が突然変異で巨大になり、さらに建物と同化してしまったと
いうのだ。
ほんとにそんなことが起こるのかと思ったが、実際にその姿を見たら信じざるを
得なかった。
しかし特に害もなく、言ったら誇りやら食べ残しを掃除してくれるその化け物は
ある意味有益な生き物ともいえた。
なので、知っている大家と自分だけの秘密にすることにした。
ところがある日隣の部屋の人が火事を起こしてしまった。
燃え盛る建物を、大家と二人で悲しい想いをしながら見ていた。
建物が消火されると、なんとほとんどの家具が燃え残っていた。
家具のほとんどは何か粘液のようなものが付着し、その成分で守られたのでは
ないかという話を聞いた。
大家さんと、あの子が守ってくれたんだね、というような話をして
あの化け物のために燃え後に花を手向けた。
そして建物が立て直され、俺たち住人はまたアパートに戻ってきた。
ほとんどの住人がまたこのアパートで暮らすことになった。
そしてお互いに家具などを運ぶのを手伝いあって何とかみんな引っ越し作業が
終わった。
その日、俺は見た。
みんなの家具の裏側隅々にびっしりと何かの卵が植え付けられていたのを。
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