第19話 水のない国 8月4日

ある国のお話。


この国は乾燥地帯で水に困っていた。

かろうじて国境を流れる川に頼って生きていた。

ところがある時大きな嵐が数か月続き、川の流れが変わった。

国境だった川はただの谷になり、この国から川が無くなった。

厳密には国境ぎりぎりにある隣国と共同で作った発電用のダムは

 残ったのだが、その先の流れが変わってしまったのだ。

とりあえず電気は確保できるのだが、その先に新たにダムを作ろうにも

 貯水できるだけの距離を確保できないのだ。

仕方なく川が移動した隣国に交渉をしたが、勝手に施設を作ることもできず、

 水にお金を払うことになってしまった。


そこで大気中から水分を取り出して国内に雨を降らせる技術を開発し始めた。

しかし大気中の水分だけでは国民の水の需要を集めることができず、

 ジェット気流をせき止めたり、周りの国から湿度のある空気を流入する

 大気の誘導の技術までできてしまった。

これにより、周りの国の気候が変わり、周辺国から文句が出たが、

 自国が水に窮しているときにみんな対岸の火事のように扱っていた

 ことを引き合いに出して文句を受け付けなかった。


やがて水の確保がほぼできるようになると、今度はその水を売ろうとし始めた。

周辺国に雨が降らなくなり、水不足になり始めていたから

 これは商売になると思われた。

ところが水が周辺国に全然売れなかったのである。

それどころか周辺国は雨が降らないのに水が足りていたのだ。


不審に思ったこの国の政府は周辺国を調査した。

すると地下水が大量に地上に湧き上がっていたのだ。

もともと乾燥していた土地に莫大な水を貯めていたせいで地下に水が

 どんどん吸い込まれ、周辺国の地下水脈を潤してしまっていた。


巨大な湖に今更そこを作ることも難しいし、まあ水が売れなくなっただけだから

 と、放置していたのだが、そのうちに問題が発生した。

電気は周辺国から買っていたのだが、ついに環境変動で国境の川自体が枯れ、

 水力発電ができなくなったのだ。

周辺国は自分の国を賄うだけの他の発電施設があったが、この国では国境の

 川に隣国と共同で作ったダムだけが頼りだった。


仕方なく電気にもお金を払うことにした。

もうこれ以上自分たちの手で環境を操作することに疲れたこの国は

 水を確保する装置の稼働をもうやめることにした。


そしてある日また大変な大嵐が起きた。

それは急激に環境を元に戻そうとしたのが原因だったのかもしれない。


数か月続いた嵐の後。

その日。

あの国境を流れる川が復活していた。


END

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