第17話 誓いの谷 8月1日
何千万人もの人間がその谷に集まってきた。
「あの山から土や石をもってきてこの谷を埋めなさい。100年かかっても、
1000年かかってもいいのですよ。」
どこからか聞こえてきた声に人々は従った。
やがて人間たちはついに周りの山を崩して谷をほとんど埋めた。
神様はその谷のくぼみに住居を作ることを許した。
たちまち谷は人間の住居で埋められ、その過程で人間たちは知恵を使い、
道具を進化させた。
山から出た土や鉱石はその材料となった。
やがて人間は鉄製の道具を発明し、そのうちに人力や馬の力を使った機械ができ、
さらに人間たちは鉱山や、地表に出た石油成分を発見し、蒸気機関や内燃機関を
発明したが、さらに地下に資源が大量にそれがあるとわかると地下を掘ろうと
し始めた。
しかし、あくまで神様はある基準より突き出た山の部分から出る物質のみで生きる
ように命じた。
人間たちの工学の進化は鈍化し、代わりにバイオ技術が進化した。
谷底でも育つ食物、肉を食べなくても生きていける食材、または人間の改造が
行われた。
こうして星は何万年もかけて、地表全ての凹凸をなくした。
これがこの星の神様の答えだった。
ところで、他の星のある神様は戦争で人間を進化させた。
星の内部まで掘り、爆破し、破壊し、地上は大きな建造物で凸凹にして、それが
私の星だと言った。
こうして星々はあらかた神様によって星の外観が決まっていった。
もう開発する星が無くなったところで神様たちはほかの星を侵略し始めた。
新しく星を作れないのには訳があった。
神様の実体を含めて宇宙には”認知”の総量が決まっていたのだ。
星々の戦いは、マテリアルの実体化のために相手の実体を破壊して、エネルギー体に
変えるための戦いとなった。
工学に頼って天まで届く建物を作った星は高性能の爆撃で戦った。
化学に頼った星は宇宙を漂うエーテルに載せて猛毒を宇宙にばらまいた。
物理学に頼った星は、空間を捻じ曲げて、自分たちの星にエネルギーを集める
装置を作った。
ほかにもたくさんの星が自分たちの存続のために戦いを始めた。
星同士の戦いで宇宙には危険な物質が漂い始め、危険な空間も増えていったた。
もう誰も生きられない世界で、神様たちは自分たちの存在さえ危うくなった。
神様達は相談して人間の遺伝子の中に組み込んでおいた自己崩壊の
スイッチを入れた。
人間たちは急に自省しはじめ、そのうつ状態から集団催眠のように広がっていき、
自決を決めた。
全ての物質を集めて、宇宙自体を消してしまうような案がたくさん浮かんできた。
そして最後は物理的にも科学的にも威力を増大させた爆弾で宇宙を消しさる
決断をした。
全ての星は焼き尽くされ、生き物は絶滅した。
宇宙の構造も崩れ、星のかけらが漂う小さな宇宙空間だけが何個か残った。
ちょっとの存在が残ったところだけが宇宙の存在を支えていた。
神様は何とか助かった宇宙で周りの宇宙を調べたが、自分のいない宇宙を
把握するのは無理であった。
表面を平らにしていた星は、その形状に助けられて、星自体が割れてしまったとは
いえ大部分の形状は残っていた。
星全体に強固なバイオフィルムで覆って、さらに熱や化学物質に備えていた。
もちろん中にいた生き物が生き残るほどは防御できなかったが、一部の物質
は残存できた。
その星で何とか残った最初の谷の石造りの地下の町にうごめきが生まれた。
バイオ技術で熱などから守る殻を使った人工の卵が孵化し始めた。
表面をまっ平らにした星の人間はこういう事態に備えて、遺伝子を守る技術を
進化させていた。
そして、どんな攻撃を受けても熱や衝撃が均一になるように表面を平らにしていた
という事なのだ。
この星はいつか人間に進化した生物で埋め尽くされるだろう。
そして
その日、最初の生物が生まれた。
全ての生き物の最高の遺伝子を詰めた生物が進化し始める。
いつか神々に復讐するために。
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