第16話 コモディティ

 すべての可能性を出力し終えました

 すべての流行の予測を終えました

 すべてのその製品、作品に向いている製造者を選出しました


 その日、人間は飽きていても生きていけるツールを得た。

 バスを待っているときはこの作品

 おなかがすいたときはこの料理


 ほかの可能性はそれ以下しかないとわかるから

 生まれてから初めての最高の料理、作品の時は誰でも感動するが、

その時の脳波を完全に再現できる薬も完成したから


 もう流行すら追わなくていい

 これに飽きたらこれの次の最高であるものが用意されてるから

 たとえば自由に選んで失敗したら嫌でしょ


 そのうち次を求めるのもおっくになってくる

 歌詞の一か所を変えた歌、2Pカラーのような主人公

 だって新しいことを覚えるのは億劫なんだもん、お金払って苦痛なんて嫌でしょ


 刺激的な言葉でおあるCMもなくなった

 「いつものあれ」だけ言うCMばかり

 他社より完コピしてます、が売り


 そのうち人間も統一される

 すべての人間を混ぜて中間を出す技術が、映像的にではなく遺伝子的にシミュレートできるようになった

 そこからだけ人間を産ませれば生まれた場所も世界の一か所にできる


 ただ、何かを作るには何らかの人の手は必要だ

 誰何をやるかはローテーションされる

 誰が作っても同じものを作れるのにおっくな話だ、しかし一人の人が作り続けると

変異していってしまうらしい

 どうしても消せないのは生物的な癖

 最初に覚えたときの癖と、慣れてきてルーティン化した時の癖

 これを消すことが今後の課題だ


 ああ、この世界はなんて奥が深いんだ

 これだけ進化したのにまだ不確定があるなんて

 いや、それに感動しているわけじゃない

 もう少しで、他人と比べなくて済む世界が手に届くんだから


 マウントを取られないために他人より優れてると見せる人間にならなくていい

 どっちが道を譲るか悩まなくていい世界

 生きるために汚れなくていい世界


 もう少しだけ待っていてください

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