第12話 universe eve

量子通信はついに人間をテレポーテーションできるようになった

しかしそれは人間の完全解釈の上に成り立っている

人間はもう興味のない、完全に解の出た存在になった


観測によって変わる宇宙


人間の行動原理が単純だと分かったからこそ”観測”が成り立つ

因果律は全宇宙をくるむ服にできたしわのようなもの

転送とはその同じ服を着て同じ恰好になるようなもの

同じしわができた状態がコピーされたということ

(しわが伝播すれば、元のしわはかき消される)

同じ体格でないと成り立たないし、その状態が観測によって動いてはならない

そしてそれは外皮だけでなく、内容物にも応用できるいうこと


つまりどんなに違う人間がいても”同じである”とする方法が見つかっただけのこと

その観測方式によって、人はどこにでもいるようにできる

その代わり人は同じであることを強要された

記憶だけの他人に移すのとそう変わらないというのが実情だった


そして人間は均一化していった


人の能力は発想でも発見でもなく、知ってるか知ってないかでしかない時代になった

知っている状態にできれば誰でも何にもなれる(身体の成長、改良も含めて)

このブラックボックスのない状態は、最初はなりたいうらやましい職業の順番待ちだった

 しかしやがては底辺の仕事でも別に苦にならない、どっちでもいい状態を作り出した


というより人の意識も身体もどうにでもなる状態は人から意識を奪っていった

人類は一人でいいし、それはだれでもいい、何かを生む必要はないし

 生み出したとしても、余計な仕事が増えるだけで、発展にはたいして寄与しない


壊し屋という職業が生まれたことがあった

人と人を断絶して個性を尊重しようという職業

しかしそれすら組織を堅牢なものに変えようとする過程で人の平準化の波にのまれた

何かに対抗するには何かで秀でなければいけない

それは知識の積み重ねであり、結局”それ以上”がない以上、他人と同じになるから

それは昔なら学力差は成り立つが、もう今ではそれは成り立たない

人はすべてが最高であり、それ以上がないから


性欲もコントロールされ、寿命もあってないようなものになり

誰も人類を増やして、さらに自分が死ぬということをしたいとは思わなくなった


細菌も最初は新しいものができていたが、進化の限界なのか進化のための種となる

 薬剤も出尽くしたのか進化しようがなくなった

どんなに細菌が進化しても、人間の化学がそれを許容して共生してしまう

やがて細菌は進化する意味を失ってその状態のまま適度に繁殖していくし、

 また別の細菌に淘汰されるだけ

その淘汰もなくなり本当の安寧が細菌界にも訪れる


このまま時が止まったように時間は進んでいく


宇宙人でも現れない限りこれは続いていくだろう

これは無の状態と同じだろう

やがで宇宙の構造は平均化して、エネルギーも分散して、観測できなくなり

 在っても、無い状態になる


新しい宇宙を誰かが夢見ることを永遠に待つように

今日という日が、もし存在するとしたら、それは眠りについた

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