第26話 取引

 ニリアと戦い、勝利したことでエルフの騎士や国王に強さを証明することができた。


 だが、これからが本題だ。


「アルスさん。早速だけど本題に入らせてもらってもいいか?」


「構わん。協力してほしいのだろ?」


「流石だな。ああ、そうだ。もちろんただでとは言わない。」


「こちらとしては別に無償でも良いのだぞ?何しろ、あの皮肉な戦いを予期し、先手を打とうというのだからな。」


「そうか。でもダメだ。」


「なぜだ?」


「エルフのちからは正直人族よりはるかに上だ。その力を最大限に活用したい。」


「なるほどな。だが、何を取引に出そうというのだ?」


「エルフには《想像イメージ》の力を使えるようになってもらう。」


 俺がそう言うとこの空間は凍りついたかのように静かになった。


「か、神風君。い、いま君、なんと言った?」


「だから、想像イメージの力を使えるようになってもらう。と言ったんだ。」


「………。」

「いや、想像イメージの力は人族にしか使えないのだぞ?」


「ああ、そのことなんだが。この力は原則、使んだよ。」


 俺がそう言うと、エルフ達、おまけにさっきの俺の話を聞いていたはずの天風までもが更に混乱した様子になった。


「この力は、修練すれば他の必技と同じように使えるようになる。」

「人族に伝わっている力は、本来人族の誰もが使えるのが当たり前だった。だが、その力はだんだん衰退していき、最終的に俺みたいに世界が必要とするときにしか現れなくなったんだ。」


 俺がそう説明するとアルスはセヴァンに向かって俺達には聞こえないように何かを伝えた。するとセヴァンはそれに答えるかのようにアルスに何かを伝えた。


 俺はそれが何かまではわからなかったが想像イメージの力で何かエルフにしか無い通信手段でやり取りしていることがわかった。


 例のあの事件以来、俺の想像イメージの力が更に強くなった気がする。今まではあくまで自分と俺が触れているものに影響を与えるくらいしかできなかった。が、エルフの心を読むとまでは言わないがなんとなく相手の攻撃がどっちの方向から来るかわかるようになってきた。それどころか、最近はこの力が無意識的に発動していることもあった。俺はある意味この力が怖くなってきている。確かにこの力は世界を救う力がある。だが、それと逆に世界を力があるということでもある。そんな力が暴走でもしたら、と思うと怖くてたまらない。


「神風!どうした!?」


「!?」


俺は思わず右手を強く握り、爪が手の皮膚を貫こうとした瞬間。セヴァンの声で我に帰った。


「………すまない。ちょっと考えてた。」


「話を戻すが具体的にどうするのだ?」


「まずはエルフの騎士に俺が使い方を教える。そして、それをエルフの魔法を使う団体に教える。」


「なるほど。」


「あまり時間が無い。お前らならすぐに習得できるだろ?」


「やってみなければわかりませんな」


「やるしか無い。セヴァン。とりあえずお前にこの力を託したい。」


「ああ。その任務、私が受けよう。」


「頼む。あとひとつ確認だ。俺達はこの後、王都、大和に向かって同じく協力を要請する。そこでアルス。あんたには俺達に協力するということを他の国に証明してほしい。」


「よかろう。なら、私がアルフヘイムで演説を行おう。そうすれば他国も知り得るだろう。」


「頼む。さっきも言った通り、時間がない。エルフと人族が密に連携できるようにエルフ騎士を指揮するのはセヴァンにやってもらいたい。できるか?」


「もちろんだ。」


「よし。そしたらこれから俺は想像イメージの使い方をセヴァンに教える。セヴァン。どこか修練のできるような場所は無いか?」


「私の持っている修練場がある。そこでやろう。」


「私もいっていいか?神風くん。私もあなたの剣技をもっと知りたい。」


「ああ、ニリアにも教えておいたほうが良さそうだしな。」


「ありがとう。」


「さ、始めるぜ?俺達人類の反撃を!」


 俺は今まで隠してきたが例の事件からこの力が増し、過去、未来と完全に繋がった。俺はそこから全ての情報を引き出した。


 ここまで来たらとことんこの力を使って世界を救う。俺はそう決意し、セヴァンの修練場に向かった。


26話 取引 完




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