第25話 過去

 俺は元の世界で完全突入型、フルダイブ型のゲームをプレイしていた。もちろん俺は最初から強かったわけでは無い。


 俺はあの日、初めてゲームハードを装着し、ゲームの世界にダイブした。だが、俺が抱いていたワクワク感は一瞬で打ち砕かれた。俺は《ノンコンフォミティ》つまり、フルダイブ不適合者だったのだ。俺の症状は左目が見えないというものだった。メーカーの保証で機械のチューニングをし直してもらえるのだがそれでもなお治ることはなかった。


 本来リアルで片目を失明した場合。リハビリで何の問題もなく生活ができるようになるが、俺の場合、ゲーム内のみだ。現実世界では両目が見えるが、ゲーム内では片目が見えない。つまり、慣れていくどころか現実世界ですらも遠近感をうまく取ることができなくなってしまった。


 俺はそれでもゲームでもリアルでも負けるのが嫌だった。俺はゲームの中では視覚に頼らず、聴覚などをフルに使って戦うすべを手に入れた。それからの追い上げは異常なまでに早かった。


 音を主に行動をすることで相手の動きを目で確認するよりも早く体を動かすことができるようになった。それに完全に目が見えないわけでは無い。ゲームを始めてから1年が立つ頃にはもうリアルでもゲームでも遠近感を取り戻し、普通に動けるようになったどころか聴覚が敏感になっているおかげでより戦いやすくなった。


 これが俺の強さの理由だ。俺はどん底を知ってなお諦めずに戦うすべを手に入れた。これが弱者の強さの理由だ。



「さぁ、続きをしようぜ?まだ勝負は終わってないからな。」


「そうですね。」


 俺は床を一蹴りし、後ろに飛んだ。そして俺の着地と同時に俺とニリアはソニック・ムーブを同時に起動し、音速勝負となった。2人はソニック・ムーブを駆使し、超高速で打ち合った。その動きを目で追えたものはこの場にはいないだろう。


「こ、これは……。」


「………」


「ほう。流石だな。神風君。」


 カンカンと言う音と火花を立てながら何合も打ち合った。そして俺はタイミングを見極めて、ソニック・ムーブとソニック・ストライクの《必技の連携》を使った。俺のスピードはニリアの速度を遥かに凌駕しニリアの持つ剣に命中した。


「くっ!?」


 ニリアの剣は高く跳ね上げられ、俺は斬り終わりの体勢から体を起こし剣を払い鞘に収めた。


「どうだ?これが負けるってことだ。負けを知らないものは目指すものが見つからない。故に限界がある。が、負けを知っているものはまずそこを目指そうとする。それが弱き者が強くなる理由だ。弱いが故に勝つための手段がある。」


「なるほど……。完敗です。神風くん。私をあなたの仲間に入れてはもらえませんか?私はもっと君の剣術を知りたい。」


「別にいいぜ?こんなに強い人が仲間に入ってくれるなら俺達も助かる。」


「確かにニリアを君に預けるのもいいかもしれんな。ニリア、神風君の仲間として行動しなさい。」


「はっ!」


 俺達に心強い仲間が手に入った。俺達の目標を達成するための『鍵』が手に入った。これでまた一歩目標に近づいたわけだ。


この先はおそらく更に過酷な旅になるだろう。


 だが、忘れては行けない。この戦いで俺達はふたりとも”奥の手”使わなかった。これが指す意味、それは──────


25話 過去 完






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