第24話 決闘
俺達は朝食を済ませた後、エルフの国サッツァニアの王城にセヴァンの案内で向かっていた。
「そういやさ、セヴァンってエルフの騎士の中で一番強いの?」
俺は気になったことをなんとなく聞いてみた。するとセヴァンは立ち止まり、顔色を変えてから言った。
「いや、私はエルフの騎士では2番だ。」
「一人、一人だけ、もはや物理限界を超えた化物がいる。」
「へー………ん?」
「今なんて言った?」
「物理限界を超えた化物だって?」
「ああ。あいつはもはや人間じゃない。」
「エルフって確か人族より全ステータスが高かったよな?」
「そうだ。」
「でも、物理限界を突破できるのか?」
「いや、原則できるわけが無い。だが、近づくことは可能だ。」
「エルフには限られた人にのみ使える、力《オーバーロード》と言う力がある。」
「オーバーロード?」
「そうだ。この力はエルフの長い寿命を活かした技だ。脳のリミッターを解除し、体をより効率よく動かすことができ、全ての物の動きを捉える。」
「なるほどな。つまり、エルフの長大な寿命を削る代わりに脳の処理速度をあげるってことか。」
「そういうことだ。」
「面白いじゃん。」
「ほう。いい顔だな。おそらく”あいつ”は王城に居るはずだ。」
「ぜひ手合わせしたいものだな」
俺はヘラヘラしながら言った。
俺達はエルフの王城に着き、王の間の中に入った。
「待っていたぞ。神風君。」
「お?俺の名前知ってんのか?」
「当たり前だ。あれだけのことをやってのけた男だぞ?噂はもはや全世界に広がっとるわ。」
「そ、そうなんだ……」
俺は後ろの天風の声に少し驚いて思わずこう言ってしまった。
「あ、そういや最近お前影薄いな」
「え?ひどくない?」
「と言うか、いつも置いてくの神風でしょ?」
「確かにそうだな」
俺は笑いながらそう言った。
「要件はもうわかっている。だが、こちらも君の力を試したい。試合をしてみないか?」
「いいぜ?」
「ほう、いい威勢だな。聞いただろ?エルフ最強の騎士のことを。」
「ああ。そいつと戦いたい。」
「いいだろう。ニリア。相手をしてやれ。」
「はい。」
前に出てきたのは女の騎士だった。俺は目を疑った。あまりにも美しかったからだ。
「お前か。」
「私は《ニリア・ニヴァレス》です。君とは戦いたいと思っていました。」
「奇遇だなぁ。俺もだ。」
「そうですか。では早速、決闘といきましょう。」
「おう!」
俺達は距離を取り、剣を構えた。
「あのさぁ。」
「なんですか?」
「お前。負けたことねぇだろ。」
「ええ。当たり前です。それがどうかしましたか?弱者さん?」
「じゃあ俺がお前に負けを教えてやるよ。それに俺のことを弱者だと言ったな?」
「もちろんです。ヒューマニティがエルフである私に勝てるはずも無いですからね。」
「そうだな。確かに俺は弱者だ。お前知ってるか?強者の最大の天敵は”弱者”だってことを。」
「また、冗談を。」
「まぁ、この戦いで教えてやるよ。弱者の強さを。」
この時、天風は何時になく神風から恐怖に似た何かを感じた。
『神風が弱者?そんなわけがない。神風が負けたところを見たことがない!一体どういうつもりなんだ。』
天風は頭のなかで必死に考えた。神風が言っている事の意味を。
「セヴァン。コールを頼む。」
「分かった。では、これより!エルフの騎士!ニリア・ニヴァレス対人族の騎士!神風の立ち合いを開始する!始め!!」
その合図とともにニリアが床を蹴った。俺はその瞬間に体を横に倒した。すると、ニリアはこの10mはあるであろう距離を0.1秒にも満たないスピードで俺の目の前を通り過ぎた。
「え!?」
おそらく俺以外にはニリアの動きを捉えた者はこの場にはいないだろう。
「なるほど。私のこのスピードを見抜きますか。」
「《ソニック・ムーブ》だな?わかり易すぎだ。この技は、床の蹴り方に特徴があるんだ。それを隠そうともしないで使ってくるとはな。」
「なっ………。」
「俺ならこうするな。」
そう言って俺は最小の動きで技を発動し、床を蹴り、ニリアの目の前まで移動した。
「!?」
「どうだ?これが弱者の知恵だ。下克上って知ってるか?」
「下克上?」
「そうだ。
神風の強さ、それは神風の過去こそがその意味であり、弱者だったからこそ今の強さがあるのだ。
そのことをこの世界の人間は知る由もない。一人を除いては。
24話 決闘 完
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