第21話 エルフ

 俺はテントの中で目を覚ました。俺は体を起こしてテントのロックを解除し立てかけてあった黒竜の剣を手に取り、外に出た。


「昨日のは一体何だったんだ……」


 俺は剣を眺めながらそう言った。

相変わらずこいつは朝日を反射させて、黒く、黒く輝いている。


「ありがとな。」


 俺はこいつに昨日のお礼を言った。すると後ろから突然声がした。


「気持ち悪いなぁまったく。朝から剣に語りかけてるって。もう病気じゃないの?」


「うわぁ!?」


 集中して、と言うか自分の世界に入り込んでしまっていたせいでその声にびっくりして情けない声を出してしまった。


「そんなに驚かなくてもいいだろ。」


「剣に語りかけるのは大事なことだぞ?」

「自分の命を預けてるんだから。このくらいはして当然だ。」


 自分で言っておきながらどんどん恥ずかしくなっていく俺だった。






 俺達は朝食を済ませ、テントを片付け始めた。


「ん?」


俺は異変に気づき茂みの方に目を凝らす。


「どうしたの?」


「あ、いや、何かに見られているような気がして。」


「あーもしかするとエルフじゃないかな。」


「エルフ?」


「うん。エルフの国、《アルフヘイム》がここから東に更に行ったところにあるんだよ。」


「なるほど。行ってみるか。」


「は、はぁ?」

「い、いまなんて言った!?」


「だから、アルフヘイムに行こうって言ってんだよ。」


「知ってるよね?!エルフにヒューマニティが嫌われていることを!!」


「ああ。もちろん。」


天風は呆れ顔になってからため息をつき、肩の力を抜いた。


「はぁ、もうわかったよぉ。好きにしてくれ」


「よし、じゃぁ行きますか。」


 俺達はアルフヘイムに向けて歩き出した。


 しばらく歩くと森の入り口が見えてきた。


「あれは?」


「ああ、あれは《エルフの森》だね。」


「エルフの森?」


「そう、アルフヘイムへの唯一の道だよ。」


「なるほどな。」

「よし、入るか。」


「うん」


 俺たちはエルフの森に入っていった。


 辺りは鮮やかな緑色の木々が並んでいる。太陽の光は木の枝や葉で完全に遮っているがなぜか明るい。所々に地球で言うところのホタルのような光が漂っている。こんなに綺麗な森は初めてだ。俺達はその光景に目を奪われ、ぽかんと口を開けて立ち尽くした。


「すげぇなこりゃ。」


「うん…綺麗だ。」


 俺達はしばらくその光景をただ眺めていた。すると突然、真正面から炎の弾がこちらに向かってボウッと言う音を立てながら飛んできた。


 俺はそれにいち早く気づき、腰の剣を引き抜いた。その流れで剣を空気中ですべらせるように斬り上げタイミングよくその炎の弾を斬った。


「せいっ!」


「わぁ!?」


 天風は俺がいきなり剣を振ったせいで体勢を崩した。だが、俺は気にせずに炎が飛んできた方に向かって言った。


「誰だ!出てこい!!」


すると正面から一人の騎士?らしき人物が姿を表した。


「私の魔法を斬るとは…素晴らしい。」


 出てきたのは長髪の金髪で、白銀の装備をまとった、エルフの騎士だった。


「いきなり攻撃するなんて、騎士としてどうなんだ?」


「ふっ、面白いことを言いますね。ヒューマニティの剣士さん。」

「あなた達のほうが卑劣だと思いますがね?」


「確かにそれは否めないな。」


 そう、ヒューマニティはエルフに強い敵対心を持っている。王都の方では差別対象になっているそうだ。


「ですが、一応聞きます。あなた方は一体何しにここに来たのですか?」


「俺達は今、このアストニアにせまっている危機から守るため、エルフの国に協力の要請をしに行くところだ。」


「根拠がわかりませんね。」


「これで信じるか?」


 俺はそう言って右手を前に突き出した。そして詠唱なしで風の魔法を発動させ、強風をその場に起こさせた。


「な、なんだと!?」

「これは…まさか…い、想像イメージ!?」


「そうだ。」


エルフの騎士は一度腕を組み少し悩んだ後にこう、切り出した。


「わかりました。これから私が先導し、アルフヘイムまで来てもらいます。」


「物分りがいいな。助かる。」


俺はそう言って、エルフの騎士に付いて行った。


21話 エルフ 完






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る