第20話 黒き希望

 俺達の周囲に『パキィィィンン』と言う音が響き渡った。


 これは剣が折れた音だ。だがこの音は攻撃を防いだ俺の剣からの音じゃない。

そう、相手の剣が折れた……いや、斬った音だ。

 

 俺は剣の腹でブロックする素振りを見せ、剣を斬るのに必要なギリギリの間合いで手首をひねり、相手の剣めがけて切りかかったのだ。


「な………」

「「何が起きた!?」」


 俺に斬りかかってきた殺人集団の下っ端達が毒づいた。


俺は剣を払い、体制を戻した。


 下っ端達が毒づいたのにはもう一つ理由がある。それは、三人同時に俺に斬りかかったのにもかかわらず、全員の剣が弾き飛んだのだ。だが、音は確かに一回しかなっていない。なぜなら、俺は超高速回転し、三人の剣をほぼ同時に斬ったからだ。その証拠に少し遅れて剣風が俺を中心に周りに広がるように巻き起こった。


「どうした?………ガイル。」


 俺は威圧するように言った。

 

「さすがだなぁ。地球人さん。」

「どうせ、VRMMOやってたんだろぉ?」


「ああ、お前もいたんだろ?どうせ。」

「俺はお前より後にここへ来てるからな。」

「お前はわかるんじゃないのか?」


「まぁな。神速の神風さんよぉ」


「………」


俺達の会話に全くついてこれない天風は、ただ呆然と立ち尽くしている。


「俺はあのゲームの中では一番の《レッド》であり、最強のフェンサーだったんだがなぁ」

「覚えてねぇかぁ?」

「おめぇとはレッド攻略のときに敵同士で戦ったことあったよなぁ」


「残念ながら顔までは覚えてねぇな。」

「確か、一瞬であんたの剣をへし折ったからな」


 記憶は定かではない。でも、たしかに俺はこいつと戦った。あの戦いで。

世界を移動した人の記憶は残らない、でも印象に残っている人、親交の深かった人、なんかの記憶はぼやけてはいるが、記憶には残っている。俺の記憶にも一人、残っている。名前や容姿、性格などは思い出せないがポッカリと記憶に穴が開いている。一体誰なのだろうか。


 そんなことを考えていると横から俺の思考を停止…いや、落ち着かせる手が肩をぽんと叩いた。


「ありがとう。」


 俺は小さく隣りにいる天風に言った。

天風は無言でこくと頷き一歩下がった。


「さ、ラストゲームと行こうぜ。」


「そうだなぁ」


 お互い剣を構え、鋭い剣先を向ける。しばらくの静寂の後にガイルが動いた。


「!!!」


 ガイルは力強く地面を蹴り、俺に細剣の切っ先を向けて突進してきた。右手で持っている剣を左側で剣先を俺に向ける体勢で走り、剣が緑色に光り始めた。

細剣用単発突進突き技、《フラッシング・ストライク》だ。


 俺は最小の動きで体を横に向け、細剣の刃が俺の目の前を通った時、右手の剣の柄裏で背中を叩いた。


「うぐっ!?」


 ガイルは体勢を崩したが、なんとか持ちこたえ、体を器用に回転させて俺の方を向いた。だが俺は柄打ちの時点で、動き始めていた。その為こちらを向いた時点で、俺はガイルの懐に潜り込み《スクエア・サイズ》を発動させていた。


「はあぁぁぁあああああ!!!!」


 気合の咆哮とともに剣は青く輝き、黒竜の剣がガイルの持つ細剣に向かって吸い付くように、下、上、右、左の順番にヒットした。


「なっ!?」


 技が終わったと同時に俺は《ホリゾンタル・ツイン・スラッシュ》を発動させた。以前にも使った、《必技の連携》だ。必技の終わりを次の技の発動のモーションに合わせることでできる、超高等テクニックだ。


 体勢を崩しているガイルの持つ剣に超高速に左右から攻撃を繰り出す。2連撃技なのにも関わらず、『キィィィン!!!』音は一回しかならなかった。

その音から少し遅れて俺の後ろから『サクッ』と言う音が聞こえた。剣が折れ───いや斬れて、剣先が地面に突き刺さった音だ。


「なん……だと…。」


「これでお前らは完全に追い込まれているわけだが、どうする?」

「武器を変えてやるなら付き合うぞ?」


「くっ………。」


 ガイルは真剣な表情になってから小さく「return」と言った。それと同時に周りにいた下っ端が茂みの中に飛んで消えていった。


「はぁ。」


俺は小さくため息をついた。


「ほんと強いなぁ、神風は。俺は全然動けなかったよ。」


「そんなことは無いよ。お前が肩を叩いてくれなきゃあの隙に攻撃されてたよ」

「ありがとな」


「それくらいし俺にはできないし。」


「まぁとりあえず、」


俺がそういった瞬間、『ぐるるるぅぅぅ』っと俺の腹が鳴った。


「はぁ、わかったよ早く場所見つけよ。」


「おう!」


俺達はマップを再度確認し、あるき出した。


『ふふふっ、さすがだね神風くん。人類のそのものだね。』

『そうだなぁ、そう!《黒き希望》だ!』


 俺は感じたことのある、気配?いや、圧を感じ、後ろを振り向いたが、そこにも何もなかった。


「何だったんだ?」


「どうした?」


「いや、何か聞こえたような…無いような…。」


「気のせいでしょ?俺は何も聞こえなかったよ?」


「だよなぁ…」


俺達は再び歩き始めた。


『危なかったぁ。本当に察しが良いなー全く。』

『ふふっ』

『期待してるよ。神風くん、天風くん』


20話 黒き希望 完











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