第9話 過去
俺はお祭り騒ぎのあと近くの川に架かる橋の塀に座っていた。
「綺麗な夜空だな…」
俺は空を見上げ、つぶやいた。この世界にきてから色々な人に出会った。
エルやルース、そして、ウォロ村の人達と。
みんないい人で俺を歓迎してくれた。今や村の人達は俺のことを頼りにしてもくれている。
「この世界に来て良かったなー。」
俺は本心でそう思った。そんなことを考えていると後ろから声が聞こえた。
「神風くん!」
振り向くとそこにはルースがいた。
「どうしたんだ?もう夜遅いだろ?」
「ええ。でも、なんだか眠れなくて…。」
「そうか…。まぁあんな事があったんだ、仕方ねぇな。」
「ええ。でもそれだけじゃないんです。」
ルースは俯きがちに言った。
「え?」
「話があるんです……。聞いて貰えますか?」
俺は、ルースの表情を見てある程度察した。
「私の両親は二人揃ってこの村の騎士でした。」
───この世界では騎士は兵士の上のランクの上級剣士の事を言う。
「父と母は私が10歳の時、王都に呼ばれて村を出ました。2人とも村を代表する剣士でした。ですが…道中、殺人集団によって殺されました。」
「…………。」
この告白に俺は言葉も出なかった。
「それ以来私はずっと一人でした………。でも、今は一人じゃありません。」
ルースは顔を赤くして言った。今までずっと一人で頑張っていたというルースにどんな言葉をかけてやればいいのかわからなかった。
「そうなのか…」
「……神風くん!!私は神風くんと出会ってから、一回も寂しいなんて思わなくなった……」
「私…あの時これでやっと楽になれるって思ってた。でも…神風くんが助けてくれて私、すっごくうれしかった…生きてて良かったって思った。」
よかった、本当に助けて良かった。俺は心の底からそう思った。俺があの時俺が間に合っていなかったらと思うと心臓が止まりそうだ。
「そうか、助けて良かったよ」
「本当にありがとうございます。私、これからは死んだ父や母を悲しませないように全力で生きようと」
ルースは涙混じりの笑顔で言った。
「そうか……」
「これからは俺が守ってやる。ルースもこの村も、この世界も…」
俺は今なぜこの世界という言葉が出たのかはわからなかった。だが、自然と出てきた。
「はい!」
「よろしくお願いします!!神風くん!!」
ルースは満面の笑みで言った。
その後、村の外にきれいな場所があるということで外に出ることにした。
夜のアストニアの空は本当に綺麗だ。少し歩くと月明かりの青白い光が反射する湖があった。
「きれいなところだな」
「そうでしょ?」
ルースの口調もだいぶ柔らかくなってきた。やっと慣れてきてくれたんだろう。
「どうしてここに?」
「ここは、私の両親がよく来て剣の修練をしていたところなんです。」
「そうなのか。」
俺は少し考えてから言った。
「──俺も今ここで剣の修練してもいいか?」
ルースは笑顔で「はい!!」と返事をした。
俺は剣を腰の鞘から引き抜き剣を構え集中した。すると不思議と今までにないくらい落ち着いて、集中できた。
俺は何回か剣を振ったあと、俺の修練を見ていたルースのところに行った。
「ありがとな、ここに連れてきてくれて。」
「いえ、神風くん、かっこよかったです!!」
「て、照れるからやめろ…」
俺は顔を赤くして頭をかいた。
「えへへ」
「そろそろ帰るか。」
「そうですね」
俺達は村に向けて歩き始めた。
しばらく歩くと村が見えてきた。
「村が見えて来ましたよ!!早く行きましょ!!」
ルースは無邪気な笑顔を見せて村の方に走っていった。
俺はやれやれと思いながらあとを付いて行った。
すると突然──
「きゃあ!!」
ルースの悲鳴が聞こえた。
「どうした!?」
俺は必死で走った。するとそこにはこの辺には生息していないはずのオークがルースに向かって剣を振り下ろそうとしていた。
俺は剣を引き抜き、音速短距離移動技、《ソニック・ムーブ》を使ってルースの前に一瞬で行き、オークの剣を弾いた。そしてそのまま片手剣用上級7連撃技、《スター・ブレイク 》を気合の咆哮とともに放った。
「うおおぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
俺の斬撃はすべてヒットし、オークはその場で天命を全損し、光の粒子となって散っていった。
俺は剣を横にはらってから鞘に納めた。
「大丈夫か?ルース」
俺はあえて笑顔で言った。
「はい!また助けられちゃいましたねっ!」
ルースは今までとは違い、とても笑顔だった。
「言ったろ?俺が守ってやるって」
俺は倒れ込んでいるルースに手を差し伸べた。
「そうでしたね!ありがとうございます!神風くんっ!!」
───俺達はそのまま村に戻って各それぞれの家に帰った。俺はこの世界に来てからずっと抱いてきた違和感について少し考えたあと就寝に入った。
9話 過去 完
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