第7話 危機

ウォロ村を拠点として生活を始めてから、3日が過ぎた。俺は今、ある問題に直面している。それは───


「暇だ。」


俺は元の世界で暇だったから来たのに今まさにその原点に戻っているのだ。


「ああ……暇だ…」


俺は衛兵として新しく支給された無骨な鉄の長剣を支えにして足の力を抜いてた。右耳に、聞き慣れた声がする。


「おい、護衛の仕事中だぞ、真面目にやれよ。」

「だってさぁ~」


疲れの色が全く感じられない隣の衛兵の立ち姿を見て、子供のように反論する。


「俺が護衛を始めて2日間、一体も魔物を見てないんだぜ?この剣の使い心地を試したいのに~」

「……魔物の襲撃を望んでいるやつは始めて見たな。」


この衛兵の名前はルードという。

ルードは苦笑いし、だらしなく体制を崩している俺に話した。


「だが、私達が暇をしているということは平和だということだ。素晴らしいことじゃないか。」

「うぅ~~戦いたいよぉ~」

「全くこいつは……。」


ルードは呆れた様子でこちらを見ている。


「──やばい眠い…」


隣のルードが冷たい氷の刃みたいな眼差しでこちらを切りかかってくるので姿勢を整える。


「あのー、眠気覚ましに、そこの川で顔洗ってきちゃだめ───ですよね。はい。」


ルードは大きなため息を付き笑いながら言った。


「……仕方ないやつだな。行って来い。すぐ戻ってこいよ」

「え!?マジ!?サンキュー!」

「まじ?さんきゅう?」


しまった、そういやこの世界の人たち英語はわからないんだった。


「マジは本当にの意。で、さんきゅうはありがとうの意。できるだけ早く戻る!」


俺は村の近くの川へ向かって駆け足で向かった。到着するや否や、両手で水をすくって顔にかける。バシャッっという音とともに頭の芯まで冷やされるような爽快感が巡り、俺の中にある眠気が一気に飛んでいった。


「あっ、おーい。神風様ー!!」


そんな声が聞こえたのは俺が顔を服の袖で拭いていたときだった。声の聞こえた方を見た。そこには手を振りながらこちらに走ってくるルースの姿があった。


「おはよ、ルース、今日も元気だなぁまったく。それと何回も様はやめてくれって言ったろうに。」


俺は笑いながらそう言った。そうするとルースは「そうでした」と言って頭をかく仕草をとった。この子は本当にいい子だなと改めて思った。


「神風くん、あの…もし良ければ何ですけど……」

「ん?どうした?」


するとルースは目を><バッテンにして顔を赤くしてから言った。


「……あのっ、仕事が終わったら私の家に来てくださいませんか?」


───思考が停止した。


仕方ないだろ。そもそも半分引きこもりだった俺が女の子と話す機会なんて無いし。それも家に誘われるなんて初めての体験だ。


俺はどうにか冷静さを取り戻し、質問する。


「俺に何かして欲しいことでもあるのか?俺で良かったらなんでもするぞ?」


するとルースは気恥ずかしそうに答えた。


「えっと、神風くんは普段食事は支給されるパンだけで済ましていることを知ったので……よければ私がごはんを作ってあげようかなと……」


まじで?俺ってそんなことしてもらえるようなことしたっけ?

べ、べ、べべべ、別に嬉しいわけじゃないぞ?


「えっと…そりゃあ暖かい飯を食べられるのは嬉しいんだけど……本当にいいの?」

「はい!もちろんです!!神風くんにはもう2回も助けられていますから!」

「あ、ああ。別に気にしなくていいのに」

「い、いいんです!私がそう決めたんですからっ!」


な、なんか必死だな……。まぁここまで言われたら断るわけにもいかないだろう。


「分かった。お言葉に甘えるとするよ。ありがとな。」

「本当ですか!?やったっ!」


なんでこんなに喜んでいるのかは知らないが俺にとってもこれは嬉しいことだ。今回は素直に喜んでおこう。


「では、お仕事が終わったら私の家に来てください!!」

「おう!楽しみにしてるよ」


「……ん?」


俺は違和感に気づき俺はそちらに意識を集中させた。


「どうなされたのですか?」

「分からない……でも何か嫌な予感がする……」

「え?」


すると村の入口の方から声が聞こえてきた。


「神風!!!早く戻ってこい!!!」


ルードの声だ。


「見に行きましょう!」


ここは村の護衛である俺の役目で、ルースは共に来る必要は無かったのだが、「ああ」とだけ返事をして入口の方向へ向かった。


7話 危機 完

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