第5話 《想像》

 俺は先程助けた少女に先導されて、ウォロ村に向かっていた。その道中に気にかかることがあったのを思い出し、その少女に聞いた。


「そういえば、あのとき少し攻撃を受けていなかったか?」


「え?あ、はい。まあかすり傷ですけど」


「ちょっと見せて貰ってもいいかな?」


 女性が服の袖を捲って見せる。そこには、綺麗な白い肌が見えてきた。

 流石に恥ずかしいな……。とは思ったが怪我をしているのなら放っておく訳にはいかない。


「おい!これ結構深いだろ。ほんとに大丈夫なのか!?」


「ええ、大丈夫です。それより、早く村に行きましょう?」


「待てって、やっぱりそんな傷、放置してちゃダメだ」


 傷に触れないよう腕を引っ張り、俺の目の前に立たせる。

 この子は本当に強い子だ。こんな傷を負ってもなお顔色一つ変えずに俺に接してくれている。おそらくこれ以上迷惑をかけたくないと思っているのだろう。


「俺がなんとかしてみるから。君、名前は?」


「えっ?あ、ルースって言います」


「そうか、良い名前だな」



 この世界では、俺の名前は相当場違いみたいだな……と内心で唸ったが、一つ咳払いをして余計な思考を取り除く。


 純粋に、ルースという名前の彼女の傷を癒してあげたいと願う。現実では願ったところで何が変わるのかと言われるかもしれないが、これが俺のやっていたゲームでの魔法――つまり、詠唱だ。


 これは俺の推測ではあるが、この世界は世界そのものが誕生してからそこまでの年月は経っていないのだろう。

 それに時間の流れが同じだとも考えにくい。この世界を作ったエルが地球のゲームの世界に影響されて作り出したと仮定した場合、俺のソニック・ストライクが使えたことも日本語が話されている事も納得がいく。もしそうらなら回復魔法も使えるはずだ。

 俺はルースに向かって右手の手のひらを向け目を瞑り、空間の聖素せいそに意識を集中させた。聖素とは回復に必要な空間魔力のことだ。なぜ俺がこれを知っていたかは自分でもわからない。

 そして、俺は詠唱を始める。


「《イースイニー・エレクール・ミスト・トゥ・ルース・ディスキース》!!!」


 詠唱が成り立った証拠として、特有の緑がかったライトエフェクトがルースの腕の周りで発生する。それはだんだん寄り集まり、全てが一つになった後だんだんと光の力を弱めていく。そして完全に消える頃には、残酷な傷は痕一つ残さずに消滅していた。


「えっ、嘘……」


「どうだ?。もう痛くないか?」


「はい、大丈夫です!それにしても、今の現象は……」


 ルースが何か言いかけたようだが、それを言葉にすることなく身体を反転させた。


「いえ、何でもないです。――治してくださって、ありがとうございます!さあ、村へ行きましょう?」


 動きを止めていた足を再び動かし少女改め、ルースの先導でウォロ村に向かい始めた。

 そして少し歩くとウォロ村についた。


「着きましたよ、剣士様!ここが私の故郷、《ウォロ村》です!」


「へぇ、ここが……綺麗なとこだな」


 小さい村ではあるが、今までプレイしたどのゲームよりも緑豊かで綺麗な村だった。そう感じるのは、きっとここでは本物の人間たちの営みがされているからであろう。


「そうですか?えへへ、気に入って頂けたようで、何よりです!」


 元気だかどこか儚げで天使のような笑顔を見せてくれたルースに俺は不覚にもかわいいと思ってしまった。

 俺は顔を少しそむけながらルースについていった。

 すると村の入口には、衛兵と思われる青銅製の金属鎧を着た男が立っていた。その衛兵は目の前で立ち止まった俺とルースを順に眺め、俺の所で視線を止めた。


「見ない顔だな。何者だ?」


「彼は、旅をしている剣士様です。私が魔物に襲われていた所を、助けに来てくれたんですよ!」


 すかさずルースがフォローしてくれたので、良かった一人で来てたら入れなかったかもしれない、と内心ほっとしていると。


「見たところ、この辺りの魔物を倒せるようには見えんが?しかも、そんな棒切れで旅など、信憑性に欠けるな」


 衛兵の男が訝しむようにそう言うので、ため息を押し殺しながら尋ねた。


「……どうすれば、信じてもらえますかね?」


 ――ここは「通して頂けませんか?」と聞くだけで良かったのかもしれないが、それは俺の剣士としてのプライドのようなものが許さなかった。少し鋭い言い方になってしまったのをやむを得ないだろう。


「そうだな……そこの案山子かかしに、お前の持つ必技を一つぶつけてみろ。その完成度で、俺はお前を評価してやる」


「そうか……俺の剣技見て腰抜かしてもしらないぜ?」


 そう言い捨て、木剣を抜く。さっきソニック・ストライクが打てたのだ。それよりランクの低い《あの技》ならば、きっと完璧に成功するに違いない。


 腰を落とし、3メートルほど先にある案山子に意識を集中する。右手の木剣を水平に構え、左手は剣の腹に添える。

 俺は目標である案山子に意識を集中させ目を瞑った。周りの音がだんだん聞こえなくなってきて完全に自分の世界に入りこんだ瞬間、目を見開き気合を入れ技に入った。


「――セイッ!!」


 案山子との距離を右脚の一歩で詰め、剣を振る。右から左にかけての1撃、手首を翻して左から右に抜ける2撃。右下から左上に向かっての3撃。全てが重く、鋭く、そして速い。ほんの僅かに遅れて、身体を回転させてからの4撃。


 これが俺の得意技の一つ。水平4連撃技、《スクエア・サイズ》。


 青い閃光をまき散らしながら一瞬で4連撃を浴びた案山子は、跡形もなく割れてしまった。それに少し遅れて、俺の周辺の土が剣撃の竜巻に巻き込まれ、茶色の雨が周辺に降った。


「「!?」」


 驚いた表情を見せる衛兵と、隣で驚きつつも笑顔で拍手するルースを同時に見ながら、俺は片頬だけでにやりと笑った。


「これで、信じてもらえたか?」


「ああ……信じるしかあるまい。お前、《想像イメージ》の覚醒者だったのか。まさか本当に居るなんてな…」


「い、想像イメージ?」


 聞き慣れてはいるが、今聞くはずのない単語を聞いて、少し混乱してしまう。


「お前、まさか想像イメージを知らないのか!?」


「ええ、まぁ」


「まさか想像イメージを知らないやつがいるとはな。想像イメージとは、世界の理に直接接することができ、自分が知らないようなことまで自然と理解できたり、使用者が持つ意志の強さで必技に影響を与える。人類種の中でも人族にのみ与えられた伝説の奥義だ。俺も実際にお目にかかったのは初めてだ。」


 俺はそれを聞かされて驚愕した。理由は、そんな力がどうして俺に備わっているのだろう、という疑問と、この世界には人間以外の種族が存在していることを始めて知ったからだ。


想像イメージを使う者は、戦技量に関係なく必技を放てたり。剣士でも魔法を使えたりできる。お前も、もしかしたら出来るかもしれんな」


「マジかよ……」


 これは、エルに見せられた強力必技よりも遥かにチートだ。だが、これは与えられたものではなく自分に備わっていたものだ。そう拡大解釈して、俺はこの力を極めてみようと思った。


「さっきは疑って悪かったな。通っていいぞ」


「おう、ありがとな」


 衛兵と、軽く拳をぶつけ合う。

 なんかリアルにこういうことができるのは気持ちがいいな。と思った。

 待っていてくれたルースに頷きかけ、村の中へと入る。


 さっきので随分と疲れてしまった……どこか、休める場所があるのか聞くのも、忘れないようにしないとな。


 5話 《想像》 完


あとがき


 どうも初めまして。作者の夜桜翔よざくらかけるです。


一回こういうの書いてみたかったんですよね~………。


これから5の倍数回にあとがきっぽいものを書いていきたいと思っています。読みたくなければ読まなくても構いませんw


 まぁそんな話は置いておいて、この作品は自分が初めて書いた作品です。もともとはカクヨムで普通に投稿していたのですが、20話を超えたあたりで、読み返したりしていたんですがあまりにも文章がひどかったので1から書き直しているというわけですw(前よりはよくなったけど文章力の無さに自分でがっかりしていますw)


 もうすでに第28話まで書き終えていますので少しずつ良くなると思われますw


 この作品はいろんなアニメ、ラノベの影響を受けまくっているのでちょっと、というかだ大分似ているところがある(S〇Oとかノゲ〇ラとかですw)と思いますが温かい目で読んでもらえたらと思います。


それではこれからも楽しんでください!!

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