第4話 初陣

 気が付くと俺は、転移先とエルに伝えられた《ウォロ村》の近くに流れる川のほとりに立っていた。

 見かけは仮想世界となんらかわりはない。ここは仮想世界なのでは?とも思ったりしたがやはり違う。ここは現実だ。体に伝わってくる情報の量が違いすぎる。それに仮想世界では表現の難しい重力もここではものすごく自然に思える。むしろ日本より体に馴染む気さえした。


 エルは創世神という立場上、人目につくわけにはいかない。という事で俺の冒険は一人旅から始まるわけだが、何も分からない状態で動くのは危険だ。

 まずはすぐ近くの村に寄って情報収集が無難か。


「そういやストレージってどう開くんだ?」


 俺は色々探ってみた。そしてポケットに何かが入っている事に気づいた。


「グローブ?」


 入っていたのは左手用のグローブだった。少し持ち上げると目の前にウィンドウが現れた。

 そこには各種操作ウィンドウを表示し操作できると書いてある。その文字の下に詳細のボタンがあった。そこを押すと更に説明が出できた。


「なになに…2本の指でグローブをタップすることで操作ウィンドウを開く…か。」

「なるほど」


 さらに注意事項が書いてある。


『このグローブを装備していなければウィンドウの操作やドロップしたアイテムの自動回収ができない。なおグローブの能力は戦技量に応じた能力値になる。』


「なるほどな。」


 改めて装備品を確認する。全身が革製と思われる服で包まれている。黒色の服に茶色のズボン、黒色の靴に同色のグローブ。そして、すこし青みのある黒のコート。そして腰に携えられた木の剣。まさしく初期装備だ。

 俺は頼りない剣を目線の高さまで持ち上げ「とりあえずよろしくな。」と、半ば独り言のように呟く。


 俺は周辺を確認するためにマップを開いた。近くには白いアイコンが1つと少し離れたところに固まってアイコンがいくつも表示されているところがある。しばらく眺めていると────


「きゃぁぁぁぁああああ!!」


 悲鳴――!?


 女の子の声だ。よく見ると一番近い白のアイコンが薄くなってきている。

 つまり───襲われている!!


 俺は自分の出せる最高速のスピードで走った。少し走ると魔物に襲われている少女の姿が見えた。


「間に合え――ッ!」


 俺は夢中で剣を引き抜き体の横に走りながら構え、スキルを発動した。片手剣用高速突進技、《ソニック・ストライク》だ。剣は赤く光だした──が体にずっしりと重い鉄球を引きずっているかのような抵抗を感じた。


 だが諦めるわけにはいかない。俺は雄叫びを上げ、根性と気合だけで技を強制的に起動させた。


「うおぉぉぉぉおおおおお!!」


 本来届くはずの無い距離を一瞬で詰め、魔物にヒットさせた。

 すると魔物は青白い光の粒子となり花火のように破裂し消えていった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 息が切れた。流石に仮想世界とは違って息切れはするようだ。


 後ろで少女が倒れている。俺は剣を鞘に収めた。


「大丈夫か?」


 俺は右手を差し伸べ倒れている少女を起こした。


「あ、あの……助けてくれて、ありがとうございます」


 日本語!?今更だがエルとも話せていたのも不思議だ。まぁエルは神だから一歩譲ったとしてもこの子が日本語を話していることはかなり不自然だ。地球という一つの惑星だけでも言語が7000語以上あると言われているのにこの異世界で話されているということは日本と関係があるのか?とも思ったがとりあえず返事をした。


「いや、人を助けるのは剣士として当たり前だろ?」


 我ながら恥ずかしい台詞だと思った。

 俺の手を借りて立ち上がった少女は感動したように俺に詰め寄って来た。


「剣士様は、《戦技量》がお高いのですね!」


「いや、俺はまだレベル1ですよ?」


「れ、れべる?」


 しまった。うっかりレベルと言ってしまった。言い直さなくては。


「あ、いや、戦技量はまだ1ですよ?」


 目の前の少女は驚いた様子だった。


「えっ、でも剣士様が扱われたあの必技は、相当高位のものでしょう?」


「それは、え、えーっと……」


 これは答えに困る。異世界から来たと言ってもほぼ100%信じてもらえない。


「こ、これは、異国の必技なんだよ、うん」


「異国……旅をされているのですか?」


「まぁ、そんなとこだ。」


「うですか……その剣と、その服装で?」


「うぐっ」


 苦しい。苦しすぎる。異世界召喚した人の気持ちがよくわかるなこりゃ。


「あ、これは……うん、後で色々話すよ。」


「そうですか。なら私の村にきませんか?」


「えっ、いいのか?それは有難いけど……」


「遠慮しないでください、助けて頂いたお礼ですから!」


 そう言われれば断れない。それに、見知らぬ男が一人で村に突入するよりも、村の人と一緒に行ったほうが信頼されるだろう。ならば、断る理由は無い。


「そうか、じゃあ、頼むよ」


「はい!」


 不思議とこの世界の空気感に体が馴染む…この世界にはなにかがある…そんな気がしてならない。この先にあるであろう冒険に胸を踊らせながら、俺は少女に先導されて、小さな村、《ウォロ村》へ歩き出した。


 4話 初陣 完

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