第3話 固有必技
体感では分からないほどのスピードで移動し、一周回って周りがゆっくりに見える。時空の狭間を通りぬけると、そこには緑が綺麗なファンタジー世界が広がっていた。
「おお!」
世界の中心には圧倒的なまでの存在感を放つ塔がそびえ立っている。どう見ても、俺の知っているゲームの世界ではない。
「ここが……」
『ようこそ、ボクの世界――《想像世界サッツァニア》へ!』
想像世界サッツァニア。何か聞いたことのある単語ではある。なぜか、不思議とその言葉は舌に馴染んだ。想像世界と言う言葉が意味することは分からないがいずれわかることだろう。
『じゃあ……まずは、《固有必技》を選んでもらうよ!』
「固有必技?」
『そうだよ、世界で一人しか使えない、ユニークスキルってとこだね』
「なるほど…ってわぁ!?」
俺は思わず腰を抜かしてその場に尻餅をついた。なぜならいま遥か上空に浮いていたからだ。
それを見て目の前の創世神は俺を見て笑っている。俺はその場で立ち上がって気になったことを聞いた。
「そういや、まだあんたの名前を聞いてなかったな。教えてくれないか?」
『確かに、神様であるボクにずっと《あんた》呼ばわりは酷いもんねぇ』
小さく笑い、少年は右手を差し出してきた。
『ボクの名前は《エル》。よろしく、神谷伊風――いや、
「な、なんで俺の名前を知ってるんだよ」
『君を呼んだのはぼくだよ?知ってて当然さ。』
まぁそうだよな。と思いながら、俺は話を戻そうとする。
「話の腰を折って悪かったな。説明を続けてくれ」
『うん!君には、1つだけ固有の必技を選んでもらいたいんだ』
少年改めエルが右手を横に振ると、計6つものホログラムウィンドウが俺の目の前に展開された。それに書いてあるものは、銃、飛行、自由迷彩、立体機動、神剣、多刀流。どれもチートといって差し支えない、とんでもない性能の必技ばかりだ。
数十秒後、詳細を確かめた後に、全てのウィンドウをエルのほうへ向ける。
『ん?決まったのかい?』
「ああ。……俺が選ぶ必技は、これだ」
エルは俺の指さした場所を見て、驚いた表情をした。次いで、納得した表情に変わる。
『なるほどね…君らしい回答だね』
「だろ?」
『いやぁ、君は本当にこの世界に呼んでよかったよ。君には《期待》しているよ。でも一応固有必技がいらない理由を聞いてもいいかい?』
「俺は、俺より強い奴と戦うために、ここに来たんだ。それも、チートなしの、対等な条件でな。俺は、強力なスキルとかは自分で取りたい。初めから最強なんて、面白くもなんともないからな」
俺の率直な考えを聞いたサッツァニアの神は、どこか感心した様子で俺を見た。
『なるほどね、主人公補正は要らないと。君は本当に変わっているね。さすがは、イ……いや、なんでもない。』
エルは何か言いかけたがすぐに全てのウィンドウを消し、7番目があるはずの空間をなぞって無地の窓を生成した。それを慎重に持ち上げて、窓を持ったほうと逆の手で指を鳴らすと、その窓が光に包まれるようにして消滅した。これで、俺の選んだ《何もいらない》という選択が決定されたのだろう。
『よし……じゃあ、サッツァニアの大地に下におろしてあげる。健闘を祈るよ!』
「おう!頼むぜ!」
俺はエルの肩を叩き、この世界の神に向かって笑いかけた。
3話 固有戦技 完
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