ストラトスフィア・マキア/レコード
七瀬夏扉@ななせなつひ
intro Into the Sky
僕たちは、星の降る空に向かって飛ぶ。
何度でも、
何度でも。
☆
僕たち人類が空を恐れるようになってから、もうずいぶんと時が経っていた。
僕たち人類はかつて空を見上げてはその景色に思いを馳せて――多くの感情を抱き、希望に胸を膨らませていた。
青空、
夕暮れ、
夜空、
雨空、
茜空、
星空、
これまで人類は、たくさんの空に名前をつけては、そこに意味と価値を与えてきた。
まるで、真っ白なキャンパスに描いた絵に題名をつけるみたいに。
二十一世紀と呼ばれていた時代の黄昏には、人類の多くは宇宙進出を果たしていたという。
広い空の、さらに先へ。
遠く、もっと遠くへ、と――
今も膨張を続け、永遠に広がっているとも思える外宇宙を目指そうとしていたのだから、人類の空や宇宙にかける思いや情熱は、凄まじかったのだと思う。
人類は、外宇宙へと――新しいステージにたどり着くための準備を着々と進めていた。慎重に計画立て、少しずつ計画を実行に移し、長い時間と根気をかけて希望と情熱を注ぎ、それらは少しずつ組み上がって行った。まるで見えない向こう岸に、長すぎる橋を架けるみたいに。
いずれ、その橋の上に引かれたレールのを上を、多くの人類を乗せた列車が進んでいくことを目指して。
そして、夢見て。
しかし、そんな秒刻みでつくりあげられたスケジュールの全てが白紙となってしまうのは、一瞬だったという。架けようとしていた人類の橋が、粉々に砕けて宇宙のゴミに――デブリとなってしまうのは、本当に一瞬の出来事だった。
それは、突如として人類の前に現れた。
その日、人類は空を見上げることをやめてしまった。
その出来事を境に、空を見上げて抱ける感情は恐怖と絶望だけになってしまった。
もう、人類は空を見上げて手を伸ばしたりなんてしない。
空を目指し――空の向こう側に行こうだなんて夢や希望を抱いたりしない。
それでも、僕たちは空に向かって飛ぶ。
いつか、人類が空を取り戻す日のために。
必死に空を駆け抜ける。
たとえ、そこに希望がなくても――その夜空に、たった一つの星すら輝いていなくても、僕たちはもう一度空を見上げるために飛ぶんだ。
また人類が空を見上げて、そして空の先に手を伸ばせるように。
僕は、空が好きだった。
空を飛ぶの好きだった。
空を駆け抜けるのが好きだった。
空から落ちる瞬間、
最高の気分になれた。
たとえ、そこに恐怖と絶望しかなかったとしても、僕たちが飛び出した先にあるのは間違いなく空で――
空は、
空。
僕はいつか、この空で死ぬだろう。
それも、悪くない気がしていた。
だから、僕は今日も空を飛ぶ。
何度も、
何度でも。
僕の終わりと、人類のはじまりを目指して。
希望の無い――
星の降る空を。
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