第二話_三
「親は仕事に行ってます。どうぞ、そこに座ってください」
リビングに通された私たちは、ソファに座り、お茶を入れている鏑木先輩を待つことになった。ちなみに見知らぬ私を家に上げるのを
二人分のお茶を持って戻ってきた先輩は、ちらりと私を見て
「それで、用件というのはなんでしょうか」
日置先生の正面に座った先輩は、視線を恩師に向けた。私はいないものとして
「君が安達先生に
日置先生は
げーマジかよ、
「君は
「もう決めたことです」
「私がお願いしてもですか」
「はい。俺は自分の意志を曲げるつもりはありません」
「殴った責任は取るということですか」
「そうです」
「だが君が部を去っても、誰も戻ってきませんよ。
ここで初めて鏑木先輩の顔に
「平井君には謝罪したんでしょう? 高校生でしかない君に、それ以上することがあるとは思えませんが」
「謝ってすべてが許されるとは思っていません。思っているとしたら、そいつはまったく反省してない。反省しているなら、行動で示すべきだ」
「だったら平井ってひとは反省してないってことじゃん」
会話に割り込んだのはまったくの無意識だった。このとき初めて鏑木先輩の目が、本当の意味で私を認識した。
「部外者は口を
「部外者じゃないです」
「俺はお前を知らん。日置先生が連れてきたから家に入れたが、出て行ってもらってもいいんだぞ」
「
ローテーブルをべしべし叩くと、鏑木先輩の元から
「そんなに出て行かせたいなら、殴った理由を聞かせてください。それ聞いたら出て行ってあげます」
「俺の家だぞ」
「
「
「そっちこそなんで自分だけが悪いみたいに言うんですか。ひとを殴るなんてよっぽどですよ。特に意味もなく殴ったんですか。カッとしてやったってやつですか」
「……そうだ」
「うわー最低。日置先生、このひと最低ですよ」
日置先生は何も
「ああそうだ、今日の朝にやってたニュース見ました? 隣の県で起きた事件です。中学生が同級生から百万円以上も
短いニュースだった。事実をさらっと伝えて、番組のゲストは信じられないと犯人の中学生を批判して、メインキャスターは痛ましげな表情で
「でね、家族とそのニュース見てたら、小学生の弟がいきなりぽろぽろ泣き出すんです。びっくりですよ。どうした新ちゃんって、
どうにか泣き
マー君が
「クラス
鏑木
「弟は
次の日には泣いて謝ってきたそうだ。子供は仲直りが早くて
「なんで怒ったと思いますか?」
「どうして俺に
「先輩なら、分かると思ったからです」
鏑木先輩の表情が不自然に固まった。あふれ出しそうになる感情を押し
「……弱いから、だろう」
鏑木先輩が言った。
「苛められて傷つくのは、弱いからだ。そんな自分が嫌で、
「でも
あの日、ゴミ捨て場にあった弓は、鏑木先輩そのものだった。
捨てたものを通して「お前はこれと
「日置先生が言ってました。先輩には弓道しかないって」
いや、弓道にしか興味がないだったっけ。まあいいや、同じようなもんだ。
「ひとつしか持ってないのに、そのひとつを
先輩はいつの間にか立ち上がった私を見上げ、
「鏑木君」
ソファから立ち上がった日置先生が、先輩の
「退部届は置いていきます。
先生に目線で
リビングを出て行こうとする私の手が、すれ違いざまに
「思い出した。お前」
すべてを言い切る前に、先輩の手をやんわり
去り
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます