第13話 飲み会-2
そんな話ばかりしていて、時間は12時を回り、久々の楽しい時間は、あっという間に過ぎた。
「小形はタクシーで帰るだろ?」
本村君は大通りを差した。
「ああ、私、歩いて帰れるから……」
私が反対方向へ歩こうとすると、本村君が私の腕を引っ張った。
「こんな時間、女が一人で歩いたら危ないから。ここで待ってて。今、タクシー捕まえてくる。」
男らしい発言に、胸がキュンとなる。
いやいや、大した意味はない。
自分に言い聞かせている私を置いて、本村君は大通りを歩いて行った。
「いいな。優しくされて。」
ふと弥生が、寂しそうに言った。
「弥生は、誰か迎えに来てくれるの?」
弥生は首を横に振った。
「迎えに来てくれる人なんて、いないよ……」
そう言って弥生は、寂しそうに笑った。
「……旦那さん、迎えに来てくれないの?」
弥生は静かに微笑むと、ゆっくりと話し始めた。
「出海……私ね、離婚するんだ。」
「はっ?離婚?」
突然の話に、声が裏返る。
「どうして?」
「…浮気してるの、ばれちゃった。」
「浮気?弥生が?何で?優しそうな旦那さんだったじゃん!」
弥生は見た目は派手そうでも、中身は一途だったのに。
「ウソだよね。弥生の浮気で離婚するだなんて……」
私が弥生に近づこうとした瞬間、大和君が弥生を抱き寄せた。
「ごめん、出海ちゃん。弥生の相手、実は俺なんだ。」
私は弥生に近づいた分だけ、二人から遠ざかった。
「突然の話で驚いたと思うけど、弥生の事、本気で愛しているんだ。」
愛してる?
人の奥さんなのに?
私は、その言葉が信じられなかった。
「弥生が離婚して半年経ったら……俺達、結婚しようって約束もしている。」
二人の表情を見て ウソはついてないと思う。
「じゃあ、弥生の今の結婚は何だったの?」
「出海……」
「間違いだったって言うの?」
うつむく私に、弥生は優しくこう言った。
「出海、結婚ってね。そんなに難しいものじゃないと思うよ。」
何それ。
結婚している人の余裕?
この差は何?
私には、一度結婚するのも、難しいって思っているのに。
しばらくして、本村君が戻ってきて、タクシーに乗る為に、出海は二人から離れた。
「家の場所、言えるよな。」
私はそこまで酔ってはいなかったが、一人では帰りたくなかった。
「本村君が説明して。」
本村君は振り返って、大和君と弥生に何か言うと、同じタクシーに乗り込んだ。
「港の方へ……」
本村君が運転手にそう告げると、車は動き出した。
「本村君は弥生と大和君の事、知ってたの?」
たまりかねて、私は今の話を切りだした。
「…うん。」
私も本村君も、それぞれ背中を向け合いながら、外を眺めている。
「いつから?」
「半年前。二人で朝帰りしてるとこ見つけて、問い詰めたら白状した。」
「反対しなかったの?」
「したさ。けど……本気で付き合ってるからって言われて…」
本気で……
不倫なのに、そんな事ってあるの?
私は笑えてきた。
「弥生が離婚して半年経ったら、二人結婚するって言ってたよ。」
「そうか…」
敬太は髪を、クシャっとかいた。
「大和にそこまでの覚悟があるのか?って言っちまったからか。」
「そこまで言ったんだ。」
「言うでしょ、普通。親友がそう言うことしてたら。」
親友……
私も弥生の親友、のはずだ。
だけど自分の知らない間に、そんな話になっているなんて。
「ショックだったか?」
本村君は、背中を向けながら聞いてきた。
「ショックじゃない方が、変だって。」
「そうだな。」
私達はしばらく、だんまり。
港沿いを、静かにタクシーが走る。
「……結婚って、何なんだろうね。」
本村君からの返事はない。
「一生、一緒にいるって誓ったんじゃないの?」
弥生の結婚式でも、弥生は今の旦那さんと、そう誓っていた。
「ただの、恋愛の延長戦?そうじゃないよね。」
「……その気持ち理解できる。」
本村君がそう言ったきり、お互い、窓の外を眺め続けていた。
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