第9話 同級生?
ある日の昼下がり。
例の如く、私は居間でゴロゴロと寝転がっていた時だ。
「ごめん下さい。」
若い男の人の声が、玄関から聞こえてきた。
セールスマンの人かな?
私はなんとなく立ち上がると、そのまま声のする方へ向かった。
「はい。」
玄関の前に立っていたのは、メガネを掛けたスーツ姿の男の人だった。
誠実そうで 年は私と同じくらい?
それなのにこの人は、私に向かって、いきなりため口を決め込んだ。
「久しぶり。お母さん、いる?」
初めて会ったにしては慣れ慣れしい。
しかも母とは顔見知り?
「何の御用でしょうか?」
冷たい態度の私に、その人は目をパチクリさせている。
「ああ……お母さんに用があって……」
「でしたら私がお伺いしますが。」
少し強気に出た私。
「すみません、お母さんとお約束していたもので。」
「母は今、おりませんが。」
「そんなはずはないでしょう。」
男は背伸びをすると、家の中を覗いている。
ものすごく怪しい。
「また別な日にして下さい!」
「うわっ!」
私が玄関を閉めようとすると、男は両手でそれを止めた。
「ちょっと、何なんですか!あなた!」
「待て!話を聞け!」
「誰か!誰か!!」
私が大きな声を出すと、男はありったけの力で玄関をこじ開けた。
「キャアアアアア!!」
叫ぶ私の口を、男が押さえてくる。
「小形!俺だよ、俺!!」
私はそっと男を見た。
「小中高と同じ学校だった、本村敬太だよ!」
私は何度も、瞬きをした。
「も、本村…君???」
「そうだよ。やっと思い出したか?」
私は玄関の戸から手を離すと、じーっとその人を見つめた。
「あらあら、大きな声が聞こえてきたけど、何があったの?」
ようやく台所から、やってきた母。
「ああ、本村さん。あがってあがって。」
「失礼します。」
母は、何の警戒心もなくその人を、家の中に入れた。
慣れた雰囲気で、居間に座る本村君……と名乗る人。
「何か疲れているけれど、大丈夫?本村さん。」
母が心配しながら、お茶を出す。
「いえ、大丈夫です。さっき誰かさんに、泥棒か何かに見間違われただけなんで。」
母は、真っ先に私を見る。
「泥棒なんて、言ってないわよ。」
私は赤い顔しながら、母の隣に座った。
「ふふふっ!同級生を見間違えるとはね。」
母は思いっきり笑っていた。
「だって本村君の事、よく覚えていなくて……」
本村敬太?
確かそんな人いたような気がする。
でも高校も一緒だったっけ?
「失礼なヤツだな。俺は小形の事、よく覚えているぞ。」
ドキッとした。
「本当に?」
「ああ。小形は飛び抜けて、頭が良かったからな。」
そう言って本村君は、お茶をすすった。
「実力テストじゃ、いつも学年で10番以内に入ってた。小形の名前を知らないヤツなんて、同じ学年ではいないよ。」
そんな昔のこと言われると、頭の奥がくすぐったくなってくる。
「そんな、大げさな。」
「大げさじゃないって。事実だから。」
変なの。
私は本村君の事を、何一つ覚えていないのに。
この人は、私の事をよく知っている。
それは、不思議な気分だった。
「あっ、そうだ。お母さん、この前欲しいって言ってた、資料持って来ましたよ。」
本村君は、何かを思い出したかのように、持ってきたものを取り出して母に見せた。
「何の資料?」
母よりも私の方が、その資料に釘付けになった。
「ん?インターネット?」
「そうなの。」
母は照れくさそうに答えた。
「えっ…お母さんが?」
「あんまり得意じゃないけどね。」
そう言って舌を出す母。
知らなかった。
そんな事に興味があったなんて。
「これでしたら、一香ちゃんの子供達の顔も、リアルタイムで見れるようになりますよ。」
本村君は、パソコンに付けるカメラを説明していた。
「あら、ヤダ。はまっちゃいそう。」
笑い合っている二人を見て、私呆れて口を開けっ放しだ。
「お父さんはいいって言ってるの?」
知っているとは言え、私の同級生にそんなカメラまで勧められて。
「もちろん。だって、お父さんが言いだしたんですもの。」
「えっ!お父さんが!?」
あの携帯も使いこなせないお父さんが、孫の為に慣れない文明の利器を使っちゃうわけね。
しばらくしてバイクの音がしたかと思うと、それは家の前で止まった。
「お母さん、小包!」
バイクに乗って来たのは、弟の克己だった。
「は~い。」
母は玄関へと走って行った。
私はその隙に、本村君をチラッと見る。
なぜか相手も私を見ていたらしく、同じタイミングで目が合う。
「私の事、知ってるんだったら、最初から言えばいいじゃん。」
「言わなくても知ってると思ってたけど。中学2年の時、一緒に学級委員もやったし。」
えっ!!
全く記憶にないんですけど!!
「まさか、覚えてないなんてショックだよな。」
「ごめんね~」
この際、潔く謝っちゃえ。
すると本村君は、鼻で軽く笑う。
「えっ?」
「おまえは昔からそういうヤツだったよ。」
昔からって……
お兄さん、どこから、私のこと知ってるの?
「どんなに一生懸命勉強しても、一度もおまえに勝てなかったもんな。俺にとっておまえは、目の敵だったよ。」
「そんな~」
私は伸びながら、テーブルの上に寝そべった。
「そう、それ。勉強している素振りなんて一切見せなくて。友達に『あんた、また10位以内に入ってるよ。』って言われても、また~みたいな。」
「ははは…」
「その余裕に構えている後ろ姿を、何度蹴り倒したかったか。」
お、お兄さん!
そんな恐ろしいこと考えてたの?
「まっ。今思えば、小形も影で密かに努力してたんだろうけどな。」
ごめん。私の場合、本当に勉強しないでそんな点数取ってた。
その時だった。
「もしかして、先輩来てるの?」
玄関から、克己が大きな声を出した。
「先輩!本村先輩!」
「おう!!」
仕事中だと言うのに、克己はツカツカと家に入ってきた。
なのに、私を見て克己は、がっかりした顔。
「姉ちゃん。いたんだ。」
「当たり前でしょう。」
半分ふて腐れる私。
何なんだ。
知ってるでしょう、私がこの家に住んでる事。
そんな私を尻目に、克己は本村君の横に座った。
「久しぶりですね。」
「そうだな。元気だったか?克己君。」
「おかげ様で。先輩も元気そうですね。」
「俺の場合、元気だけが取り柄だからな。」
そして二人は、大笑いしている。
お母さんといい克己といい、さっきからこの人と、やけに仲良くありません?
「それにしても、先輩と姉ちゃんが一緒にいるって、なんだか不思議な感じですよね。」
「そうかな?」
克己の発言を否定したのは、意外にも本村君だった。
「先輩といる時は、その場にいない、姉ちゃんの話をするのが常でしたから。」
「ちょっと、人がいない時に、何話してるの?」
なのに克己は、そんな事無視して何事もないように、話し始めた。
「そうだ、そう言えば……先輩がこの家に来て、一番最初に話した内容も、姉ちゃんの事でしたよね。」
はあ?
私の事?
「そうだったわね。『俺、出海さんの同級生で』って……懐かしいわ~」
母も何か思い出している。
だからさ~。
私がいない間に、勝手に同級生話で、盛り上がんないでよ~。
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