如月 一輝は語れない (※本編読んでいない方は絶対に見ないこと)
最近、俺は一人の女の子ばかり見ている。
秋瀬 千夜子。なぜか気になってしまう。
元気いっぱいだから? 違う。
可愛いから? 違う.....いや可愛いけど。
好きだから? 違う。と思う。
初めは秋瀬と一緒にいる藤宮 節乃を見ていた。彼女は高校生らしからぬ貫禄があって、顔は凛々しく、背は高く、長い黒髪は光を反射させる艶を持っていた。
男子だけでなく女子からも憧れられていたその容姿に、俺も例外ではなく見蕩れていた。
それがいつからだろう。取り巻きのようにいつも一緒にいた秋瀬の方が気になり始めたのは.....。
ある日、俺は秋瀬にキレられた。
日直で朝イチ職員室に、一限目に返却される数学のノートを取りに行かなければならなかったのだが、同じく日直だった秋瀬が先に運び始めていたのだ。
秋瀬は男子とはなかなか話さない。俺は仲良くなるチャンスだと思って色々話すつもりだった。
この気持ちが何なのか、確かめたかったから。
「イッキくんっ!」
「秋瀬おはよう! ごめんな運ばせて、手伝うわ!」
先に声をかけられてなんだか嬉しくなった。
だけど、なぜか秋瀬は.....。
「あんたが遅いから仕方なくやってあげたのよ。勘違いしないでよね!」
めっちゃキレてた。いや、後から来たけどブチギレて.....。
普段から友達にも優しいし明るい子のイメージがあったから、俺は混乱してしまった。
とりあえず謝る。
「.....ごめんな」
「あ.....え? ご、ごめんなさい!!」
逆に慌てたように、駆け出していく彼女に、俺はますますワケがわからなくなった。
その話を親友の濱中にしたところ。
「おぉ、秋瀬可愛いところあるなぁ」
「は? お前話し聞いてたんか? キレられただけやで」
「だってそれさ、ツンデレの定番台詞やん。やっぱええよなぁツンデレて」
ツンデレ大王の濱中はツンデレ少女全てを愛していた。俺も好きだと言ったらツンデレ将軍に任命してきたのは昨日の話し。
でも、確かに言われてみれば。そうなると理由が気になる。
「なんでツンデレになったんやろか」
「そら、好きな人がツンデレ好きなんちゃう?」
「いや、それでなろうとするとか有り得へんやろ。ツンデレってアニメの世界やん」
「あ〜あ、イッキは女心わかってへんな〜。好きな人の好きなタイプになりたい! 女子ってそんな生きもんやろ」
少女漫画好きでもある濱中は堂々とそう答えた。いや、それも漫画知識であってリアルに持ってくるのはちょっとどうかと思う。せめて一人くらい付き合ってから言ってほしい。
しかし、その線でいくと好きな人って濱中じゃないのか。そんな恥ずかしい情報を公表してるのは濱中以外にはいないからだ。
この時、少しだけ何かが胸に刺さった気がした。
後日、秋瀬と二人で図書室の掃除をすることになった。
そこでの出来事が、俺の想像に拍車をかける。
「まったく、詰めが甘いんだから」
遅れてきてなぜかダサい眼鏡を掛けた秋瀬は、先にほとんど終わらせていた俺にありがとうを言うと、続けて「ふんっ」と腰に手を当てて最近有名なツンデレキャラの台詞をそのまま使っていた。
秋瀬、やっぱりお前は.....。
胸の痛みが前より強い。
俺はまた、謝るしか出来なかった。
「.....ごめんな」
「うっ.....」
普通に謝ったことで、ツンデレを失敗させてしまった。今は理由がわかるから申し訳なくて何となく気まずい。
この嫌な空気が何とかならないかと、なにか話そうとしたのだが.....。
「眼鏡、ないほうがええよ」
「あ、うん.....ごめん」
いらんこと言ってもた.....。
さすがにこの日はこれ以上話さず、俺は逃げるように帰った。
帰り道、秋瀬の落ち込んだ顔が頭から離れなかった。
なんだこの痛み。
秋瀬が濱中のために頑張っている。それを見ているのがこんなに苦しいなんて。
もしかして、俺は秋瀬のことを.....。
「アホかっ!」
俺は自分の頬を叩いた。
ダメやろ。今気付いたらあかん。
考えるな。考えるな。
秋瀬は間違ってなんかない。
俺が邪魔なんてしたくない。
俺は、必死に考えることをやめた。
悶々としたまま数日が過ぎ、やっと気持ちを落ち着かせることが出来た。
結局、芽生えそうになったあの気持ちの事は誰にも言っていない。知られてはいけない。
そうや、秋瀬には幸せになってほしいからな。応援出来る男になるぞ!
俺は味方やからな秋瀬。絶対裏切らんから.....。一番近くで、見守るんや。
その日、秋瀬を呼び出して話しをすることにした。
校門の前で夕日をみながら秋瀬を待つ。また痛みがぶり返してきたがもう無視だ。出来るだけハイテンションで話そう。
この気持ちが悟られないように。
誰にも語れないこの気持ちが。
ツンデレってなんやねん..... 琴野 音 @siru69
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