第2話
「まったく……。お兄ちゃん、明日はちゃんとタロの面倒みてよ!」
ワンコの散歩から帰ってきたらしい妹がドアの外で叫ぶ。黙ってれば賢く可愛いのに兄から見て性格に難有りだな。
それはいいとして。
エゴサーチをした結果、彼女と思しきブログはものの10秒で見つかった。
通販サイト等々の次に彼女が書いたらしきブログのエントリーが表示されたのだ。彼女は顔文字を入れるのが癖らしい。それで分かった。
彼女のハンドルネームは『mami』。
相変わらずおれの作品を良く書いてくれていて、ますます好きになる。
もう、完全に恋である。
「今日も亜流タイル先生の作品について語っちゃいます(^_−)−☆」
「亜流先生の作品は2冊とも学園魔法物なんだけど、これが心理描写と風景描写が素晴らしくて。」
「魔法物なのに、何だかちょっぴり懐かしくなるような、泣けてくる雰囲気なんです(T . T)」
大好き。
この『mami』ちゃんと手っ取り早くお近付きになるには、まあ、
「本人です。いつもありがとうございます。」
なんてメッセージを書けばいいんだろうが、それは逆に引かれてしまうんじゃないだろうか。
それに、ブログの更新日時が1年程前だ。もしかしたら所謂『放置中』なのかもしれない。
「そうだ、おれの方からツイッターのアカウントを作ればいい。」
今でも匿名掲示板に書き込んでくれる程のmamiさんなのだから、おれの名前を検索して見つけてくれる事は充分に有り得る。
そうしたら、きっと彼女の方からフォロー申請してきてくれる事だろう。
おれは早速慣れないツイッターを、小説家としてのペンネームを使ってやってみる事にした。
なるべく頻繁に、今日の夕食とか好きな映画についてとかを写真付きでつぶやき続けた。
1ヶ月経った。mamiさんからのフォロー申請は無い。
それどころかこの間に出来たフォロワさんは9名である。
皆、匿名掲示板には書き込めても自分を出すのは嫌なんだろうか。
それとも、検索まではしてないという事だろうか。
掲示板に
「おい、亜流タイルがツイッター始めてる。」
とか書き込んでこようかと思ったが、途中で思い当たった。
そもそも彼女はツイッターをやっていないのかもしれない。
そうだ、mamiさんはブログ派なんだっけ。ブログをやって、格好悪いがその事を何気なく掲示板に宣伝しに行こう。
もちろん他人を装いつつ。
まさか引きこもりのおれがこんなに積極的になれるだ等と、恋の力は偉大だった。
おれはブログに、好きな本や動画サイトのオススメ動画等を、ツイッターよりもより詳細に書き連ねた。
ついでに、飼っている犬の写真なんかも載せたりした。
2ヶ月経った。mamiさんはおろか誰からもメッセージが無い。
馬鹿な事を書いて炎上する有名人が羨ましいくらいである。
mamiさんのブログの方も相変わらず更新が止まったままだ。
匿名掲示板も殆ど書き込みがなくなった。もう荒らしさえいない。
思えば、ブログの宣伝をしたくらいから書き込みがますます少なくなったような気がする。
読者の人に、
「こいつ、自分のトピックをチェックしてんのかよ。気持ち悪っ。」
とか思われている、つまり本人だと見透かされているのだろうか。
普通は、本人が来たら騒ぎになるもんだと思うのだが、おれは違うタイプの作家らしい。
「何してんだろ、おれ。」
顔も見えない、本当に女性なのかどうかも分かったもんじゃないパソコンの向こうの相手に恋して、1日中パソコンの画面に釘付けになっている。
ーー仕事もせずに。
もう、止めよう。
おれはそう思った。
最後に、悪夢なのか良い夢なのか、とにかく夢を見させてくれたmamiさんのブログをチェックしに行ってみた。すると……。
更新されていた。
そこには簡潔に、
「私も犬が好きです。」
「スターウオーズも、おうどんも。」
「動画、面白いですね=(^.^)=」
と、書かれていた。それらは全て、おれのツイッターとブログの内容に呼応しているかのようだった。
急いで、ツイッターに
「やっぱりウチの犬サイコー!」
と、つぶやいた。
30分後くらいに、mamiさんのブログを見に行ってみる。すると、
「レトリバーは超可愛犬!!」
というエントリーが、さっきのおれのツイッター更新16分後に書かれていた。
ちなみにウチの犬、タローはゴールデンレトリバーちゃんである。
間違いない、彼女はおれのツイッターやブログをチェックしているのだ。
元々mamiさんに勝手に恋をして繋がりを持ちたいと望んだのはおれの方だったから、この状況はぜんぜん怖くなんてなかった。
どんな形であれレスポンスを返してくれるのは嬉しいのだ。
おれも相当ヤンデレだ。
だけど、どうしてmamiさんがこんな手間のかかるやり方をするのかが分からなかった。
……って、それこそおれの方がだ。
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