15話:打ち倒せ魔王の脅威
日の落ちたフォレッタ領に薄闇の
人の手で生まれた狭間の世界、とりわけデッドスポットに命の匂いはない。この地で生命活動を許されるのはマナの毒を浄化できる魔法使いだけだ。
人気と需要の高さに反する形で放棄された土地。生活者がいなければ、それに必要な一切合切は切り捨てられる。日中帯こそわずかな光量があれど、夜は世界そのものが死んでしまう。
精霊の恩恵の一つ、強化型魔法によって増幅された身体能力がなければ、歩けもしない。そんな中を、四つの足音が静寂な大地を蹴り進んでいた。
「それじゃあ、作戦の最終確認をするよ。まず、前回の戦いから予測するに、魔王の
作戦会議で採択された魔王討伐の概要は至ってシンプルだ。
全ての魔物には弱点があり、魔貴であろうと魔王であろうとそれは変わらないというのがアイヴィーの談である。
人間に心臓があるように魔物の体内には動力機関の魔石が埋め込まれている。ここを砕きさえすれば、いかに魔王と言えども生命活動を停止するのだ。問題は、どうやってあの分厚い体表を貫くのか、ということだ。
仮にも魔王は、アイヴィーのレベル8に耐えた。しかし、そこは、ユイの
ざっくり言ってしまえば、形状維持投擲である
これを克服し、ほぼ無限に攻撃力だけを高められることに成功したのがユイの生み出した
ユイは最大で三十本まで同時に束ねることに成功したことがあるそうなのだが、集中力の問題で十分間身動きが取れなくなる。だが、仮に最大数まで
これを確実に直撃させるため、
「でも、本当に大丈夫なんですか?」
不安がるショウの言葉に、アイヴィーは憤慨した。
「これでも魔導試験は近接戦闘でA級大魔導士まで上がったんだかんね!?」
そう〝キサとアイヴィーの二人で近接による
現に口には出さないが、キサもユイも作戦に穴があるとすれば、そこだと思っていた。
「その顔信じてないでしょ!? 言っとくけど、本気出したら私だって
本人はこう言うが、事実信じがたいのだ。
「はぁ……」
「ぐぬぬぬ……見てなよ。絶対度肝抜かせてやる……」
いまいち信用の無い返事に、本来の目的からズレた形でアイヴィーが闘志を燃やす。
作戦会議で相当時間を取られたのは事実だが、ユイの持ってきていた修練用の雷の指輪を借りることで四人は高速移動していた。このペースなら南
最初に視界に捉えたのは、視力が最も高いショウだった。
「見えた。魔王だ。距離は六キロメートルくらいかな」
「あんた、本当にその距離で見えるのね……この暗闇で見えるってどれだけ視力良いのよ……」
嘆息するキサに、アイヴィーとユイは揃って首肯した。
時刻は午後七時を回ろうかという時分。すでに太陽の火は消滅し、辺りは暗闇に満ちていた。視界の利かない中、無事に行動できているのは、ひとえに強化型で底上げされている身体能力向上あってのものである。
「んで、ショウ坊、捜索隊はいる?」
「ここから見た感じだといないです。交戦前にこっちが魔王と接触できたのは良いですけど、理想は捜索隊と鉢合わせだったんですけどね」
「理想はそうだけどねー。ともかく魔王との交戦は避けられないってことだね。なら、このまま魔王の
「わかりました」
ショウが魔王を発見してからは、直線距離を移動し残りのメンバーも肉眼で捉えられる位置まで接近した。
先頭を走るアイヴィーはショウに目配せし、戦闘の合図を送る。これに対して、ショウは一つ頷くと、唯一施していた発動条件のオプションである両手を打つという行動を取った。
手のひらを叩くことで空気が弾け、乾いた音が契機となり三人の女性の背中に施された強化魔法が発動する。
五百メートル圏内に足を踏み入れた瞬間、南下していた魔王の動きが止まった。気配を察知したか、魔法に反応したのかは定かではないが、反転し四人と一体の視線が交差する。
実力差に胡坐をかき、手を出してこなかった初顔合わせの時とは違い、すでに敵として見定められていたのか、魔王の口が開く。唯一の遠距離攻撃である魔砲が放たれる――そう、思われたが、それすら準備万端の四人にとっては遅すぎた。すでにショウとキサは魔法剣を手にし、左右に飛び出したあとだ。
三手に分かれたことで魔王は攻撃を中断する。左右の濃緑と額の赤い瞳がギョロギョロと動き誰を攻撃するのかを決めかねる。
そこへ、魔王の左側から強大な魔力が迸った。
「《
ショウは一度全ての
都合、五つの上級強化型により、ショウの身体能力はレベル6を遥かに超越した。
魔王がショウを最も危険だと認識し、腕を振り上げ――見失う。
瞬発力特化の雷属性をも置き去りにするだけの超高速を伴い、ショウは魔王へ急接近したかと思えば、そのまま股下を抜け背後を取る。
攻撃力に特化したことによる、力尽くの超高速移動である。
完全に死角を突いたショウは、膝を折り力を溜める。全力の垂直飛びにより、八メートルもの高さに達したショウは、両手で握った
深々と突き刺さる紫紺の刃を緑の血が濡らす。
同時に、ノイズ音が鼓膜に届いた。魔王の硬い皮膚と、それをも貫くショウの腕力に挟まれた
空中で身動きの取れないショウへの反撃を試みようとした魔王だったが、予期せぬ衝撃が腹部を直撃する。
「
素早く片手持ちに切り替え、左腕からの必殺技を撃ち込んだ。
マナ滞留率の関係で、深層域のデッドスポットで放った時より威力は落ちるが、ショウの最大火力に、さしもの魔王も、その体躯をくの字に折れ曲がらせる。
その間に着地を済ませたショウは地を蹴り後方へと離脱する。
そこに魔王の足に黒い
「最大生命力からの強制割合ダメージ」
アイヴィーの普段着は、高確率で黒地に
よく誤解されるのだが、生属性とは回復魔法を指すのではない。生殺与奪を操作する力なのだ。
生命力の低い人間相手では何の役にも立たないが、魔王ほどの耐久力なら話は変わる。
アイヴィーはめり込ませた指に力を込め、全力で引っ張った。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
初めて魔王が絶叫を上げた。
骨と共に足の筋肉が引きちぎられ、大量の血をぶちまける。
「アイヴィーさん離れて!」
ショウに言われずとも、アイヴィーとてまともにやり合う気はさらさらない。
だが、元来魔力操作が苦手なアイヴィーはA級大魔導士では唯一三次元移動技術を持っていなかった。そのため、ショウ同様、地上戦が主戦場となる。そうなれば、いかに機動力が低い魔王といえど、捕まるのは時間の問題だ。
しかし、ショウはわが目を疑う光景に思考が止まりかける。
アイヴィーが空を飛んだのだ。
「え……いくらなんでも、それは嘘だろ……」
手にした杖を地面に向け、噴射される水の勢いを利用して空を舞う。魔王の迫りくる剛腕を右、左と発射される水圧で逆方向へ回避していく。
放出系の推進力を利用した飛行理論自体は存在する。事実、魔導試験などでも緊急回避として用いられ、有用さという実績も数多ある。だが、それを連発し三次元技術の代わりにするなど聞いたことも見たこともない。
ひとえに魔力効率が悪すぎるのだ。それもこれも、常人を遥かに上回る魔力総量を持つアイヴィーだからこそできる技なのだろう。
完全に
そこへ、準備に手間取っていたキサが超高層から落下した。
実に三百メートルもの高さまで駆け上がっていたキサは、頂上で反転。蹴り込んだ反動を乗せ必殺技の
まるで隕石が衝突したかの如きけたたましい轟音と衝撃波をまき散らす。
時間をかけただけあり、その威力には目を見張るものがあった。あの魔王がたった一撃で片膝と両手を地面につけ、頭蓋骨がひび割れたのだ。キサも相応の代償を負ったのか左脚からは血が滴り落ちる。
動きが止まったのを好機と判断したアイヴィーが次の一手を打つ。
「
杖を持っていない左手が突き出された。手のひらには、極端に明度の落ちた光が禍々しく灯っている。
生属性の特性は強制ダメージ。対象の強さに左右されず、常に一定のダメージを強要する。
魔法が発動した瞬間、魔王の全身から
白い靄の正体は魔王の生命力そのものであり、吸収したアイヴィーの体力、魔力が充実していく。攻撃と回復を同時にこなす生属性の放出型。
魔力発勁で右脚を、そして
「ちょ、アイヴィーさん、もうちょっと遠慮して!」
急造のパーティーにしては、連携はうまくいっているように見えたが、やはりそこは何事も万全とはいかなかった。明らかに魔王はアイヴィーだけを狙っている。
「ショウ、ちょっとデカいの撃って注意引きつけられないの!?」
「無茶言うな! こんだけ動き回られると
中距離を維持しようとするアイヴィーに対し、魔王は逃さぬと距離を詰める。キサはそれでも対応できるが、ショウは魔王の足に取り付く位置取りの関係上、常にストンプ攻撃を警戒しなければならない。この状況では、溜めを必要とする魔力発勁も波状衝破も撃てない。
「あれー、なんか私だけ狙われてない?」
割と呑気なアイヴィーだが、全部自業自得だ。開戦前の度肝を抜くという言葉を実行してのけたことが裏目に出ていた。
魔王の生命力があまりにも高すぎたのだ。生属性の割合ダメージが相対的なレベルアップを遂げ、体感的にレベル8級の威力になっている。攻撃すればするほど、ますます魔王はアイヴィーの脅威を放っておくことはない。
「キサこそ
「ムリに決まってるでしょ!」
怒鳴り返すキサの言う通り、今はどちらも撃てないのだ。現在キサは、風雷剣の維持に、雷と風、そして三次元移動に闇属性の三種類の魔法を
「無理も何も、そもそも
「臨機応変に対応しろって言ってんのよ! 状況見て言いなさいよ!」
「
「うっさいわね! そんなことは分かってんのよ!」
今はまだ機能しているから良いものの、仮にここでアイヴィーが戦線から離脱しようものなら、キサ一人で魔王の
何より、
そこへ魔力が少なくなってきたアイヴィーが、回復のため
「「アイヴィーさん、本当に攻撃止めて!!」」
連携は悪くなかった。作戦内容も悪くなかった。誤算は火力に差がありすぎたことだ。同じだけ攻撃すれば、アイヴィーだけが狙われる。こうなると魔王も、他のパーティーメンバーも逃げるアイヴィーを追いかけなければならなくなり、結果、連携が破綻する。むしろ、もう破綻していた。
ほとんど追いかけっこ状態だ。
「二人共無理言うなー。攻撃しないと私回避間に合わないんだよー?」
アイヴィーの言うことも最もだ。彼女の
「マジどうするんだよ、これ!? ユイさん交えて一回体制立て直した方が良くないか!?」
「ここまでの
怒鳴り合いながら、ショウとキサはそれぞれ剣を一閃し、魔王の皮膚を破る。その間にも、アイヴィーが更に三発の水砲を叩きこんだ。
「こうなったら仕方ない、アイヴィーさんイチかバチか魔王の腕に捕まって!」
「ショウ坊お前、それ私に死ねって言ってるようなもんだよ!?」
「他に方法ないでしょう!!」
振り回されるたびに風を切る魔王の剛腕に
「あー、うーん、ごめんショウ坊、無理だね」
「近接戦闘でA級大魔導士に上がったって言ってた話は何なの、この意気地なし!!」
このままでは本当に作戦が失敗する可能性が高かった。例えユイの荷電砲が完成したとしても、命中させる土壌が整っていなければ徒労に終わる。
徐々にユイから離れているのも不利に働いている。最大射程三.二キロメートルというのはあくまで全ての条件が整っていることが前提の話なのだ。太陽が落ち、強化型で底上げされている暗視能力が頼りな今、これだけの距離を命中させるのは、ユイの腕を以ってしても不可能。
特に
当初三百メートルの距離に陣取っていたユイだが、アイヴィーが攻撃を回避するのに動き回り、すでに七百メートルは離れていた。
「ああーもう、仕方ないわね! 計画は一旦白紙に戻すわよ。ユイさんの荷電砲で弱らせたところで一気に離脱!!」
「普通に、それしかないよ!!」
二人の意思は固まり、アイヴィーへ憎悪の念を飛ばした。
「私のせい!?」
などとのたうち回るがそれ以外何があるというのか。
一時離脱が決まったところで、問題はアイヴィーと魔王の位置取りである。このままユイが荷電砲を撃てば、アイヴィーを巻き込む公算が高い。どうしても魔王に正面を向いてもらわなければならない。
「キサ少しだけ離れるから任せた」
「さっさとしなさいよ」
ショウは魔王から離れ体内の力の流れを制御する。過去二度の不十分な態勢から放った時とは違う正真正銘、最大威力の波状衝破。十分な溜めから繰り出される一撃は大気中のマナを揺らし、一瞬だけだが魔王の動きを止めた。
「私が足止めするから今のうちに離れて!」
「ありがとう助かったよ」
「ハァッ!!」
アイヴィーを追って転進する魔王にキサの鋭い
「これだけ無視されると本当にムカつくわね!」
振りかぶった二本の剣を交差し、十字の斬撃を浴びせる。しかし、魔王にとっては攻撃ではあるが脅威にはなり得なかった。キサのプライドはズタズタもいいところである。
「ユイさーん! 撤退しまーーーす!!」
牽制を入れつつ、魔王を引き連れユイに向かって駆けだした。
逃げ出してくる三人を見つつ、ユイは二十四本目の
この感覚こそがユイがA級大魔導士のランキング一位である所以だ。
魔法とは心の強さによってその威力に影響を及ぼす。信じることこそが魔法使いを魔法使いたらしめる。
「魔王の核は胸の中心部分――」
確実に命中させるためには、百メートル圏内まで引き寄せる必要があった。
「ユイさん、何で撃たないんだ?」
「もしかして、まだ倒すつもりでいるんじゃ……」
「あー、ユイっちって意外と頑固なとこあるからねー」
意識の不一致に戸惑いを隠せなかった。ここまで接近した状態では、仮にもう一度作戦を続行したとしても、ユイが戦闘に巻き込まれる確率が高い。どうするかと、各々が逡巡する中、ユイはただ一点、魔王の胸の角度と距離のみに意識を向けていた。
「残り五歩、四歩、三歩、二歩……」
地響きを上げ近づく魔王の歩幅から、ユイは予め荷電砲を撃ちこむ位置を決めていた。
「ここ」
静かに発した声に乗せ、二十五本にまで増やした
『ガアッ!?』
魔王の身体が浮き宙を舞う。
一度、二度、三度とバウンドを繰り返す。
「倒した……?」
呆けるショウの言葉に、アイヴィーは即座に否定した。
「ダメだね。核を貫いたらガラス玉が割れるような音がするんだよ」
「そうか、仕方ない、撤退だ」
さすがのユイも戦闘続行を断念した。作戦失敗もそうだが、膨れ上がる矢の魔力を長時間押さえつけていたことで右手がもう使い物にならなくなったのだ。現状一番の足手まといになるとの冷静な分析からくる判断である。
強烈な一撃を受けた魔王は起き上がることすら出来ずうつ伏せのまま、僅かに身体を
「あれが来る!」
後ろを振り返るキサが叫び、残りの三人が遅れて反応した。
大きく開いた魔王の口腔上に魔力の塊が収束していく。超高射程、高威力の魔砲。絶対に逃がさないという魔王の意思表示。
位置取り的に、あの高速で飛ぶ魔砲は避けられない。一瞬の判断ミスが死に繋がる。この刹那の中、四人は全く同時に、魔王の胸が視界に入った。
ユイの一撃を受け、砕くまでに至らなかったものの体表を失い剥き出しになった赤い核が露出している様を。
賢者に必要なのは強さではない。敵に勝つという絶対的な結果である。
勝機を見失わないという先天的に備わったその才能を、ここにいる四人は揃って持ち合わせていた。計算や確率ではない。本能が〝ここしかない〟と訴える。
「「「「総攻撃!!」」」」
考えるより早く、口が動いていた。
キサとアイヴィーが駆け出し、ショウが一人右方向へと高速移動する。
「そのまま突っ込め!!」
ウエストポーチから、事前に用意していたある物を取り出し、ショウが全力で放る。
魔砲に飲み込まれる刹那、ショウの投げた手のひらサイズの岩盤が光を放つ。
ショウから一定距離離れることで発動するという契機を刻み込んだそれは、半径五百メートル圏内のマナを徴収するよう施した
「魔砲の対策くらいしてきてるってんだよ!」
しかし、一つだけ欠点があった。
だからこそ、最初に動いたのはアイヴィーだった。
「《死霊の王よ・贄に捧げし力を開放せよ》」
アイヴィーが左手を上に向けると、
放つはアイヴィーが得意とする
単発で撃てば魔王に掠り傷一つ付けられない攻撃だが、あの魔王から吸収した莫大な魔力を動力して放つ一撃だ。通常の魔法とはわけが違う。
「ハイドロキャノン!!」
ダムの決壊時に見られる水鉄砲。まさに水の悪夢と形容されるべきそれは、魔王の身長を軽々超えるだけの直径を以って襲いかかった。
水の勢いに飲まれ無理やり起こされた格好だったが、しかし、魔王は転倒を拒み受け止める。
巨大な体躯を押し込む暴力的な水の奔流に抗い、魔王の足が地面にめり込み、二本の線を刻み込みならが押し込んでいく。
マナ滞留率は、魔法がその効果を失い霧散することで大気中に満ちる。
アイヴィーの魔法はまだ発動中だったが、それでもマナが満ちていく感覚をユイは見逃さなかった。
「《
震える右手の人差し指と中指で雷の矢を挟み込む。
「《
中指と薬指の間に炎の矢が現れる。更に――
「《
風の矢を装着し、都合三本の矢を同時に構えた。
キサに
「トリプルアロー!!」
貫通特化の雷、攻撃力特化の火、切断特化の風という三種類の矢が交わり剥き出しになった魔王の核を穿った。
僅かに、だが確実に魔王が苦痛の表情に歪み、核にひびが入る。
キサが一人魔王へと接近する。
全力疾走で握るは二本の風雷剣。キサの最大火力は
「ライトニング――」
駆け抜ける速度を右腕に乗せ、一本目を投じる。勢いで上半身を捻った状態から、体位を戻す反動で放つ下手投げの二投目。
「――ジャベリンッ!!」
二本の豪槍が魔王に向かって行くが、命中率が悪かった。火力を追求したがゆえの欠点が核から遠く離れ決定的な一撃を与えるに至らなかった――というのが考えうる結末であっただろう。しかし、キサは違う。キサだけは違う。攻撃力以外を犠牲にしたからこそ得られた力を、無慈悲なまでに敵に叩き込む術を持っていた。
直撃からはほど遠い角度で飛来していく風雷剣だったが、曲線を描き魔王の核へ向かって進路を変更した。
キサの固有技術、形状遠隔維持操作。その発展応用――必中雷撃砲弾。
上下から挟み込む形で、炸裂し、空気が弾け飛ぶ。衝撃波が最後尾のユイにすら届くほどの大火力で核に致命的な傷を負わせる。
『ガ……ガッ……』
魔王の目の光が失われていく。それでも倒れないのはまだ核が砕けていないからである。
三人が気力を振り絞って撃ち込んだ必殺技でも倒せない様に、それでもまだ誰も諦めていなかった。まだ、もう一人、攻撃に参加してない気力十分な魔法使いがいたからだ。
「全員伏せろ!!」
ショウは魔王に向かって行ってはいなかった。ただ一人、魔砲を吸収した岩盤を追いかけていたのだ。
空中で受け止めたそれを、魔王に向かって投げつける。
実は一つ細工をしていたのだ。通常の
デッドスポットというマナ滞留率の高いこの場所で、半径五百メートル圏内のマナを保有した岩盤。当然、こんな石ころで抑え込めるような代物ではない。なら、どうなるのかと言えば――
魔王の目前まで飛来した岩盤は、遂に形状を維持できなくなり、ひび割れる。
「取って置きの
コツンと、もはや人間すら殺せない程度の衝撃で魔王の皮膚を叩く。それが最後の抵抗を諦め、マナを開放させるには十分な威力だった。
風の爆弾ならぬ、マナの爆弾。弾け飛ぶマナの直撃を受け、魔王の核は遂に砕け散った。
乾いた音がデッドスポット内に響き渡り、魔王は仰向けになって倒れ込む。
粉塵が巻き上がり、ひと時の静寂が訪れる。
「勝った……勝ったああああ!!」
感極まって思わずガッツポーズを取ったショウは果たして子供っぽかっただろうか。否、これだけの激戦の末の勝利である。誰だって歓喜に満ちるというものだ。
少し離れた位置で、アイヴィーがペタンっと座り込む。
「ふぃー、もう当分勘弁して欲しいや」
なんだかんだで最も危険に晒されていたアイヴィーがそんな弱音を吐く。
そして、遅れて、ショウは気づいた。
「キサ……?」
魔王だけではなかった。
倒れたまま起き上がらない少女に緊張が走った――
そして――
離れた位置から見ていた女性が花飾りの中に仕込んでいたスイッチに触れる。
「ユイです。
物語はこれで終わってはくれなかった。全ては何も始まっていなかったのだ……
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