イチカワ スイ

ある日大きな箱が突然丘に現れました。


初めに箱を見つけたのは泣き虫の子供でした。

子供は泣きながら箱に近づきました。


すると箱は子供をぱくんと喰べてしまいました。


また一人世界は優しく幸せだと言わんばかりの笑顔の子供が来ました。

箱の周りをくるくると踊りながらながら眺め、ついに箱に近づきました。


すると箱は笑ったままの子供をぱくんと喰べてしまいました。


次に考えてばかりの男が来ました。

男は丘に現れた箱を不思議に思い考えて初めました。

色々なことを想定し、仮定しましたが、結論は出ませんでした。

箱を開ければ何か変わるのではないかと考え箱に手を伸ばしました。


すると箱は考えてばかりの男をぱくんと喰べてしまいました。


それらを偶然見てしまった女は急いで村に戻り人を呼びに行きましたが、村人は収穫の時期で忙しかったので誰も話を聞いてくれません。

しかし一人だけ、女の優しい兄が話を聞いてくれました。急いで二人は丘に行くと、優しい兄はどんどん箱に近づいていきます。

女は箱に触れるなと泣き叫びましたが、優しい兄は首を振って言いました。


「俺が中で閉めているからお前は俺が喰われたらこの箱に何重にも鍵をかけ、縄で縛り、地中深くに埋めるんだ。」


すると箱は女の優しい兄をぱくんと喰べてしまいました。女は泣きました。しかし女は自分の涙が、悲しさが本当に存在するのか解りませんでした。

優しい兄の言葉を守るため、女は泣きながら箱に鍵をかけ始めました。何重にも何重にも。其れから縄で何度も何度も縛り、3日かけて掘った深い深い土の闇の底に箱を入れ埋めてしまいました。

箱は女を喰べる事はありませんでした。

しかし女から真実をぱくんと喰べてしまっていました。



嘘つき女は謡います。

嘘つきなので真実ではありませんでしたが、嘘つき女は死ぬまで延々と丘の上で謡います。



恐ろしい兄を喰べた優しい箱の謡を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イチカワ スイ @ku-si

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ