ケモ耳娘捕まえました

「なぁ、アズキ……。どうして俺も一緒なんだ?」

 

 私達は今、魚屋さんのお家で張り込みをしている。

 横で囁いてくる春斗さんに人指す指を立てて静かにとジェスチャーを出しながら、お店を見張り続ける。魚屋さんのお家は、お店の上にあるのだ。

 

「春斗さんも、しっかり見張っててください」

 

「お、俺の有給……」

 

 尚、春斗さんには有給休暇を取って貰っています。私のお仕事を手伝わせてしまったことの埋め合わせは、後で必ずしましょう。もちろん、本人には内緒ですけどね。

 

「しっかし、どうしてこうなった……」

 

「ですから、先程説明したじゃないですか」

 

 そう、それは昨日起こった事件がきっかけだった。

 

 

 

 

 

 ー1日前ー

 

 私は普段通り、食器洗い等の家事を済ませてから魚屋さんへ向かう。

 昨日お休みを貰い、春斗さんと戯れた分、今日はやる気に満ちているのだ!

 魚屋さんがある裏路地に足を踏み入れると、何やら違和感を感じた。

 

「今日は猫がいないですね……?」

 

 普段はいたはずの猫が一匹残らずいなくなっているのだ。

 魚屋さんや近所の方が追い払ってくれたのだろうか……?

 疑問に思いながら私は足を進める。

 

「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

 

「ああ、おはようお嬢ちゃん」

 

 店にたどり着き、既に品出しを開始していた魚屋さんに挨拶をすると、笑顔で応答してくれた。

 しかし、その笑顔は無理矢理作ったような、ぎこちないものだった。

 何か隠しているのでしょうか……?いや、ただのバイトの私に自分に起きたこと全てを話すのはおかしいですが……

 仕事の事なのか、私事なのかが分からないので、迂闊に訊ねる事も躊躇われる。

 いや、もしも私事ならば、訊ねた時に回答をしないのではないか?やはりここは訊ねるべきだ。

 大丈夫!魚屋さんは優しい人です。きっと教えてくれますよ!

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「ん?ああ、実は昨日例の泥棒に魚を盗られちまってな」

 

 なるほど、そんな事が……

 

「って!えぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 ー現在ー

 

「と言う訳です。理解しましたか?」

 

「理解はしたが納得はしてない」

 

 まだブツブツと有給について呟いている。

 本当に、この人は女の子慣れしてないと言うか、察しが悪いというか……。こんなのだから彼女いない歴=年齢の童貞なんですよ。

 私が春斗さんにも来てもらった理由なんて、1つしか無いのに……

 私は春斗さんの横顔を横目で見る。

 早く帰りたいからか、外を凝視している為幸い私の視線には気づいていない。

 ……この横顔を、いつまでも側で見ていたい。

 いつからだろうか。本気でこんな事を考え始めたのは……。

 最初は飼い主としては好きだった。優しくて、一緒にいて楽しい存在だった。

 でも、一緒に暮らしてから、ほんの少しの時間で変わってしまった。

 私は、この人の為なら……

 

「おい、アズキ!」

 

 不意に呼ばれて、つい驚いてしまった……

 

「はい、どうしました?」

 

「なんでお前そんな顔真っ赤なの……?いや、そんな事より、あれを見ろよ!」

 

 春斗さんが指さすのは窓の外。魚屋さんの目の前だ。

 そこに1人の人物が立っていた。

 黒いパーカーを着用し、そのフードを深く被っているためその顔を見ることが出来ない。

 しかし、その人物は女性物のハーフパンツを着用している事から、恐らく女の子だと推測される。

 

「とりあえず、待ちましょう……犯行に及んだらすぐに動きます」

 

 少女(推測)は1度辺りを見渡した後、2匹の魚を持って走り去った。

 

「!結構大胆ですね……!」

 

 私は窓を開け、ベランダから飛び降りようと……

 

「アズキ」

 

「はい?」

 

「頑張れよ」

 

 春斗さんの言葉に、笑顔を返してから私はベランダから飛び降りた。

 少女は既に100m程離れてしまっている。これ以上行かれると、裏路地から抜けられてしまい、見失ってしまう。

 

「ですが、チーターとか馬とか、そこら辺のチートじみた動物以外にワンちゃんが直線で負けるなんて思わないでください!」

 

 地面に着地すると同時に膝を曲げて衝撃を和らげ、力強く地面を蹴った。

 一歩ずつ足に込める力が強くなり、どんどん加速していくのが分かる。

 そして、徐々に少女の背中が近づき……

 

「捕まえましたぁ!」

 

 私は少女の肩を掴み、捕らえることに成功した

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