第19話 解けない時は解けない

 前話の冒頭のポーカーのくだりは必要だったのか?というツッコミが聞こえてきそうな今日この頃、九死に一生を得た承董はピューッ!と駆けだすように自宅に帰って来ていた。


 彼は帰るとすぐに書斎に向かった。

 書斎には無数の本棚の他に一卓の机があり、彼は机の前の椅子に腰かけると、机の上に玉帯を置き、その裏表を調べてみた。


「はてな? 何事もないぞ?」


 表も裏も特に異常は見られない。

 如何いかにも貴族の連中が好きそうな装飾が施されている点以外は、おかしな点は見てとれなかった。


「わしの思い過ごしか?」


 深読みすることは誰にでもある。

 決めつけてしまうことは誰にでもある。

 それが今日、自分に当てはまってしまったのか?と、彼は手に持ち調べていた玉帯を机の上に丁寧に置きなおした。

 しかし・・・


「・・・やはり気になる。」


 どうしても合点がいかない彼は、調べては止め、調べては止めを繰り返し、その日が終わっても、明くる日の夜に再度調べるということを続けた。



 ―――それから五日が経ちました。


「あ~もうわからん!!」


 承董はその夜も机に向い、頬杖ほおづえをついて悩んでいた。


(ゼルダじゃあるまいし、謎解きを強制させるなよ。作者はともかく、わしは謎解きが嫌いじゃ。それに・・・そもそも本当にこの玉帯に謎があるのか?それすらも疑わしくなってきおったわい。)


 謎があるのか分からないモノの謎を解こうとしている。

 そんな自分に、彼は嫌気がさし始めて来ていた。

 その後、一刻、一刻と時間が経つにつれ、いらだちと疲れからか、彼は瞼が重くなってきた。

 やがて彼は、うつらうつらと居眠りを始めてしまった。


 彼が眠りこけて幾何か経過した頃、かたわらの蝋燭が洩れてくる風に揺られてパタリと倒れた。


「・・・・・・・・・」


 承董はそんな事に気付かずに眠りこけていたが、やがて、彼の鼻に異臭が立ち込めてきた。

 驚いて眼をさまし、見渡すと、蝋燭の先端、すらわち蝋燭の燈火が、玉帯の上に落ちて、それを焦がしていたのであった。


「し、しゃあったーーーー!!!」


 彼は手で慌てて揉み消したが、玉帯には親指の頭ぐらいの小さな焦穴こげあなが空いてしまっていた。


「畏れ多いことをした。」


 穴は小さいが、事は大きい。

 大きな罪でも犯したかのように、彼は眠気もさえて、焦穴を凝視していた――――が、畏れる瞳が輝きを帯び始めたのであった。

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