第20話 最期まで働こう

 五日に渡る調査の末、承董はついにを見つけた。

 焦げた穴より白書が見える。さらにその白書は血が滲んでいるようにも見える。

 胸が高鳴る。ドッキドキである。

 不安と期待が織り交じる中、彼は小刀を取り出して、玉帯の縫い目を切り開いた。


「これは・・・帝からの密書だ!!」


 切り開いて得た書を見て、彼は声を震わせた。

 献帝(けんてい)の異名を持ち権力を自在に操れない高貴なる男性皇帝が、自身の血を塗料として描いた書。

 密書中の密書、『THE・密書』を手にした彼は、火をきって、敬礼をほどこして読み始めた。



朕は聞きたい。君に聞きたい。

最近の曹操さぁ・・・調子こいてない?

目に見えて態度悪いしさぁ・・・あいつ、朕をなめてない?

ぶっちゃけ馬鹿にしてるよね、朕の事。


まつりごとって本来は朕の役目じゃん?

でも最近、曹操の一味が執り行ってるじゃん?

えっ?これどういうことなの?なんで朕の役目を曹操がになってんの?

意味不明なんだけど・・・しかも反対できないしさ・・・あいつマジで調子こき過ぎだよ。

世を動かす権力を築き上げたのは朕の一族のはずだろ?

なんでその偉業を曹操が横取りしてんだって話なんですけど。


この間の狩りの時もさぁ・・・何なのアレ?何でアイツあんな態度とったの?意味不明だよね。理解不能だよね。馬鹿にし過ぎだよね、朕の事。

ぶっちゃけ殴りたかったよ、曹操の奴を。でもさ、でもさ、殴ると大事じゃん?朕はともかくお前たちが危ないじゃん?だから殴れなかったわけよ。

わかる?ねぇわかる?この朕の気持ち?


『王様なのに家臣に媚び売る情けなさ。』


この気持ちがお前達にわかる?まぁ分かって欲しくはないけどさぁ・・・わかる?理解してる?本当にわかってくれてる?


理解してるなら行動してくれよ~~!マジでよ~~~!何やってんだよ~~!お前たちよ~~~!頼むから動いてくれよ~~!曹操を殴ってくれよ~~~!朕の代わりによ~~~!!


お前達は長年、朕のために働いてくれてるよね?

でもって、これからも朕のために働いて欲しい訳よ。

忠義の士を集めて奸雄かんゆうをぶっ殺して血祭りに上げて、朝廷の権力を取り戻して、また昔のように楽しく暮らそうよ。


そう!それが一番素晴らしい!!


ってなわけで、朕は指を斬って得た血でこれを記したわけである。


以上!承董!後は任せた!君には期待しているぞ!!


P.S.

もしこの暗殺計画が曹操にバレたとしても、朕は責任を一切取るつもりはないので、自己責任でお願いね(^^)ニコ.



「・・・・ううう。」


 手紙を読んで承董は泣いた。

 伏して拝んだまましばし面も上げれなかった。


(かほどまでに帝が苦しんでいたというのにわしは・・・!!)


 自分の愚かさに腹が立つ!煮えくり返る!ボルケーノ!!


 『怒』


 怒怒怒怒怒怒怒!と怒りの言葉が彼の胸中で渦巻くと同時に、彼は誓った。


(もう十分長生きはした。惜しい命ではない。―――最期にこの老骨で、曹操の首をへし折ってやろう!!)


 曹操暗殺を誓った承董。

 しかし、事は容易ではない。

 彼は決意を胸に秘め、血の密書をたもとに入れると、書院を出たのであった。

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