第16話 先祖の威を借りない

 左右の壁間には歴代の皇帝たちの肖像画が並んでいる。

 その中でもとりわけ大きく描かれている人物がいた。


 漢の高祖『劉邦りゅうほう』である。


 漢王朝の全ての原点、始祖である劉邦の壁画の前に帝は立つと、彼は承董に問われた。


「朕が先祖は、何処から身を起こし、そしてこの建業を成したのか? それを述べて見よ。」


 この下問に承董は酷く驚いた。


(子供でも知っている高祖の成り上がり話を自分に話させるのか?)


 驚きの表情を表に見せた承董に、帝は、


「・・・すみやかに説け。」


 と厳粛に言われた。

 この重い言葉に彼は二の言葉が出ず、やむなく命令通りに述べ始めた。



むかし、むかし、遥か西の泗上しじょうという地に劉邦という若者がおったそうな。


その若者は、何か良くわからんけど、白蛇を芒蕩山ぼうとうざんにて剣で斬り殺し、義兵を挙げて、大乱の世に身を投じたそうな。


若者は乱世を縦横し、三年かけて秦を滅ぼし、五年目で楚をたいらげ、大漢四百年の治を開いたそうな。


そしてその後、そんなこんなでそうなって、今の世に繋がったというわけだそうな。


・・・お終い!



 承董が述べ終わると、帝は、


「シクシクシクシクシク・・・・・・」


 と、お涙をたられた。

 それを見た承董は、


「へ、陛下、どうかなさいましたか?」


 と、おそる畏る伺うと、帝はε=('A` )ハァと嘆息をして言われた。


「いやな、今、御身が説かれた様に、朕は偉大な先祖をもっているわけだ。」


「しかし、朕はどうだ? 朕は偉大か?壮大か?神か?天才か?」


「否。朕は惰弱だじゃくだ。まことのダメ人間だ。」


「何故このようなダメなモノが生まれてまったのかと、朕は朕をチンでチンしてチンしたいと悲しむのである。」


「―――承董よ。こんなダメな私だが、これからも朕のために尽くしてくれ。これはその報いだ。」


 そう言って帝は、準備していた玉帯を彼に手渡したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る